東大を出て南陽市の地域おこし協力隊として移住してきた若者が、協力隊としての任務を終えた後、新しいスタイルの学習塾を立ち上げ、子どもたちに学ぶことの本質とその楽しさを伝えながら、AI技術と教育で地域を変えようと奮闘している。

山形で働く20代のリアルな姿を伝えるこのコーナー。
みんな、どんな仕事をして、どんなことで悩んで、どんな夢を持っているの?
社会人としてのこれからが楽しみな20代に、突撃インタビュー!!ヤマガタ未来ラボ編集部では、山形で働く20代を“ミライさん”と呼んで、応援していきます!

今月のミライさん★

 

大垣敬寛(おおがき たかひろ)さん

年齢:27歳 社会人歴:5年目
神奈川県横浜市出身。東京大学卒業。
2015年より3年間、南陽市地域おこし協力隊として活動したのち起業。株式会社山のむこう代表取締役。カフェと学習塾の経営を行うほか、システム開発やAI活用にも取り組んでいる。
好きな言葉:仮説検証

起業家であり、会社員でもあり、フリーランスでもあるというパラレルキャリア

――大垣さんは、南陽市の地域おこし協力隊として働いた後、起業されたそうですが、現在はどんなお仕事をしているのですか?

自分の会社でやっている仕事としては、熊野大社境内にある『icho café』(イチョウカフェ)と、米沢市にある学習塾『ESTEM』の経営がメインで、ときどきデータコンサルティングもしています。その他に、個人事業主としてwebサイト制作をしたり、株式会社ニューメディア(NCV)の社員としてシステム開発やマーケティングも行っています。」

▲『icho cafe』

――すごい!パラレルキャリアですね。地域おこし協力隊でやっていたことが今のお仕事につながっているのですか?

「そうですね。『icho café』は立ち上げからずっと関わっていますし、学習塾は協力隊時代に企画した『なんよう未来塾』がきっかけで、教育に携わり続けたいという思いからつくりました。

データコンサルやweb、システム系の仕事は、学生時代からアプリ開発やIT系での起業を考えていたこともあり、得意分野を生かして企業のお手伝いをさせていただいているという感じです。」

 

2週間ぐらいのつもりが、そのまま移住することに

――ところで、大垣さんは横浜ご出身とのことですが、なぜ南陽市に移住を?

「大学を卒業する頃に、たまたま南陽市にいる知り合いから「町づくりやってみない?」と声をかけられたのがきっかけでした。

もともと大学卒業後は就職せずに起業しようと考えていて、ノートPCさえあればどこでも仕事はできると思っていたので、最初は「面白そうだからちょっと行ってみようか」という軽い気持ちだったんです。本当は2週間ぐらいで帰るつもりだったのですが、実際に来てみたらハマってしまって…。」

――南陽市のどんなところに魅力を感じたんですか?

「まず、熊野大社の参道の景色がいいなと思いました。神社も立派だし、石畳が整備されているので歩きやすくて気持ち良いんですよ。少し行けば山もあって、すごく素敵な場所なんですよね。

▲東北の伊勢として知られる熊野大社(写真提供:熊野大社)

僕は横浜で育ったのですが、都会はストレスフルだなと感じていたので、人も時間も環境もゆったりしている南陽のほうが絶対に住みやすいなと思いました。

アウトドアが好きなので、蔵王で乗馬したり、最上川で川下りをしたり、南陽でパラグライダーをやったり…。遊ぶところもいろいろあって、ここにしかない楽しみがけっこうあるなと思います。

▲南陽スカイパークでのパラグライダー(写真提供:大垣敬寛さん)

かといって田舎の不便さもあまり感じないですし、普段の生活で困ることはありません。しいて言うなら、車で移動しているとお酒を飲みに行きづらいことぐらいですかね(笑)。

南陽市は、文明と自然の良さがバランス良く成り立っている地域だと思います。だから、ここに住みたいと思えたんですよね。」

 

地域の「もったいなさ」をなんとかしたい

――地域おこし協力隊として3年間活動されたということですが、まちづくりにはもともと興味があったのですか?

