「まちづくりに興味がある」。そんな声をよく聞きます。
でも「まちづくりがやりたい」って、何がやりたいの?
何を学んで、どこに就職すればいいの?
明確な答えは浮かばない。そんなあなたへ。
山形のまちづくりの現状をよく知る、その名も『山形まちづくり株式会社』常勤取締役の下田孝志さんに「下田さん的まちづくり論」を聞いてきました。
今回のやまがたで働く人
下田孝志(しもだ たかし) さん
Profile
山形まちづくり株式会社常勤取締役・七日町商店街振興組合事務局長
岩手県出身。山形大学卒業後、1997年七日町商店街振興組合に入社。新卒1年目からナイトバザールやホームページ、情報誌の立ち上げなどを主導。山形まちづくり株式会社の立ち上げにおいて中心的な役割を果たす。七日町エリア活性化プロジェクトを立ち上げ、ほっとなる広場や七日町御殿堰の再開発などに取り組んできた。
「まちづくりをしたい」って、何だろう?
――まちづくりに興味がある、という声をよく聞きます。
「『まちづくりをしたい』、それだけでは何がやりたいのかよく見えないんですよね。
『まちづくり』が指し示すものって、とても広い。なぜなら、自分たちで住んでいる地域、関わっている地域をよりよくしていこう、魅力を高めていこうという取り組みは全て『まちづくり』ですからね。広い意味で言えば市役所職員は全員まちづくり関係者だし、地域で子育てをするとか、まちでカフェを開くとか、そういうこともまちづくりと言えます」
――まちに何かの変化を生み出したり、新たな視点を発掘したりする活動は何でも、広い意味での「まちづくり」に含まれるんですね。
「まちづくりは”入り口”ではない。みんなそれぞれいろんなことをやっていて、その”結果”がまちづくりにつながっているんだと思います」
――なぜ、多くの若者がまちづくりに興味を持っているのだと思いますか?
「今の若者は、ローカル志向が強くて、地域貢献がしたいんじゃないかなと。自分のまちのために何かやりたい、関わっていきたいという思いが、まちづくりという言葉に表れているんだと思う。
地域の活動というものが、若者にとってより『自分ごと』になってきてる気がしますね。一つは人口減で、地域での自分の役割が大きくなっていること。そしてもう一つは、まちづくりの意味するものがビルや橋の建設ではなくて、『まちの魅力を見つけよう』『良さを発信しよう』という方向性に変わってきたこと。大きなビルを建てるということに比べて、良さを探そう・発信しようというであれば、自分でもできそう、やってみたいと思えるんです。
自分は山形市よりもっともっと田舎で育っているんです。同級生が10人くらいのね。人口が多い町にくらべて、地域や学校の中で一人ひとりが果たさなければならない役割がたくさんあるので、自然と地域とのつながりを実感できるし、自分の役割のようなものが見えてくる。そうすると、地域のために自分も何かできるんじゃないか、やってみたい、と思うようになる。
だから、人口が少ないというのは必ずしもマイナスではなく、自分らしい役割を果たせるようになるというポジティブな側面もあるんだと思いますね」
――まちづくり、地域貢献に興味があるけれど何をしたらいいのかわからない…とモヤモヤしている人が、やりたいことを見つけるにはどうすればいいのでしょうか。
「興味があることを深掘りしてみること、でしょう。
もっと地域をよくしていきたいな、変えていきたいなと思うなら、やっぱり自分が変化しなきゃいけない。でも、変えていくって大変なこと。だったら今まで関心があったけど一歩踏み出してなかったな、ということを見つけるのがいいと思う。隣町のイベントに顔を出すとか、趣味の世界にもう一歩踏み出す、絵なら個展に行ってみる、とか。
一歩踏み出したら見える世界が、きっとあると思います」
1960-70年代に「まちづくり」という言葉が登場してから、その意味はどんどん多様化しています。「住民主体の活動」「地域のための活動」など、共有されているイメージはあるものの、未だ明確な定義を持っていません。
自分にとっての「入り口」を探すためには、まず「自分がまちづくりのどこに興味があるのか・なぜまちづくりに興味を持ったのか」をじっくり問いかけてみることが大切です。
「まちを活性化させるサービスや建物をつくりたい?」
「どうしてまちづくりがやりたいんだっけ?」「自分の地元が好きだから?」「地域を盛り上げるのが楽しそう?」
と、自分に問いかけることで、”興味の根っこ”が見つかるかもしれません。
【自分の興味を言語化したい!そんなときはこの記事も参考に→『まちづくり・地域おこし・地域活性化・地域を元気にする・盛り上げる仕事』がしたいけど漠然としている人が方向性を見つける方法】
実際、まちづくりってどんな仕事があるの?
ひと言で「まちづくり」と言ってもさまざまな関わり方があることが分かりました。ここからは、具体的な関わり方について下田さんに教えていただきます。
まちづくりの仕事を、この3つの方向から見ていきます!
