Uターンを考えているけれど、今の仕事にやりがいも感じているし、勤めている会社を辞めたくはない。
だけど、そろそろ親のことも心配だし、いずれは帰らなければならないかも…。
そんなモヤモヤを抱えている方に、ぜひ知っていただきたい働き方があります。
今の仕事を辞めずにUターンする方法。
それが、【テレワーク】という働き方です。
テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」を合わせた言葉で、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと。
今回は、テレワークを選択することで会社を辞めずに山形にUターンしてきた男性をご紹介します。
今回のやまがたで働く人
石澤 秀和さん (社会保険労務士/社会保険労務士法人LRパートナーズ)
Profile
1978年山形市生まれ。老人ホームなど福祉施設の事務職を経て、2010年に株式会社LR小川会計(神奈川県川崎市)に社会保険労務士として入社。2014年結婚。2015年にUターンし、実家の一室でテレワークを開始。2017年7月より、業務拡大のためスタッフ3名を増員し、山形市春日町にサテライトオフィスを構える。
社会保険労務士って、テレワークできるの?
「仕事は、基本的に企業相手の仕事です。顧問契約を結んでいる企業には、定期的に訪問する必要があるので、テレワークになったからといってお客様のところに行かなくていいわけではありません。
訪問して労務や人事の点で何か困っていることはないかお伺いしたり、相談を受けている課題の解決策などについてお話させていただきます。そして、受注した手続きや課題の検討などを事務所で行います。
社会保険労務士は、企業の就業規則など働き方のルール作りや、人事・賃金制度の構築、労働に関する法律の相談に対するアドバイスのほか、給与計算、入退社があったときの雇用保険や健康保険、社会保険の手続きも請け負います」
石澤さんの場合、テレワーク開始後は、月に2~3回程度、1回につき2~3泊で本社に出張して、複数のクライアントを訪問して回るスタイルに。そこで持ち帰った仕事を、山形のオフィスで処理しています。
クライアントもテレワークに理解があり、電話のみで対応するケースも増えたそう。
「訪問頻度は減っても、これまで通りの業務ができていると思います」と石澤さん。
はじめはITに不慣れだったお客さまも、共通のツールを使い始め、データのやり取りなどを迅速に行えるようになりました。
▲本社時代の石澤さん
入社前からUターン希望を伝えていた
東京の大学卒業後、山形の企業に就職。“働くことのルール”に興味を持つようになり、勉強を始めたのが、社会保険労務士になったきっかけ。
しかし、資格を取ったものの、実務経験がない。修業するべく転職活動した結果、上京することに。
「二人兄弟ですが、自分が山形を出ると二人とも県外で働くことになるので、長男の自分がいつかは山形に戻らなければと思っていました。また当時、交際中だった妻が山形にいたので、採用面接のときに『何年か経験を積んだら、山形に戻りたい』と伝えていました」と石澤さん。
4年前、結婚を迎えるタイミングで、会社に改めてUターンの意向を伝えました。直属の上司とは、常々、Uターン後の働き方について話していたので、スムーズにことを運べたのだそう。
「社会保険労務士の業務として、働き方改革関連にも取り組んでいます。また、クライアントから、テレワーク制度を導入したいと相談を受けることも。会社として、関心や理解があったことは大きいと思います」
会社は、グループ全体で100名程の規模、地域の老舗会計事務所。決して大企業ではないが、近年の人手不足対策や働き方改革の一環としてテレワークに関心があり、導入を決めた。
▲スポーツ合宿にて
必要な準備と心構え、テレワークのメリットやデメリットは?