「まちづくりをやりたいと思っていたわけではないのですが、南陽市を見て、素材としては良いものが揃っているのに、それを生かしきれていないのが「もったいない」という気持ちが大きかったんですよね。

▲東洋のアルカディアと評される美しい田園風景(写真提供:大垣敬寛さん)

県外から帰省した方たちとお話しすると「本当はこっちに戻ってきたい」って言うんですよ。「でも、仕事がないからね…」と。せっかく戻ってきたいと思っている人がいて、地域としても戻ってきてほしいと思っているのに、それがうまくいっていないのももったいないなと。

そういういろいろな“もったいなさ”をなんとかしたいと思って、まちづくりに関わるようになりました。」

ーー『icho cafe』はどんな経緯でできたのですか?

「もともと商店街の空き地だったところに、カフェでもできないかと商店街の方たちが話していたのですが、なかなか話が進まずにいて…。ちょうどその頃、知り合いから声をかけられて、僕もその話し合いに参加することになったんです。商店街の魚屋さんや時計屋さん、電気屋さん、酒屋さん、クリーニング屋さん、神社の神主さんやデザイナーさんなど、地域のいろいろな人たちが集まって、みんなで「本当にカフェは必要なのか」というところから「どんなカフェにするべきか」など、何度も話し合いを重ねました。

実際にやってみると、いろいろな問題が出てきて大変でしたね。水をどこから引くのかわからなかったり、下水がつながっていなかったり…。上下水道を整備するとちょうどイチョウの木にぶつかってしまうので、県の文化財でもあるイチョウの木を傷つけないためにはどうしたらいいかを樹木医さんに相談したり、想定外の費用もけっこうかかりました。

▲『icho cafe』立ち上げのメンバーと(写真提供:大垣敬寛さん)

最初は、商店街の人たちが中心となって進めていたのですが、もっと地域のいろいろな人に関わってもらおうとローカルファンディング(出資金額に応じてリターンを設定する方法)に挑戦したところ、資金も集まり地域の人たちも関心を持ってくれました。」

ーー地域の方たちと一緒に試行錯誤しながらつくりあげたカフェなんですね。

『icho cafe』の紹介記事はこちら

▲内装は地域の方と一緒に自分たちの手でリノベーションした

 

地域を変えるためには、子どもたちへの教育が必要

――学習塾をはじめるきっかけになった『なんよう未来塾』とは、どんなものだったのでしょうか?

「地域おこし協力隊時代に企画したプログラムで、地元の中学生・高校生を対象に、日本の第一線で活躍している方から授業をしていただき、進路を考える際の視野を広げてもらおうというものでした。

東大の先生や外務省の方、ベンチャー企業の社長さん、気象予報士さんなど、普通だったら会えないような方から話を聞けるということで、たくさんの中高生が興味をもって参加してくれましたね。中には、外務省の方の話を聞いて“外交官になる”と決心し、志望校を変えて引越しまでした子もいたんですよ。」

▲『なんよう未来塾』参加者の皆さんと(写真提供:大垣敬寛さん)

――地域の子どもたちにとってとても貴重な機会だったと思いますが、大垣さんも手応えを感じたのですね。

「そうですね。すごくやって良かったなと思いました。

地域おこし協力隊として活動する中で、何かしたいけどどうしたらいいかわからない、やり方や考え方がわからないという人がけっこう多いなと思って、地域の子どもたちへの教育の大切さを感じていたんです。

できるだけ早いうちに柔軟な発想や思考を身につけることが大事だと思い、小中学生を対象にした塾を立ち上げました。塾といっても受験のための勉強だけではなく、ものの考え方を学んだり、自分で企画したことをやってみたり、いろいろな体験をさせることを重視しています。

▲塾でスライム作りに挑戦(写真提供:大垣敬寛さん)

 

