田舎ぐらしや移住を考えたときに悩むのは、仕事のこと。
地方での仕事の選択肢の一つに、地域おこし協力隊”がありますが、
なんとなくしか知らないという人も多いのではないでしょうか。
「収入は? 暮らしは? どんな仕事をするの?」そんな疑問にお答えするべく
現役で活躍している地域おこし協力隊の方にインタビューしてきました。
移住や地方での暮らしが気になる方は、ぜひ、この記事を参考にしてみてくださいね!
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今回のやまがたで働く人
大石田町地域おこし協力隊
香坂 明(こうさか・あきら)さん
プロフィール
米沢市出身。進学を機に上京し、東京の美容商社に就職。2017年、夫婦で大石田町地域おこし協力隊に着任し移住。観光・移住・産業活性をテーマに、SNSを活用した情報発信やイベントの企画など、町のPRや交流、外から町に人が来る動機づくりを軸として活動している。趣味はキャンプ、スキー、コーヒー。
11月上旬、平日の夜7時。店も閉まり静まりかえった町の一角に、次々と人が入っていく。白壁の美しい蔵が明かりに照らされ、夜の闇にひときわ映えている。大石田駅前にある交流スペース『KOE no KURA』だ。
「こんばんは。あ〜、お久しぶりです」「こないだは、どうも〜」。訪れる人々と笑顔で言葉を交わしているのは、大石田町地域おこし協力隊の香坂明さんと舞子さんご夫妻。
この日行われていたのは、建築コミュニケーター・田中元子氏を招いてのトークイベント。東京で活躍している話題の人が来るとあって、SNSで告知するや否や即満席になったという。会場に用意された席は次々と埋まっていく。失礼ながら、平日の夜にこれだけの人が大石田町のイベントに集まることに正直、驚いた。
「香坂さんが企画するイベントは、いつもすぐ満席になるんですよ。」と、町の広報担当者が教えてくれた。香坂さんの企画は、ときに「大石田町でこんなことできるの?」と驚くような面白さや斬新さが魅力だ。そのため、町外からの参加者も多い。
以前は東京でバリバリ働いていたという香坂さんご夫妻が大石田町にやってきたのは2年前。
なぜ、都会での仕事をやめて移住してきたのだろうか?
都会の営業マンが地域おこし協力隊になったワケ
「東京では、10年ぐらい美容商社で営業の仕事をしていたのですが、大好きな業界だったので、楽しくてやりがいもあり、とにかく忙しく毎日を過ごしていました。
でも、いつかは山形に戻りたいとずっと思っていたんです。都心での仕事が増えれば増えるほど、山形に戻るきっかけがなくなってしまいそうな気がして、このまま東京で働き続けていいのかなという気持ちと、単純に山形が好きという理由で、移住を考えはじめました。」
しかし、なぜ、米沢出身の香坂さんが大石田町の地域おこし協力隊になったのだろうか。
「そもそものきっかけは、東京で開催された移住セミナーでした。」
そこで大石田町の担当者が話してくれた地域おこし協力隊の仕事内容に、興味を惹かれたのだという。
「大石田駅前にある古い蔵をリノベーションして人が集まる場所をつくるという計画を聞いたのですが、『空き家』『リノベーション』『人が集まる場所』というのは、まさに僕がやりたいキーワードでした。話を聞いて、これは面白い!とピンときたんです。」
ちょうどカフェをやりたいと思っていたという香坂さん。「その場所、カフェにしてもいいですか?」と聞いたところ、担当者はすんなりOK。「未来が見えた気がしました(笑)」と振り返る。
さらに、「当時、僕はコーヒーにはまっていたのですが、大石田町のお蕎麦を使ったコーヒーのお土産をつくる『おSOBAにコーヒー』という企画もあると聞いて、めちゃくちゃ楽しそうじゃん!と思ったんです。
前職でも、商品に付加価値を付けて売る企画提案型の営業をしていたので、できそうだなと思い、ぜひ関わらせてくださいと言いました。」
▲蕎麦とコーヒーをブレンドした『おSOBAにコーヒー』
地域おこし協力隊の仕事は自治体によって異なり、内容は多岐にわたる。着任してからのミスマッチを防ぐためには、事前に仕事内容を詳しく確認する必要がある。香坂さんの場合は、自分のやりたいことと、大石田町がやろうとしていることが偶然うまくリンクしたということだ。
しかし実は、香坂さんは、最初から“地域おこし協力隊”になりたいと思っていたわけではないという。
