人口減少・技術革新などによる変化に対応し生き残っていくには、現状維持ではなく挑戦が必要です。
「山形の攻めの会社教えます」は、山形の企業の様々な「攻めている姿」をご紹介していますが、クラシタス株式会社の新しい挑戦である新規事業のきっかけは、社員のパラレルキャリアでした。
それは、一体どういうことか。
「パラレルキャリアを実践する当事者」と「企業の人事」、両方の立場の方にお話を伺いました。
参考記事:【会社員+αで活動する】副業・パラレルキャリアのチャンスとリスク
【おさらい】
・兼業農家からユーチューバー、株、メルカリで定期的に販売など「副業」と言っても、目的も内容も多岐に渡る。
・法律で「副業」に関する明確な定義はなく、単純に日本語の意味通り、本業とは別で収入を得る仕事がある場合、それは副業にあたると思われる。
・本業以外の仕事や活動を行う目的が「報酬」ではない場合、本業と第二のキャリアを両立させる生き方をパラレルキャリアと呼ぶ。
・会社が「社員が就業時間以外の時間で副業することを全面禁止」していても、憲法・法律にはそのような拘束力はない。
社員のパラレルキャリアから新規事業が生まれたクラシタス株式会社
クラシタス株式会社は仙台に本社を置き、山形・岩手・北海道にも展開しているリフォーム企業。
山形支店支店長の小関さんは、最近、空き家管理のサービスを新しくスタートさせました。
ー空き家管理サービスの事業を立ち上げるきっかけは?
小関大介さん(以下、小関):仕事でリフォームを検討しているお客様の所に行けば行くほど、空き家の問題を考えるようになりました。
元々、空き家に興味があったので、「自分で空き家を持ってみれば、大変さも含めて空き家のことがもっとわかるんじゃないか」と思って、自宅のリフォーム費用を銀行から借りるそのついでに空き家を買うお金の都合もつけて、古民家を買ったんです。
小関大介さん 山辺町出身。東北芸術工科大学を卒業後、クラシタス株式会社に入社。その後、大手ハウスメーカーに転職。その後、クラシタス株式会社に再度入社。営業職を経て2017年より支店長職。2016年に山形市内の古民家を購入し、古民家シェアハウス「つぶ亭」を運営している。
ーえ、買ったんですか!?何をするために、古民家を買ったのですか?
小関:古民家を買った時は別荘を買った感覚でしたけど、自分だけが楽しんだり、人に貸して不労所得を得るみたいなことは考えていなくて。
「対外的に発信する」遊び場が欲しかったというのもあるし、おもしろい人が気軽に利用でき、様々な人がふれあう環境と情報をシェアする場所をつくりたかったんです。
ー「コミュニティ」「場づくり」と言われるジャンルの話ですね。それにしても、自分が住む家とは別に古民家を買うとは、大きな決断ですね。
小関:古民家を買って、それをどうするのか自分で意思決定していくのが、自分の人生に活きると思ったんです。何もかも自分で判断をして行く経験を積むことによって何かが見える。仕事にも活きる。山形市の外れにあるあの古民家にどうやれば人が集まるのかを考えればマーケティングの勉強になるし、人をまとめるのはマネジメントの勉強になる。「会社員の自分」だけではわからないことが出来ると思い、実行に移しました。
自分の人生は、誰かのせいに出来ない、責任を持てるのは自分だけじゃないですか。
それで、古民家シェアハウス「つぶ亭」を始めました。
(編集部注※つぶ程を始めた経緯などは、こちらの記事に詳しく書いて頂いてます。)
ーその「つぶ亭」とクラシタスの新規事業は、どう繋がるんですか?
小関:つぶ亭の元オーナーさんなど古民家を所有する方は、高齢になって生活や管理するにも体力的にも厳しくなってきて家を手放すことを検討することが多いのですが、お話していくうちに「自分が生まれ育った大切な家を、無下にしたくない」という想いや、「有意義な目的がある人に使って欲しい」と考えていることがわかりました。そんな人々に対してリフォームだけでなく、その後の建物の行き先もフォローする事もこれからの社会問題も含め私たちの役割だと思いました。
そういった経緯もあり、問題を可視化させて行く必要もあるなと考えて、空き家管理サービスのアイディアが浮かんだんです。
クラシタスが新しく始めた空き家管理サービスのチラシ
ー実際に、「つぶ亭」から得られているものは何ですか?
