みなさん、こんにちは!
(株)キャリアクリエイトが、いつかは山形に戻ろうかと考えている
このコラムでは山形の「攻めの会社」の“今”と、
新たなことやコツコツ地道に挑戦し続ける地元企業の姿から、山形ならではの風土、文化、
【過去の記事】
山形の「攻めの会社」教えます。vol.1 「革新を続ける老舗企業の姿」
山形の「攻めの会社」教えます。vol.2 「山形から世界へ! めっき技術の革新で、新分野開拓」
山形の「攻めの会社」教えます。vol.3 「人材力と企画力で進化を続ける制作プロダクション」
東北を代表する「餅」メーカー 城北麺工株式会社
大晦日には年越しそば、お正月には鏡餅を飾りお餅を食べる日本ならではの文化。そんな伝統食品ともいえる「めん」と「もち」を、山形市で製造している城北麺工株式会社。「羽黒そば」や「餅はやまがた生きり餅」などは、独自開発した代表する商品となっています。特に、小売店で流通している生きり餅(角餅)を製造しているのは、東北では2社だけ。山形、いや東北を代表する餅製造の食品メーカーです。
同社のこれまでの歩みや商品開発について、代表取締役社長の峯田吉男さんに、お話を伺いました。
―峯田:当社は戦後の食糧難の時代に、麺類の配給を米屋が行うことになり、山形・天童・上山の製麺業者が組合を設立し、乾麺工場を建てて乾麺加工して配給したのが前身です。乾麺だけですと、冬期間、手が空いてしまうため、餅の製造を農家から借りた杵とうすを使い手つきで行っていました。昭和31年に組合が請け負っていた麺と餅の製造を引き継ぐ形で、城北麺工株式会社を設立し、現在に至ります。
―原田:独自に開発した商品もたくさんあるようですね。
―峯田:「羽黒そば」や「餅はやまがた生きり餅」は、うちの主力商品です。これまでいろいろなものを開発してきました。昭和47年には、かびない鏡餅を開発し特許を取得しています。当時、先代社長がハワイ在住の友人から、「ハワイにいる日本人もお正月を祝いたい、鏡餅をなんとか持ってこられないか」と相談されたことがきっかけとなって開発したのです。それまでは、手作業で丸めて作っていたため、飾っているとどうしてもカビが生えてしまいます。画期的な商品に全国の30%シェアを取っていた時期もありました。
生活様式の変化などから、鏡餅の需要も減ってきています。昔はテレビの上が定番だったのですが、最近は薄くなって、置けなくなってしまいましたね。餅のメーカーもだいぶ少なくなってしまいました。
―原田:そういえば、昔は家を新築する際、建前でお餅まいたり、お祭りでふるまわれたりしていました。最近ではお餅を食べる機会って減っているような気がします。
―峯田:お正月で鏡餅を飾ったり、お店の開店での餅のふるまい、それから子どもが立って歩いたときに一升餅を背負わせる風習もありますね。また、四十九日の法要でも、餅をお供えする習わしがあり、当社の商品でも扱っています。おめでたいときも、不幸が起きたときも、暮らしの中で用いられてきました。そんなお餅を日本の伝統的な食文化として伝えていかなければと思います。私たちは国内産水稲もち米100%使用した包装餅を扱う会社が共同で組織している全国餅工業協同組合(以下、全餅工)に加盟しています。全餅工では、日本の食文化「餅」を伝えたいと様々な活動を行っている団体です。餅業界は新潟が強く、全餅工19社中12社が新潟の会社です。東北地方では、宮城県の会社と当社の2社だけです。
―原田:東北では2社だけなのですか!
―峯田:宮城の会社が加盟してくるまでは、東北ではうちだけでした。山形はつや姫に代表されるように米どころで、水が上質なこともあり、おいしい餅ができる条件が揃っています。原料のお米も、出羽のもちを品種改良したひめのもちという品種を主に使用しています。新潟の会社は別の品種ですから、他の餅にはあまりない山形ならではの原材料を使ったお餅と言えるかもしれません。お米自体、美味しいものを選ぶのはもちろん、杵と臼を使ってつきあげる製法で、こだわりの味を追求しています。
―原田:日本の伝統的な食文化「餅」を守り続けるために行っていることはありますか?
―峯田:鏡餅などは、万両充填(目いっぱいお餅が入っている状態)が扱いにくいということで、中に切り餅を入れてあったり、のしなどの飾りが最初からされていて箱から出すだけで飾れるなど、手間をかけさせない工夫をしたものが売り出されています。橙を飾るかわりにキャラクターを使用しているメーカーもありますね。また、餅は腹持ちが良くスポーツ、特にマラソンに最適ということで、全餅工と一緒に、佐渡トライアスロンや名古屋の少年大会などのスポーツイベントで餅のPR活動を行っています。当社独自では、ヤマザワさんなどの新規店舗オープン時の餅のふるまいや東京の山形プラザでの出展などになります。
――原田:今後、企業として目指すことは何ですか?