「移住先を探していたときは、田舎暮らしの本や雑誌も見ていたので、地域おこし協力隊のことは知っていたし興味はありました。でも、ぶっちゃけ給料は安いし、泥臭そうだし、何よりオシャレじゃない(笑)。正直、そんなにやりたいとは思えませんでした。でも、大石田町の仕事は、それを上回る魅力があったんですよね。」
ソトと町をつなぐ役割
大石田町から、地域おこし協力隊に課されたミッションは4つ。
1.観光物産の振興
2.移住の促進
3.産業の活性化
4.大石田駅前の賑わい創出拠点施設の運営
香坂さんはまず、駅前にあった古い蔵のリノベーションと、施設や町の存在を周知する活動に取りかかった。蔵のリノベーションでは、みんなが心地よく過ごせる場、そして人々の交流が生まれる場にするために、コンセプトづくりから内装まで町の担当者と一緒に考え、つくりあげた。
そして2017年、大石田駅前に交流スペース『KOE no KURA』がオープン。以来、香坂さんご夫妻はここを拠点に、移住・観光分野を軸とした町の“ポジティブな情報”を増やすための活動をしている。
現在、『KOE no KURA』では、年間約90本のイベントを開催しているが「イベントをすることが仕事ではない」と香坂さんは言う。
「ここのコンセプトは、“町とソトをつなぐ”交流施設。ソトから町に来てもらうための動機づけとして、大石田町が魅力的に伝わる「コト」が必要で、そのためにイベントをやったり、作品の展示をしたり、フォトコンテストをやったりしています。すべては「大石田って、楽しそうだな」と思わせるための“仕掛け”なんです。」
▲大石田まつり 最上川花火大会
新しい風を吹き込み、町に人を呼ぶ
大石田町で採用された地域おこし協力隊は、実は香坂さん夫妻がはじめて。役場の方は、香坂さんの存在や仕事ぶりをどう感じているのか訪ねてみた。
「香坂さんは大石田にはいないタイプなので、町にいい刺激を与えてくれています。今までの大石田だったらありえない発想や人脈、僕たちにはない感覚を持っているというのはすごく大きい。町に新しい風を吹き込んでくれる存在ですね。」(大石田町役場/笹原さん談)
▲ワークショップ後の交流会
香坂さんは、着任してすぐ『大石田町エトペソラ』というブログを立ち上げた。協力隊の活動状況や町のさまざまな情報を掲載しているほか、SNSでも積極的に情報発信している。
香坂さん夫妻が地域おこし協力隊に着任してから、ネット上でも『大石田町』『KOE no KURA』というワードを目にする機会が増え、町の認知度が高まったことは明らかだ。『KOE no KURA』の来館者数は、わずか1年半で約1万人を超えた。
「地域おこし協力隊が来ることによって、町の人口が増えるだけではなく、仕事として何をしたのか、どんな結果を残したかが大事だと思うんです。」と香坂さん。
▲『KOE no KURA』で珈琲教室
地域の課題に最前線で取り組めることが、一番のやりがい
香坂さんにとって、地域おこし協力隊の仕事のやりがいはどんなところにあるのだろうか。
「地域の課題に対して、最前線で仕事ができるというのが一番。そして、課題解決の手段を提案し、自ら仕事をつくりだせるところが面白いですね。誰かに指示されて動くわけではないのでストレスも感じないですし、楽しいですよ。
ただ、自治体が抱えている課題と、自分が取り組もうとしていることが合っているかどうかは大事。仕事として認められるためには、独りよがりにならないことですね。」
地域おこし協力隊は受け身では務まらない。そして、地域の課題を見つけるには、第三者の立場から町を見る客観的な視点も必要だ。
「町の人たちと同じ感覚、同じ視点で地域を見ていたら意味がないと思うし、逆に、ソト者の目線を失ったら協力隊としての仕事はできないと思います。」
地域に馴染むことも大切だが、仕事をするうえではあまり染まりすぎないほうがいいこともあり、そこが難しいところだという。地域の人と密に関われば関わるほど“なあなあ”になりがちなので、「どこかで線引きは必要」とのこと。
▲地域の子どもたちと一緒にはじめての田植え
町を一つの会社と捉えて仕事をする
田舎で面白いことをやりたいのなら、一つの手段として地域おこし協力隊を選ぶのはアリだと香坂さんは言う。
「でも、豊かな田舎暮らしがしたいというだけで協力隊になるのではなく、最低限、仕事として成果を出すという意識は必要だと思いますね。」