小関:まずは、入居しているIT企業などからの家賃収入があります。
収入はありますが、収入を目的にはしていません。自分の経験値を上げたり、古民家の利活用の見識を得るためにやっています。つぶ亭の事業での経験が本業に繋がったら嬉しいという気持ちは持っていますが、そのため「だけ」に本業以外の活動をやってるわけではありません。
(※今後は、「シェアハウスつぶ亭」は閉めて、ゲストハウスなどに出来ないか検討中とのこと。)
ーパラレルキャリア、2枚目の名刺、ですね(※)。
(編集部注※パラレルキャリア…本業以外の仕事や活動を行う目的が「報酬」ではない場合の呼び方。仕事以外の仕事をもったり、社会活動などに参加したりして、本業と第二のキャリアを両立させる生き方。経営学者のピーター・ドラッカーが著書『明日を支配するもの』などで提唱した考え方。寿命が延びた現代において、個人はひとつの組織に依存して同じ仕事を続けるだけでなく、それとは別の“第二のキャリア”にも時間や労力の一部を費やすことで新しい世界を切り開くべきだと、述べている。)
ー楽しく仕事をされている感じですが、一度クラシタスを退職されているそうですね。
小関:そうなんです。隣の芝生が青く見えたことも正直ありますね。違う環境見たさで大手ハウスメーカーに転職したんですけど、入社してみたら働き方や価値観のギャップが大きく、将来のなりたい姿を冷静に考えた結果、それが実現可能なのは今の会社だと思って戻ってきました。
ー出戻りのきっかけは?
小関:クラシタスの社員の結婚式に招待され、社長と再会して「お前戻ってこいよ」と声をかけて頂いたんです。
その時に、「人を集めるような空間場所作りをやりたい」という、つぶ亭にも繋がる自分のライフプランを話したら、「うちの会社で働きながらやればいいじゃん」と社長が言ってくれて。その言葉があって、今の会社に戻ると決めました。
ーパラレルキャリアを実践して、本業への影響はありますか?
小関:実は、つぶ亭の事例は、県の空き家活用マニュアルにも載っているので、それを営業に活かしています。
あと、営業の仕方、コミュニケーションの仕方が変わりました。営業する時、お客様は「お金を出す側」で私たちは「お金を頂く側」と分かれている関係じゃなくて、「一緒に課題解決に向かっていく共同体」という感じの営業の仕方に変わりましたね。
最近は、あまり営業してる感覚がない感じで、とても仕事がしやすいです。
社外の活動を容認。 中小企業クラシタスの「人財に対する考え」
人事担当の庄子さんにもお話を伺います。
ー会社は、副業を容認しているんですか?
庄子和裕さん(以下、庄子):会社の就業規則では、副業する事を禁止としています。ただ、副業を厳密に捉えれば「報酬(収益)を得る事」であり、小関の活動は、自分のスキルアップや夢の実現、社会貢献活動など報酬を得る事を目的としないパラレルキャリアだと捉えています。
これからは「働き方」がますます変わる事を踏まえ社員の働き方を柔軟に考えて行かなければなりませんよね。
庄子和裕さん クラシタス株式会社経営企画室部長。人事として採用面接を担当しており、当時新卒の小関さんの採用も行った。
ー副業やパラレルキャリアを容認しない企業がまだ多い中で、小関さんの活動は御社にとってどう活きていますか?
庄子:小関の活動は、組織の規律も重要視しながら「個」としての個性を伸ばす事も大切だと考えています。これは中小企業としての環境だからこそ、その強みを伸ばして欲しいという代表の考えでもあります。
会社としては、「本業以外の事に労力を使って本業に力を注げない」とか「副業に大きな時間を費やし本業に影響が出る」となればそれは問題だと思っています。しかし、その支障なく、社外の仕事を様々な経験を通して本業に活かせる事が出来れば結構な事だと思っています。
これからAI化が進む中で、ゼロから新しいアイデアを創造出来る力=クリエイティビティ―(デザインする力)や 人の意識に働きかけたりする力=リーダーシップ(マネジメントする力)そして人が感じている潜在的な不満を解消してあげられる力=ホスピタリティー(問題解決力)をスキルとして持っていなければいつの間にか自分の仕事は機械に奪われてしまいます。
是非、地域の社会課題を解決する活動を通して多くの経験値を小関に積んで欲しいと思っています。
(編集部注2:会社が「社員が就業時間以外の時間で副業することを全面禁止」していても、憲法・法律にはそのような拘束力はなく、裁判所も就業規則で副業を許可制とすること自体は認めています。ただし、副業を行った結果、1・疲労等により本業に影響が出るほどの長時間の副業の場合 2・本業と副業が競業関係になる場合 3・副業の内容が会社の信用を失墜させるような場合など本業がおろそかになるようなことがあれば、本業の雇用契約に対する債務不履行に他ならず、懲戒処分や損害賠償を受ける可能性がある キャリアコンパス記事より抜粋 )
ー本業以外の事業活動を行う社員は、企業側から「仕事を疎かにしてけしからん社員」と捉えられる事が多いのかなと予測しているのですが、御社はかなりフラットですよね。それに、一度退職した社員が戻ってこれる環境を自然体で作られていますね。その秘訣は何でしょうか?
