「書く」お仕事について

最近は、暮らしのことを通じて、文章で人に何かを伝える機会が増えてきました。このコラムもその一つ。自分がやっていることのうち、比重が大きいものを本業と呼ぶのなら、私にとってそれは「ライター」「コラムニスト」というお仕事。思い入れという意味での比重も大きいです。

ライターという定義は難しいです。名乗ればライターだし、イマイチ見えにくい職種だと思います。書くジャンルも題材も様々。私は、暮らし(主に子育て)、そして農業のことをメインに書いています。

2015-05-06 08.08.52-2↑我が家の末っ子双子。この子たちの存在だけでもネタは尽きることがありません。

私がライターというものに持っているイメージは、“ 書く自分の個を出さずに、対象について客観的に書く”というものなのですが、私は子育てについてのコラムを書かせていただくこともあり、そこにはがっつり主観が入ります。「暮らす」って、とても主観的。毎日をエンドレスに過ごすプライベートな空間では、自分や家族の主観が全て。そこには他人との比較だとか、どう思われるかとかは全然関係ありません。家族が心地よければ、それでいい。大家族の日常を、コラムという枠で書く機会を、今年からいただいています。

子どもが5人もいれば、毎日何かしらの事件が起こり、笑えることも怒れることもたくさんあります。そんな日常を描くことで、どこかで誰かが「子だくさんもいいかもな」「この人にやれているなら私にもやれそう」と思ってくれたらいい。1万人に1人でもいい。大多数の人に向けて発信するものだけれど、その実、琴線に触れるほんの一部の人に届けばいい、と思いながら書いています。

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「所縁(ゆかり)のない山形に移住しよう」「大家族ファミリーの一員になる」どちらも大きな決断です。私の場合は、いつのまにかそうなっちゃった、という感じですが、何をするにしても、ガラリと環境が変わり、そこに合わせて自分を変化させていくというのは大変な作業です。それを実践している人の言葉が、迷っている人の最後の後押しになることもある。あってほしい。あとは、本人の行動あるのみ。

原点は日記から

前回の「暮らしに添う副業」で染め物講師になったくだりと同じで、「書く」お仕事は、暮らしの中から派生してきました。もともと記録魔で、専業主婦になってからはほぼ毎日、日記を書いていました。子どもの成長記録は写真だけでは物足りず、初めて歩いたとか、こんな言葉を喋ったとか。現在は5人いるので、その全てを記録するのはとても無理で諦めましたが。。文章を書くのは好きだし、慣れてました。自分の知らない単語があると調べたり、と、普段の生活はズボラですが、文章に関してだけはマメでした。日本人は日本語に取り囲まれて生きているのだから、言葉を知らずになんとする、と。自分の意識も言語で作られるのだから、言葉って大事ですよね。…と、やっと思えたのは成人してからです(国語ちゃんと勉強しとけばよかった)。

自分の子どもが小学生になり、人並みに勉強なんかもするようになりましたが、宿題の解答を見ていると、これがまあテキトーでして。文節とか文脈とか漢字とか、なんというかもう、言葉やノートがかわいそう。でもそれが子どもの面白いところでもあるんですけどね。言葉や文字なんてなくても人間は生きていけそう、とすら思います。特に子どもは直感だけで生きていますから。そんな我が子たちを見ていると、言葉を大切にしたい自分と葛藤が生まれますが、はるか昔、文字はもともと一部の人間だけが使っていたもので、それが一般庶民に普及して、現在では生活になくてはならないものとなっていきました。高貴な文化から日常に変化したもの。記録や伝達のために、必要なもの。

子どもに「宿題しなさい」と言いたくないので、日記でも書いたら、と言っています。覚えた言葉を自分のものにしてアウトプットするって大事だなと、大人になってからしみじみ思うのです。算数の文章題だって、結局は言葉の理解に尽きる、と実感したのは大人になってから。もうちょっと早く知りたかったなあ。

私なら子どものうちにこれを知りたかった、ということを教えるのが、私の子育てのテーマの一つです。未来Lab.のコラムをはじめたときも「自分が移住前にこれを知っていたかった」ことを書こう、と常に思っていました。

取材して記事を書くこともあるので、そちらでは自分の知らない世界が拓けることが楽しく、対する子育て系のコラムでは、好き勝手に書けるのが気楽だったりします。

お仕事でコラムを書くようになって勉強になったのは「決められた文字数に伝えたいことをまとめる」ということ。これだけは、日記をだらだら書いていただけでは上達しなかったと思います。今も勉強中。