ひと口に“地域おこし協力隊”といっても、活動の仕方は人によってさまざま。そのため、地域によっては町の人たちから「何をやっているのかわからない」と言われることも多いと聞く。
「人って、“知らない”ことは“嫌い”になりやすいんですよね。だから、知ってもらう努力は必要です。」
香坂さんは、『大石田町』という7千人の会社の広報をしているつもりで仕事をしているそうだ。
「地域おこし協力隊も、町という一つの会社で働いていると考えたほうがいいと思うんです。会社って、社内報や社内ネットワークを使って情報を共有しないと、他の部署で何をやっているのかわからないじゃないですか。
それと同じで、僕たちも何をやっているか町の人たちにもわかるように、チラシを配布したり広報紙にコラムを書いたりして情報を発信しています。」
▲移住セミナー
移住後のギャップをなくすために必要なこと
大石田町の仕事が魅力的だったとはいえ、都会から地方へ移住・転職することに不安はなかったのだろうか?
「そもそも縁もゆかりもない場所に住むわけですし、仕事の分野や所属も変わります。お給料も下がるので、移住を決断するまでは町の担当者にたくさん質問しました。」
納得いくまで質問し、それに対し担当者が一つひとつ丁寧に答えてくれたことで不安をクリアできたという。しかし、夫婦で移住する場合、パートナーの理解を得られるかどうかも重要だ。
「妻も移住については賛成でした。ただ、彼女も東京でやりがいを持って働いていたので、地方へ行っても面白い仕事をしたいという気持ちはあったみたいです。その点、大石田町では僕だけでなく彼女も協力隊として働けるということと、仕事内容も魅力的なものだったので、一緒に来てくれたんだと思います。」
一見すると、香坂さんの希望と町の考えが最初から一致していたかのようにも見えるが、実はそうではない。仕事内容や暮らし方について、引越す前に細かく確認し、町と念入りにすり合わせをしたのだという。
「こういうことをやりたいと思っているけど、実現可能ですか? こういう働き方はできますか? など、こちらから提案して交渉した部分もあります。僕の要望や提案を町側が「いいですよ」と受け入れてくれたので、移住後にギャップを感じることもなく、やりたいことができているのだと思います。」
町のイベントに参加し、地域の人と触れ合う
香坂さんが大石田町のことを知ってから実際に移住するまでにかかった期間は、約半年。
「実は、移住セミナーに参加するまで「大石田」という町の存在を知らなかったんですよ。でも、話を聞いて面白そうだと思ったので、すぐ日程調整して町を見に行くことにしました。」
役場の担当者にメールで連絡したところ、「ちょうど蕎麦まつりがあるからチケットとっておくよ」と言われ、タイミングよく町のイベントに参加することができたそう。
▲蕎麦まつり
「蕎麦まつりでは、みんなイキイキしていたのがすごく印象的でしたね。若い農家さんが頑張って野菜を売っていたり、お酒を売ってるおじさんが、山形のお酒をアツく語ってくれたり…。
そのイベントで町の人たちの一生懸命さや純粋さに触れて、「いいところだなあ」と。お蕎麦もおいしかったし、町の温泉施設はたったの400円でめちゃくちゃ楽しめて、その日は大満足で帰りました。」
担当者の親切な対応と訪れたときの町の印象が良かったことも、香坂さん夫婦の移住に対する気持ちを後押しした。
田舎だからできないとあきらめるのではなく、自分らしい楽しみ方を見つける
香坂さんの移住先である大石田町は、雪深い。多いときは積雪2メートル近くにまでなる。雪に戸惑いはなかったのだろうか。
「雪のことは、東北に移住を考えた時点である程度覚悟していたし、都会で満員電車に乗ったり、通勤に1時間や2時間かけていることを考えたら、日常の雪かき程度であれば特に苦ではありません。妻も、最初は雪かきが下手でしたけど、コツをつかんだら楽しくなってきたみたいです(笑)。」
パートナーの舞子さんも、ポジティブに地域の特性を受け入れ、環境の変化に柔軟に対応している。
「はじめての土地なので、いろいろなものに対して新鮮さや驚きはありましたけど、とくに困ったり大変に感じたことはなかったですね。私は「田舎だからできない」ではなく、どうやったら楽しめるかなと考えるんです。ないものに目を向けるんじゃなくて、あるもので楽しむことができれば、地方でも楽しく暮らしていけるのではないでしょうか。」
▲雪の中でキャンプ!