庄子:それは、会社の社風・代表の考え方が影響していると言えます。
当社は理念の一つに「一人一人が経営者」という言葉があります。ただ言われた事だけを「従」うと言った「従」業員ではなく、能動的・主体的に働き、将来の自分創り、そして私たちが掲げる会社のミッションを達成させることを一番の目的としています。その目的と自分のビジョンや働き方が合致していれば例え退職した社員であろうとも私たちは仲間として再度迎え入れたいと思っています。
小関は、一言で言うと「尖った奴」です。
誤解の無い様に説明しておきますが、性格が悪い訳でない。攻撃的な訳でもない。
錐(きり)の様に自分の信じた事一点に集中して、いつの間にかその道を切り開いてしまう。
そんな意味の「尖った奴」です。(笑)
そんな小関には社内外で関わる多くの人からの感性や経験値を吸収してもらい、自分の個性を更に魅力的なものにしてほしいですね。
組織と個人が”働く価値観”を共有し、ミッション実現に足りない部分を埋め合う。
ー中小企業は、やはり代表の考えが、組織のありように大きく反映されますよね。御社では「コミュニティ」を大切にされていると伺いました。
庄子:そうですね。クラシタスは2011年に現在の代表が就任したことを機に、事業定義を単なる「建築業」としての位置づけだけではなく「地域社会デザイン業」としました。
これは、自社の事業を通して、お客様の暮らしに寄り添い、元気な地域をデザインする事や、人と人が繋がる地域を描き、笑顔溢れる未来を作れる会社にしたいと言った思いです。
実際に、地域の清掃活動に参加したり高齢者がご不安になられている将来のライフワークを行政書士や生前整理のプロにも協力頂き、無料セミナーとして定期的に開催したり大変ご好評を得ています。
ー小関さんも、「面白い人が集まる場」「コミュニティ」「場づくり」といったことをするために、つぶ亭を始めていますよね。
小関:私は、会社だけでなく自分のミッション達成のためにもつぶ亭という「本業以外の事業」をやっています。「コミュニティを大切にしたい」という考えが会社の方針と合致した、という感じです。
よく社長とは「目指す目標は一緒だけど、その道のりが違うんだよね」と話しています。
どうしても営利企業ではやれないこともあるじゃないですか。
でも、手段があるほど、ミッション達成に近づきやすくなる。
会社と個人が足りない部分をお互いに試行錯誤しながら埋めあえると、ミッション達成するんじゃないんですかね。
ー社員から自発的に、新規事業・新規サービスが生まれるというのは、大手企業と比べて人的リソースが不足している中小企業にとっては「主体性がある人材が育っている」という実感が持てる、嬉しいことです。中小企業にとって「社員のパラレルキャリアを容認する」のは、社員への研修・教育の投資をせずとも、社員が多様な経験を積むことででき、自律的な人材が育ち、結果的に本業に還元される機会、と捉えることも出来ます。
更に、”働く価値観”を共有すれば、「本業のために、本業以外の活動(例:つぶ亭)を行なっている訳ではない」パラレルキャリアを実践する社員も、企業側のやりたいことやミッション実現のために巻き込まれる、一緒になって同じ目標に向かっていける、と言えそうですね。
庄子:そうですね。会社にとって最高なのは、「働く価値観があう人」ですよね。
結局、副業とかパラレルキャリアをするかしないかではなく、仕事に対するスタンスをすり合わせると、お互いに仕事がしやすくなります。
でも、若い人ほど、「価値観」とか「理念」を考える機会がなくて、条件とか制度とか表面だけのところで判断してしまいがちです。
よく就職は結婚に例えられるけど、結婚するときも「お金に対する考え方」「将来どんな家庭にしたいか」「子供は欲しいか」とか、価値観をすりあわせるって大切です。
もちろん条件も制度も大事だけど、表面的なものだけで仕事を選んで、やらされ感で働いてるときっとAIに負けてしまう。
そうならないように、若い人たちには、その会社はどんな「働く価値観」を持っているかを知って欲しいですね。
小関さん(左)、庄子さん(右)
庄子:「会社に雇用してもらう」という受け身ではなく、「会社の環境を利用して」自分の長所や様々な経験財産を将来に活かす そんな働き方をしてほしいと思います。
小関:「本業以外の事業」の目的がお金ではなく「まず社会問題に目を向けなければいけない」という所が、取っ掛かりでしたが、結果的にこの事業が多くのお客様に受け入れられ、収益を得られる様になれば嬉しいに越したことはありません。その時には、空き家管理の事業をスタートさせた私が代表から全てを任せられる様になりたいですね。
取材後記
生き方・働き方の多様性、ビジネスインフラが整っていることなどを背景に、これからの社会では、ある1社の正社員に所属が固定されて働く人が相対的に減り、複数の会社に所属する、独立してフリーランスになる、学び直しを経て復職するといったストーリーが、多くの人にとってますます現実味を帯びていくとも言われています。
企業の多くの人事の方々が、優秀な人材の確保が難しくなっていくだろうと考えている現在、「働く個人」の多様性・変化に、企業も多様に変化していく必要があると言えそうです。
参考記事:【会社員+αで活動する】副業・パラレルキャリアのチャンスとリスク
取材協力:Tsuki cafe
※この記事は、平成29年度「東北地域中小企業・小規模事業者人材確保・定着支援等事業」として作成しました。