多様な体験を通して、主体的に学ぶ子どもたちを育てる

東大出身の大垣さんは、冬休みに東大生を塾の講師に迎え『現役東大生の思考回路を身につける』と題した特別プログラムを企画しました。
塾のFBページには、こんなメッセージが書かれています。

地域に足りないものは、世界の扉だとおもっています。

新しいアイデアが生まれるとき、前向きな力をもらえるとき、学びたいとおもうとき、つまり、わくわくするとき。何が背景にあるだろうとかんがえると、「出会い」であることが多いように感じます。

知らない人との出会い、新たな知識との出会い、目から鱗がおちるかんがえ方との出会い。
未知なる世界との遭遇が、人を前にすすめていきます。

しかし普段暮らしていると、地域における未知なる世界への扉は、やはり都会ほど開かれていないように思います。

だからこそ、地域だけで提供できない多様な体験を提供していき、学習や成長を楽しむような土壌をつくっていきたい。そんな思いでESTEMという塾をしています。

――大垣さんの地域を変えていきたいという思いと、教育に対する思いが伝わってきますね。

「この塾では、多様な体験を通して自分の興味・関心を見つけていくということを大切にしています。テストの点数を上げるという目的と違って明確な評価基準がないので、親御さんからすると成果は見えにくいかもしれませんが…。

主体的に学ぶ子どもたちを育てるというのが一番の目的なので、それを後押しするために、学校の勉強とは違うアプローチで学ぶことの楽しさを伝えたり、人工知能教材を使いながらできるだけ効率的に勉強できるようにしています。」

――どんなときにやりがいや面白さを感じますか?

「子どもたちが、僕にはない発想やアイデアを出してきてくれたときですね。そんなこと考える?っていうようなことを子どもたちはやってくれるので(笑)。

将来は、ここで学んだ卒業生が自分で事業を興したり、企業の中で何か新しいことを生み出したり、どんどんチャレンジしてくれたらいいなと思います。」

▲子どもたちに問いかけながら興味を引き出す大垣さん(写真提供:大垣敬寛さん)

――大垣さんはどんな教育を受けてきたのですか?

「僕は、完全に自由に育ててもらいました。親は普通のサラリーマンで放任主義でしたけど「変なことやったほうが面白いじゃん」と言うような考え方だったんですよね。

あと、小学5年生のときの担任の先生が「何でも体験してみよう!」という考えの人で、自分たちでつくった通貨でフリーマーケットをしたり、みんなでロボットをつくったり、クラスで30人31脚に挑戦したり…。自由な活動を通して、知らない世界を教えてくれるような先生でしたね。

それと、小学校の頃に通っていた塾が、ペットボトルロケットを飛ばそうとか、ホッカイロをつくってみようという体験と絡めて勉強を教えてくれたのですが、それがめちゃくちゃ楽しかった。今、塾を経営しているのはその影響も大きいと思います。」

 

子どものうちから、考えたことをカタチにする経験を

――なるほど。そういった子どもの頃のさまざまな体験が、何でも自分で考えてやってみるという今の大垣さんをつくっているのですね。

「そうですね。子どもの興味をつぶさずに、後押ししてくれる存在というのが大切だと思います。それと、最初は大人の手を借りてでもいいので、自分の考えたことを形にしてみる経験も必要ではないでしょうか。

まちづくりをするうえでも、まわりの人や環境に左右されずに、自分がやりたいことをどう実現していくか?を考えて、実行していく力がすごく大事です。

▲オリジナルのゲームを考える子どもたち(写真提供:大垣敬寛さん)

知識を詰め込むだけの教育しか受けていないのに、社会に出て突然、自分で仕事を生み出せと言われても、やったことがないからわからないですよね? でも、子どものうちから自分で考えて何かをつくるという経験を積んでおけば、大人になってからも自分で仕事をつくっていけると思うんですよ。

だから子どもたちには、ただ問題のパターンを覚えて点数を取る勉強ではなく「この意味ってなんだろう?」という本質的な問いや答えを自分なりに考えてみる、たとえ答えが出なくても考えてみることが大事だということを教えたいし、そういう教育を広めていきたいと思っています。」

 

まちづくりも人生も、すべては仮説検証

――カフェ、学習塾、データコンサルと、一見、バラバラな仕事をしているように見えますが、何かつながりはあるのでしょうか?