―峯田:よく社内で若い人と雑談するんですよ。新しい商品のヒントがたくさん出てきて、若手スタッフ4名と開発チームを作っています。その中から生まれたのが、ハートの形をしたお餅です。白とピンクの2色あり、ブライダルのシーンで喜ばれています。社員には「小粒でもキラリと光る会社にしていこうよ」とよく話します。大手の真似事ではなく、オンリーワンを目指していきたいですね。
食の安全と美味しさを両立させた3階建ての工場で、新鮮でコシがあるお餅を製造
城北麺工(株)の主力商品「餅はやまがた生きり餅」が生産されている第二クリーンルーム工場を常務取締役の佐藤誠さんに案内していただきました。
―佐藤:この工場では、生きり餅という種類の商品を作っています。これは、もちをついて平らにのばし、四角にカットしたあと、1個ずつ個包装し、餅のおいしさをそのままにシングルパックした商品です。厳選したお米をもみ殻のまま購入し、自社で精米します。精米のときに、厳しい基準を設けて、欠けや割れの無い良質なお米に選別します。
―原田:欠けているのもダメなのですか?味は変わらないような気がしますが。
―佐藤:私も最初はそう思ったのですが、欠けていると水に浸したときに、吸水量が変わってきて、仕上がりに違いがでるそうなんです。精米したお米をエアーシューターで洗米するところに運ぶのですが、これもお米をシューターの側面にぶつけて傷つけないように、吸い上げる方式ものを採用しています。
洗ったお米を浸漬(水にひたす)・水切りし、蒸かして、もちつきの工程へ。昔ながらの方法を守り、杵と臼でつきあげるのが最大の特徴です。この方法だと、コシのあるお餅になります。つきあがったお餅をのして冷却し、適当な大きさにカットし一つずつパック、包装して完成となります。
―原田:工場というと、広大な敷地に大きな長方形の四角い建物というイメージなのですが、こちらは3階建てなんですね。
―佐藤:他の場所に移転しようかという話もあったのですが、ここの地下水は蔵王山系の伏流水でとても良質。そこで移転はせずに、平屋にして製造する仕組みを3階建てに設計してもらいました。生産効率や生産量のアップはもちろんですが、最近は食の安全・安心も非常に求められています。そこで、工場内は病院の手術室より高いレベルのクリーンな環境に保っています。さらに包装するときに、金属探知機を通し異物が紛れていないか検品し、UV殺菌して、安全・安心な品質へ。あとは、人です。ここで働く社員の安全衛生に対する意識が重要になります。
―原田:(工場内見学時に)音楽が流れていますね。この音楽は?
―佐藤:これは、社員に手を洗浄してもらう合図です。一定間隔で流して、定期的な手の洗浄を促しています。この音楽を流すというのは一例ですけれども、衛生管理や製造手順に関してはきまりを作って、守ってもらうための教育の機会を設けています。
それから、当社の餅は、精米してから36時間以内に杵と臼でつきあげるため、新鮮でコシがあるのが特徴です。お米も野菜ですから、精米してしまうと、鮮度が落ちるため、生産する量でどのぐらい精米するか変わってきます。よりよい品質・美味しさのためには、生産管理も大切な要素。朝ミーティングをして、午前中の進行具合を見て、午後の作業前にミーティングを行います。
「お客様の美味しい」を一番に考えた商品づくり
入社3年目の槇かれんさんに、会社のこと、聞いてみました。
―槇:私は、クリーンルーム内でトッポギやトックという商品の包装作業をしています。自分より年上でここでの経験も長いパートの方に社員として指示しなくてはならず、大変なときもありますが、包装した商品がお店に並んでいると嬉しくなります。忙しくなったときに、納期が間に合わないかもと、慌てて作業するとミスが多くなります。そんなとき、先輩から相談に乗ってもらい、アドバイスをしてもらいました。社長もよく声を掛けてくれます。
社長は、技術職をしていた経験から、「安かろう、儲かろう」ではなく、「味がおいしい」ことを追求してきましたし、こだわりもあります。新入社員は、もち米の農家さんのところで、田植えと稲刈り体験をするんですよ。
私達のお客様というと、小売店のバイヤーさんなどが多いのですが、目利きの人からは、当社の商品を「おいしいから」といって、たくさん仕入れていただいています。
餅を食べ比べすることは中々ないのですが、うちの餅は原材料や製法、鮮度にこだわっているから、美味しいんです!わかる方にはわかっていただけているんだなと嬉しくなりました。麺類に関しても味がいいからと引き合いがあり、地元の飲食店さんにも卸させていただいています。
編集後記
お米一粒一粒のことに気を配り、より美味しさと安全安心を求める施設に、社長のモノづくりへの愛情を感じました。また、お話をしていて、伝統文化である餅を作っていることへの誇りと、大切に伝えていきたいという熱意も伝わってきました。
杵つき餅の袋にある原材料の表記は水稲もち米のみ。
もち米と水だけでできたシンプルなものほど、ごまかしも効かなくて、真摯なモノづくりが試されるものかもしれません。
東北を代表する品質の良い餅を作る会社が、ここ山形にあることに、私たちも嬉しくなりました。
Profile
峯田吉男さん
昭和35年生まれ。3年の乾麺工場経験のち、餅工場に配属。以降27年間餅製造畑を歩む。平成21年、取締役餅工場長から同社7代目となる代表取締役に就任。気さくな人柄で、若手社員との距離も近く、雑談からヒット商品が生まれた例あり。技術畑出身の為、即決のトップ商談が可能、また、愛車を駆使し仙台、新潟、東京を飛び回るフットワークの良さが、取引先から評価されている。