移住して減った支出、増した暮らしの豊かさ
地方へ転職する際、気になるのはやはり収入面だ。地域おこし協力隊は、自治体から住宅や車の補助がある場合も多いが、都会にいた頃とくらべて生活はどんなふうに変わったのだろう。
「たしかに東京にいた頃のほうが収入は多かったのですが、車の維持費や家賃にけっこうお金がかかっていたんです。大石田町の地域おこし協力隊は、家と車を町のほうで用意していただけるということで、収支のバランスで見たら、移住してもそれほど変わらないことに気がつきました。」
「都会にいた頃にくらべて贅沢はしなくなりましたけど、生活レベルを落としているという感覚はありませんね。やりたい仕事をして、休みの日は好きなキャンプやアウトドアを思う存分楽しんでいるので、逆に豊かさは増していると感じます。」
▲テント交流会なるイベントも企画し楽しんでいる
決して都会が嫌いになったわけではないという。「東京は自分が成長できた大切な場所だし、今でも大好きな街であることに変わりありません。」
しかし、もともと山形が好きで、東北で暮らしたいという思いがあった香坂さんは、移住したことで“理想の暮らし”に近づいたと感じている。
「朝採れの野菜が食べられたり、温泉や自然がすぐ近くにあるという環境はとても豊かですよね。それに、時間の余裕もできたので、いろいろなことにチャレンジしやすくなりました。僕も妻も、山へ行ったり温泉へ行ったりするのが好きなので、田舎のほうが自分たちのライフスタイルには合っているなと感じています。」
夫婦二人で豊かな田舎暮らしを楽しみつつ、これからも地域の魅力を発信し続ける。
▲地域のお祭り(維新祭)を楽しむ二人
取材協力:山形県大石田町
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【取材後記】
香坂さんご夫妻が移住に成功したポイントは、自分たちの望む働き方や暮らし方を明確にしていたこと。そして、それを伝えるコミュニケーション能力と環境の変化を受け入れる柔軟性があったことだと思います。自分のやりたいことを実現しながらも成果を出す仕事への取り組み方と、地域の魅力を引き出すクリエイティブな感性が印象的でした。
山形県UターンIターンフェア『やまがた暮らし大相談会』では、香坂さんのお話が生で聞けるトークセッションがあります!(参加無料)ぜひお気軽にお越しください】
2019年12月1日(日) 山形県UターンIターンフェア『やまがた暮らし大相談会』
【日時】2019年12月1日(日)11:00〜17:00
【会場】東京交通会館12Fダイヤモンドホール(東京都千代田区有楽町2-10-1)
【参加費】無料
【内容】山形県での仕事、住まい、暮らしをまるごと相談!県内の市町村をはじめとする約52団体が出展するUIターンフェアです。
お子さん連れでもゆっくり相談できるようキッズコーナー(専属スタッフあり)もご用意しています。
また、来場した方全員に「山形代表」のジュースをプレゼント♪さらに、山形のお米「雪若丸」がその場で当たる抽選会もあります!ぜひ、お気軽にお越しください♪
【対象】山形での暮らしに興味がある方、いつか山形へUターン、Iターン(移住)したいと考えている方。
【お問い合わせ】
やまがた移住定住・人材確保推進協議会 TEL:023-630-2234
(山形県企画振興部市町村課地域活力創造室内)
詳しくは、山形県移住交流ポータルサイト「すまいる山形暮らし情報館」でご確認ください。