「僕の中では、すべてつながっています。今やっている仕事は、すべて“まちづくり”につながるとも言えますが、もっと根本的な部分でいうと、僕にとってはすべて“仮説検証”なんです。

南陽に移住した理由として、もちろん住みやすいということもありますが、地域の課題に対して、「こうしたらこうなるんじゃないか」という自分なりの仮説を検証したかったというのもあるんです。」

(写真提供:大垣敬寛さん)

――それは、面白い考え方ですね。

「ここにカフェをつくったら地域はこう変わるんじゃないか?とか、塾でこういうことを教えたら、子どもたちはこう変わっていくんじゃないか?とか、自分なりの仮説に基づいて実際にやってみて、うまくいった、いかなかったというのをひたすら試していくのが楽しいんですよね。

誰かに言われたことをやるのではなくて、自分で考えたことをやっていく。僕はそういう生き方をしていきたいし、子どもたちにも伝えていきたいと思っています。

地域の中で、一人ひとりがそれぞれの立場で「これをやったらいいんじゃないか?」ということを考えて実行していけば、まち全体も変わっていくのではないか?というのが、僕の仮説です(笑)。」

 

何が正解かわからないから、とにかくやってみる

――失敗したらどうしよう?と思ったり、うまくいかなくて落ち込んだりすることはないですか?

「もちろん、落ち込むことはありますけど、どうしよう…と考え続けて悩むということはないですね。それも仮説検証と同じで、何が正解かなんてわからないので、とりあえずどっちかに決めてやってみる。やってみてダメだったらまた別のやり方を考えようっていう感じです。取り返しのつかないことなんてそんなにないですしね。」

――若くして起業して、順調にいっているように見えますが、悩みとかはないんですか?

「そりゃ、ありますよ。資金繰りどうしようとか(笑)。もっと塾の生徒を増やさないととか…。コミュニケーションがうまくいかないときもありますし…。でも、あまり人に相談したりはしないので、自分で考えて結論を出しますね。」

AIと先端技術で地域の未来を変えていく

――お仕事以外にも、いろいろな活動をしていると聞きました。

「もともとAIに興味があって、『AIMY』という山形県人工知能コミュニティを主催しています。まちづくりを進めていく中で、データコンサルティングのお手伝いをしていると、「人手が足りない」という話を耳にするんですが、人手不足の問題は技術の力で解決できる部分もあるので、みんなで集まってAIの開発や活用について勉強しています。

それから、先端技術教室の『NEXT50』では、ドローンやVRを体験してみんなでアイデアを出そうという活動をしていて、いろいろなイベントにも出展しています。」

山形県人工知能コミュニティ『AIMY』のHP

ーーぜひ、最先端の技術で山形の未来を変えていってもらいたいです。大垣さんの今後の目標は?

「まずは塾をしっかり軌道に乗せたいというのが一つ。それと、システム開発で特許を取りたいのと、新しく作りたいシステムがあります。

それから、地域おこし協力隊のときにやっていた、南陽のまちづくりについて語り合うWEB会議「KATARUBE」を、またやりたいなと…。まちづくりをやっている人はあちこちにいるのですが、動きがバラバラだったりするので、みんなで集まって意見を共有できる場をつくりたいですね。

あまり先の目標やビジョンというのはないのですが、今、目の前にある興味のあることや面白そうなことを、つねに仮説検証しながら生きていければと思っています(笑)。」

【株式会社山のむこう】
【学習塾ESTEM】

仕事も人生も楽しんでね、ミライさん☆
ヤマガタ未来ラボは、山形のミライさんを応援しています。

<ミライさんバックナンバーはこちら>
ミライさんvol.6
ミライさんvol.5
ミライさんvol.4
ミライさんvol.3
ミライさんvol.2
ミライさんvol.1

 

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