コラムに関しては、テレビで見る大家族ドタバタコメディみたいに、深く考えないで読んでもらえたらな、と思っています。子だくさんとか同居とかいうと、家計は火の車で悲壮感漂ってる、みたいなイメージがあるようなので、「子だくさんで騒々しくも、家族10人、頼ったり頼られたりしながら適当に楽しく暮らしているよ」と伝えたいだけ。子だくさんを推奨するわけでも何でもありません。日本中に何万とある家族の暮らしの、我が家はこうなんだよというお話。

子どもが日記を書くときに、よく「今日は何もしていないから、何書こうかな」というのですが、そんなことはない、庭の花が咲いたとか、妹が転んだとか、そんなことでいい。書いたそのときはピンとこないかもしれないけれど、一冊終わったあとに読んでみると、こんなに面白いものはない。何気なく書いた文章の中に、季節や暮らしのことがぎゅっと詰まっている。

2015-05-08 12.27.59↑今の最上地方は田んぼの準備が始まっています。

その季節にしか見ることができないもの、感じられないこと、意識することがないだけで、たくさん目の前を通り過ぎているはず。かくいう私は、小学校から中学校まで田んぼ道を毎日通学していたはずなのに、田植えや稲刈りの光景を全く覚えていない。いろんなものを目にしていたはずなのに、学校の日記に書くことないなあ、なんて思っていた気がします。

その情報を誰かが欲しがっている

私が新庄市に移住してくる直前のことを思い出します。

当時はネットの情報は今ほど豊富ではありませんでした。田舎だから特になのでしょうか。少なくとも、自分の知りたい土地の情報を、その土地に住む人が発信していて、それを気軽に読むことができる、という時代ではありませんでした。私は当時、まだ言葉も喋れない長女を抱えながら次女を妊娠中という時期で、新庄市の夫の生家への引越しを目前に控えていました。気軽に出歩けないこともあり、夫が知らないことについては、インターネットの情報に助けを求めたのでした。

空いた時間にパソコンを開くことで、得られた情報もありましたが、そのほとんどはピンとこない。今になって思うと、自分の生活すら明確に描けていないのに、調べ物をしてもあまり意味がありませんでした。たいていは暮らしてみて初めて実感が得られることばかりでした。情報はたくさんあるけれど、洪水のようなそれを上手に取捨選択することができません。判断材料が少なすぎて。

当時はブログというものの黎明期で、よく探せば、その土地に暮らす人のブログを読むこともできました。自分も気軽に発信できるとは知らず、インターネットに対して完全に受け身の時代です。他人の日常をのぞいているような不思議な気分でしたが、自治体のHPや施設のイベント情報なんかを見るよりも、その土地のことがよくわかりました。主婦なので、日常のことを知りたいわけなのです。楽しいコトより、まずはどう暮らすか。楽しみは暮らす中で見つけていくもの。

土地に暮らすということは、個人の実感が全てなので、現代において気軽に誰もが発信・交流できることで、土地のことを知りたいときには、情報を得るアドバンテージがかなり低くなってます。SNSで気軽に人と繋がり、知りたい情報を瞬時に手に入れられるのは、やはりすごい。

私の身の回りで、積極的に情報発信しているのは、どちらかというと土地の人より移住してきた人たち。今まで住んでいた土地とまったく違う場所に来たことで、目にするもの全てが真新しく、発信せずにはいられないようです。私もその一人ですが。自分は主婦なので、やっぱり同じ主婦目線で発信されているものに目がいきます。

文章の話に戻ると、私の場合はけっこう人見知りする方なので、喋るのが苦手で書くのが得意になった、という側面もあるかもしれないです。

書きたいネタがある、この環境もありがたいなと思います。伝えたくなるような魅力的な場所、人、ものがなければ、そもそも文章にしたいと思わないでしょうから。縁があってそれがお仕事に繋がったのは、本当にラッキーなことです。新庄に来て出会った全ての人に、感謝したい。

職業にするとかじゃなくとも、少しずつでも「日常を発信」してみること。これは誰にでもおすすめしています。私は「主婦」というフィルターを通して見えることや、農家さんの暮らしを聞き書きすることを生業としていますが、同じ土地に住んでも、年齢や立場によって、感じることは千差万別。自分だけかな、と思っても、同じように感じる人が必ずいて、ほんの些細な、と思ってしまうような情報を、知らない誰かが欲しがっているかもしれません。

だから私も、自分の身の回りのことを発信し続けます。

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このところ、最上地方にしては珍しく、晴れ続きの毎日です。
種まきの時期なので、もう少し雨がほしいかな、と思っています。

ではまた来月に!

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この記事を書いた人

小嶋 可那子

平成19年に夫の故郷の新庄市での暮らしをスタートさせました。四世代同居で10人家族です。 最上伝承野菜のPRや、染め物を生業としながら、ときど...

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