Uターン後、実家の一室を事務所として、テレワークを開始しました。
必要となるのは、PC関連機器の準備と、本社とのチームワーク。
「最初は、機器の設定に苦労しました。サーバーに繋がらないと、半日、仕事にならなかったりしたことも。安定してからは、特にストレスはありません」と石澤さん。
「本社に届いた書類を、一旦スキャンしてから送ってもらわなくては、私は目を通すことができません。本社スタッフには、それまでにはなかった手間をかけさせているので、その分のフォローやコミュニケーションが必要になります。
また、クライアント先で、従業員とのトラブルや、労働問題など緊急の事案が発生したときには、まず同僚に駆けつけてもらうようにお願いしています。準備を整えてから、後日出張して対応します」
最初のうちは、迷惑をかけているのかなと不安になることも。日報にコメントをマメに入れるなど、気配りを意識するように。「私の雇用継続のためのテレワーク制度導入でしたが、山形にスタッフが増えて、処理力があがりました。本社だけで抱えきれない業務を分散して担えているという面で、お互いにメリットを感じながら働けていると思います」
サテライトオフィスの設置は、BCP(Business continuity planning,事業継続計画)の観点からも、災害や大規模停電などが起こったとき、複数拠点があることにより、業務を継続できるという点で会社としての大きなメリットに。
その他、介護のため離職しようとしていた社員が、テレワーク導入で雇用継続するという事例もあった。また現在、育休取得中の女性社員に対し、復帰の前段階として、テレワークではどうかと検討しているのだそう。ライフステージに合った働き方の選択肢が増えたことも、メリットといえるでしょう。
活用しているツール
石澤さんが快適にテレワークするために、活用しているツールを教えてもらいました。これらのツールをフルに活用すれば、特別な投資をしなくてもテレワークを始められるようです。
・【Googleハングアウト】…インターネット回線を使って会話や動画会議等が出来るサービス。本社と常時繋げ、ミーティングも行う。マイクの性能によっては雑音等が気になるため、普段は画像のみ。本社スタッフの在席を確認し、電話やチャットで連絡を取る。
本社にクライアントが訪れたときには、「これ(Googleハングアウト)が、山形と繋がっていて…」とテレワークを説明することも。「動物園っぽい感じで、手を振ってくれたります(笑)」
・【VPN(仮想プライベートネットワーク)】…既存の社内ネットワークに繋げるソフト。ただし、必ずしもサーバーが必要ではなく、クラウドストレージに会社の情報を共有すれば、複数拠点からのアクセスが可能に。(有償)
・【ドキュワークス】…電子文書と電子化した紙文書を一元管理するソフト。完全ペーパーレス化のために活用している。(有償)
・【チャットワーク】…クラウド型ビジネスチャットツール。クライアントとのコミュニケーション用に活用。
・【Googleドライブ】…Googleが無料で提供しているオンラインストレージサービス。クライアントとデータを共有するために活用。
・【Skype】…インターネット回線を使って通話をする無料電話サービスの一つ。クライアントから「わざわざ訪問なくしても、Skypeでの面談でもいいですよ」と提案されることも増えたそう。
▲【ハングアウト】で常時本社と繋がっている。本社スタッフに手を振る石澤さん
メリットまとめ
・作業に集中できる。
・山形での新規採用により、深刻な人手不足を解決する足掛かりとなった。
・ペーパーレス化が加速した。
・育児や介護従事など、さまざまなライフステージに対応できる働き方の前例となった。
・家族との時間が持てるようになった。
・祖父母からの育児サポートを得やすい。
デメリットまとめ
・孤独。寂しくなると、本社に電話することもあったそう。
・PC関連機器とネットワーク環境の接続に苦労した。
・山形⇔本社の移動に時間がかかる。
テレワークは本人だけでなく、会社にとってのメリットも多い。デメリットを改善するために対策が講じられ、結果として、メリットに転換されることも。
Uターンして、家族を感じる時間が増えた
生活の変化としては、住む場所が変わったことよりも、子どもが産まれたことの影響の方が大きいと感じているそう。
「平日は、残業することも多いので、子どもと関われる時間は少ない。でも、もしテレワークしていなければ、単身赴任になるので、月に1回会えるかどうか。近くで子どもの成長を見守れているのは、本当に嬉しい。
妻は現在、短時間勤務ですが、もうすぐフルタイム勤務に戻ります。保育園の迎えの頻度を増やすなど、私ができることを考えなければと。妻の両親からもサポートしてもらっていて、とてもありがたいです。
親は、リモートワークを理解しているかはわかりませんが、『そういう働き方をさせてくれる会社でよかったね』と言ってくれています」
▲お子さんのことを尋ねた瞬間。この笑顔がすべてを語っているような気がしました。
山形に根付き、地域の活性化に貢献したい
「今の受注体制で、作業量が安定してきたかなというところ。今後は、私も会社も、山形に根付いていくことに注力していきたい。
山形も人手不足なので、新たな採用ができずにいる会社は少なくないかと。今勤めている人が辞めない職場環境づくりが、大事なポイントになりますよね。世の中の流れや多様な働き方をカバーできるような労働環境づくりをお手伝いしていきたいです。
労働者と経営側とがオープンに意見交換できるような風土づくりが大事。両者を橋渡しできる存在になっていけたらと思っています。
気持ちよく働ける会社が多い地域は、活気があります。山形の地域活性化のためにも、労働条件をより良く整えていくサポートをしていきたい」
自分の望む仕事・生き方を叶えるために、テレワーク制度を利用してみよう
政府目標は、2020年までに全労働者のうちの10%を雇用型の在宅ワークにすると打ち出しています。働き方改革としてテレワークを推奨しており、要した費用のうちの1/2~3/4、最大150万円まで補助される場合もあるそう。
上手に制度を活用して、望む暮らしの実現に役立ててみてくださいね。
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