①まちづくりそのものを使命とする会社に入ること
②各種団体でまちづくりに関わる仕事をすること
③さまざまなアプローチで地域に関わっていくこと
①まちづくりそのものを使命とする会社に入ること
――具体的にはどんな会社があるのでしょうか。
「例えば、まちづくり会社、商店街振興組合というところですね。まちづくりそのものを仕事にしている人は、山形エリアに10人もいないんじゃないでしょうか。」
――下田さんが取締役を務める「山形まちづくり株式会社」は、どのような仕事をしているんですか?
「『どんな仕事やってるの』って言われると、本当にいろいろやってるので、正直ひと言では答えられないんだよね(笑)。
簡潔に言えば、『七日町エリアの魅力や価値の維持・向上を図る事業や活動をマネジメントする』という仕事です。まちに関わることなら何でもやってます」
山形まちづくり株式会社の掲げるビジョンは“地域を暮らしやすいまちにしていく”ということ。
⑴まちに住む人を増やす ⑵まちで働く人を増やす ⑶まちで過ごす人を増やす
の3つを軸に、地域の意見を集約したり、商店街のハード・ソフト両面を整備したりしています。
例えば、
■まちをどんな場所にするか、そのためにどんな施設が必要か、今ある施設をどのように使っていくかについて検討する。都市計画を作る際に考慮してもらえるよう、地域の意見をまとめて自治体に提案する。
■建物の整備やリノベーション、貸し出しを行う。
■商店街振興組合とともに、新規出店希望者を獲得するためのイベント(「七日町クラフトナイト」など)を行う。
■「商店街に店を出したい」という希望者に対し、出店のサポートをしてくれる専門家(金融、建築・デザインなど)を紹介する。起業セミナーを開催する。
山形まちづくり株式会社は、まちの「何でも屋」であり、「情報拠点」でもあるのです。
▲イベント開催時。街がたくさんの人で賑わいます(写真は下田さん提供)
――まちづくり会社は、まちでどんな役割を果たしているのでしょうか。
「まちづくりには、住民、行政、お店の人、関係人口も、いろんな人が関わっています。その中で、私の仕事はハブ的役割。
街中で何か困ったことがあったときに、“まずはあの人に相談しよう”と思いついたり、情報が集まっている場所があることって地域の発展に重要なんですよね。それによって定住しやすくなったり、まちの人が新しいものを生み出す動きにつながるんだと思います」
現在、全国に400ほどあると言われるまちづくり会社ですが、行政ではなく商店街が中心となって作られた「山形まちづくり株式会社」は、珍しい事例として全国からも視察が相次いでいます。
②各種団体でまちづくりに関わる仕事をすること
――「まちづくり」を大々的に掲げていなくても、関連する仕事はありますね。
「NPO法人のように、広い意味でまちづくりを担っている組織に入るのも一つの道です。
例えば、子育てランドあ〜べを運営するNPO『やまがた育児サークルランド』も、子育てを通じたまちづくりを担っています」
▲N-GATE内にある「子育てランドあ〜べ」(写真は下田さん提供)
”不特定かつ多数のものの利益に寄与する”という目的で活動するNPOは、自治体が扱いにくい、または企業が利益を上げにくい分野で活躍しています。その多くは地域貢献やまちづくりを理念に掲げており、山形にも多くのNPOがあります。(詳しくは山形県ホームページへ)
もちろん、もともとある団体に関わるだけではなく「自分で作る」という道もあります。NPO法人を立ち上げて、自分のやりたいことを実現する環境を整備していくこともできます。
③さまざまなアプローチで地域に関わっていくこと
下田さんの言うように、住んでいる地域、関わっている地域をよりよくしていこうという取り組みは全て『まちづくり』だとするならば、まちづくりは手段ではなく、結果と言えます。
「まちづくり」を前面に出していない仕事や活動でも、一人ひとりがまちづくりに関わっていくことができます。
例えばこんな関わり方も、まちづくりの一つ。
■本業はカフェ経営をしているが、訪れた人との関わりやイベントの運営を通して、まちを賑やかにする。
■銀行員として、金融の面から地元中小企業の手助けをすることで、まちを元気にする。
■仕事とは別に、有志でまちを掃除して花壇を作ることで商店街が明るくなり、人通りも増える。
▲七日町での清掃活動(写真は下田さん提供)
「まちづくりを仕事にするって、なかなか難しいと思う。本業としてやっていることを、まちづくりに関わることまで広げていくとか、仕事以外でやるという道もたくさんあります」
山形まちづくり会社・下田さんが、「まちづくり」に携わるまで
ここまで下田さんとともに、まちづくりへのさまざまな関わり方を見てきました。そんな下田さんも、就職時にはまちづくりへの意識はそれほど高くなかったんだとか。
まちづくりに関わる団体の中で、下田さん自身が「一歩踏み出す」までの道のりを聞きました。
――大学でまちづくりを学んだというわけではなく、教育学部卒なんですよね。どうして商店街振興組合に入ったんですか?
「就職の時期に仕事を探してたら、商店街振興組合の事務局の仕事をたまたま見つけた。まちづくりしたいなんて特に思ってなかったけど、実家も商工会に入ってたし、あんな感じなんだろうなー、お店の支援したりイベントしたりなんか楽しそうだなー、って。
面接で『七日町に来たことありますか?』と聞かれて、『1〜2回ですかね』と正直に言ったら、面白いやつだと思われたのか通っちゃったんです(笑)」
――入った当時はどんな仕事をしていたんですか?
「入って3年くらいはのんびりするつもりだったんですけど、新卒1年目の夏にいきなり『若いんだから今度の冬にやるイベントの企画して』って言われて。そこで夜に商店街開けたら面白いんじゃないかと思って、今も続くナイトバザールを立ち上げたんです。
商店街を一軒一軒回って、夜も店を開けてくれるようにお願いして。反対されることもあったけど、こんなのできないだろうって言われると『やってやろう』と思う性格なので諦めなかった。当日、花笠まつり並みのものすごい数のお客さんが来た時は感動で泣きましたね」
▲仕事を始めた頃の下田さん(写真は下田さん提供)
――早くから大きな仕事を任されていたのですね。今のようにまちづくり会社を作り上げる「一歩目」は何だったのでしょうか。
「10年くらいキャリアを積んで全体が見れるようになってきて、今のまちづくりのいいところとかずれているところが分かるようになってきていました。
ただ、僕は100%まち全体のことを考えて仕事をしていても、結局商店会に入っているお店はそれぞれの利益が優先。まちを良くするためのアイデアが順調にいかないことがあって。それに振興組合の中だと法律の規制もたくさんあるんです。
じゃあ、長年続いてきたこの組織の良さは残しながらも、新しい組織を作ればまちづくりにスピーディーに対応できるのではないか?と思った。
当時、中心市街地活性化法という法律に基づいて全国にまちづくり会社ができていました。そこで、理事長に『まちづくり会社の勉強がしたい』って申し出たんです」
――どうやって勉強を始めたのですか?お一人で?
「これまで以上に全国各地の商店街やまちづくり会社を訪問したり、タウンマネージャー養成のセミナー等に参加したり。長浜のまちづくり会社のマネージャーのところに1週間泊まり込んで、朝から晩までずーっと話聞かせてもらったこともありました。
▲商店街の活性化プロジェクトにより誕生した「水の町屋 七日町御殿堰」
いろんな人に話を聞く中で、うまく行っているまちづくり会社とはどんなところなのかが見えてきました。
一つ目は行政からお金をもらうときに注意をするということ。まちづくり会社の多くは、行政主導で作られています。それでもいいんだけど、そうすると行政の意向やしがらみが意思決定に大きく影響することもあるということを意識しておかなきゃいけない。
二つ目は、商店街との関係性を大切にすること。『商店街がだめになったからまちづくり会社が頑張る』だと、商店街の否定から入っているところもあります。でも、フィールドが商店街なんだからそれでうまくいくはずがない。商店街とまちづくり会社、それぞれの得意分野をやっていこうと両輪で頑張ることが大切なんだと思います。
三つ目は、まちづくりについてよく分かっている人が担当するということ。偉い人がまちづくり会社に名前だけ貸すんじゃなくて、中心市街地活性化のスキームを分かっている人が携わるようにしました」
理事会に提出した計画が認められ、ついに2015年、商店街が出資する形で山形まちづくり会社(当時:山形七日町まちづくり会社)が設立されました。今では全国から視察が来るほどになった組織も、最初は「まちづくり会社の勉強がしたい」と下田さんが一歩踏み出したことがきっかけとなっていたのでした。
――まちづくりに携わり続ける理由は何ですか。
「僕のモチベーションは、やっぱり町が好きというところ。七日町愛ですね。
商店街については、地域が空洞化したとかお店がなくなったとか、どうしてもネガティブなニュースが広がっていく。そうすると中心市街地に対してネガティブなイメージが大きくなってしまう。それを打ち消すことはできないけど、でも七日町のお店の数は実際には増えているし、面白い場所もたくさんあるんです。商店街の先輩にはカリスマ的なすごい存在もいる。
その面白さを知ってる人は知っている、という状態ではだめなんですよね。今は個人がいくらでも発信できる時代だから、自分も商店街のメンバーもポジティブな現状を発信していくようにしたいです」
あなたはどんな方向から、まちづくりに関わりますか?
まちづくりに関わる仕事の例、そして下田さんのストーリーを紹介してきました。今回ご紹介したのは、下田さんから見たひとつのまちづくりの在り方と言えます。
あなたにとってのまちづくりとは、何ですか?
自分なりのまちづくりへの関わり方、なんとなくイメージできましたか?
きっと、人それぞれ得意な「まちへの関わり方」があるはず。
はっきりと言えるのは、「地域に貢献したいという思いを持って踏み出せば、それが、あなたなりのまちづくりの第一歩になる。手段は人それぞれ」ということ。
自分の視野を広げていろんなところにアンテナを張りながら、「自分がやりたいこと」「自分にできること」を探していきたいですね。
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