全国のさくらんぼファンの皆さん、待ちに待ったさくらんぼシーズンの到来です!
山の緑と青空のコントラストの下で輝く初夏のルビー。
山形の美味しいさくらんぼは、みんなを笑顔にしてくれますよね。

そんな心躍る風景とは裏腹に、さくらんぼ農家さんは猫の手も借りたい忙しさ。
実は近年、さくらんぼ農家の人手不足が深刻な問題となっているのをご存知でしょうか。
今回は、新たな発想と行動力で農家の課題に立ち向かう、あるさくらんぼ農家さんの取り組みをご紹介します。

 

今回のやまがたで働く人

 

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小座間剛(おざま つよし)さん プロフィール

1964年(昭和39年)1月生まれ。山形県天童市出身。果樹農家。「濃厚フルーツ おざま農園」園主。栽培作物:さくらんぼ 50a(5000平方メートル).ラ・フランス 90a(9000平方メートル).りんご 60a(6000平方メートル)。

さくらんぼ農家の悩みの種は、収穫時の人手不足

皆さん、山形のさくらんぼ農家を応援する「山形さくらんぼ部」という活動をご存知ですか? これは、さくらんぼ農家の人手不足をなんとかしようと小座間さんが始めたもので、全国から山形にさくらんぼの収穫サポーターとして来てもらおうという取り組みです。
――小座間さんは、4年前に「山形さくらんぼ部」を立ち上げたんですよね。なぜ、さくらんぼ部を立ち上げようと思われたのですか?

「さくらんぼは、1本の樹に何千個もの実をつけます。色づき始めると一気に熟すため、すべての実を一度に収穫するのはとても大変なんです。収穫する人手が足りないと、もぎ遅れたり、最悪の場合は収穫できず、樹になりっぱなしで放置してしまうこともあります。

私たち生産者からすれば、せっかく丹精込めて育てたさくらんぼを、一番美味しいときにお届けできずに捨ててしまわなければいけないというのは非常に悲しいことです。」

年々、生産者の高齢化が進み後継者が不足していることに加えて、最近は共働きの家庭が増え、かつてさくらんぼの手伝いにきてくれていた主婦の方たちも正社員やフルタイムで働きはじめるなど、社会全体の働き方が変わったことも人手不足の要因のひとつといわれています。

「このあたりの小さい農家はみんな人手不足で困っており、どこも同じ問題を抱えていたので、なんとかしなければと思っていました。

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そこで、一番美味しい時期にさくらんぼを収穫し、消費者の皆さんにお届けするためにはどうすればいいのかを、以前学んだTOC(※1)という考え方をもとに、販売業者さんと一緒に話し合いました。

※1…おもに生産管理や経営管理で用いられる理論の1つ。ボトルネック(物事がスムーズに進行しない要因)に着目して作業効率を改善するための手法。

「さくらんぼを出荷するまでのボトルネックは収穫時の人手不足」ということはわかっても、それを解決するために人手を増やそうとすると、今度は人件費がかかります。

数年前から、さくらんぼの時期になると人を確保するためにアルバイトの時給競争が始まり、あっちが800円ならこっちは1000円、1200円と、どんどん時給を上げなければならなくなっていました。そうすると結局、農家は自分の首を締めることになるわけですよね。

その分、商品を高く売れればいいかもしれませんが、われわれのような個人の農家では限界があります。

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(さくらんぼの収穫がはじまると、家族総出で朝から晩まで作業に追われます)

さくらんぼファンが、さくらんぼ農家を救う

人件費を抑え、収穫者を増やすにはどうすればよいか? 他の農家さんも抱えている課題は同じ。まわりのさくらんぼ農家も一緒に取り組める、何か良いアイデアはないか…。

来る日も来る日も考えました。その結果、さくらんぼは山形が誇る人気のある果物なのだから、日本各地にさくらんぼファンがいるのでは? というところに行きつきました。

そこで、さくらんぼの生育や作業過程を知ってもらい、一緒に作業することで、楽しみながら“さくらんぼのファン”になってもらおうとはじめたのが「山形さくらんぼ部」なんです。

『山形さくらんぼ部』…さくらんぼ農家の収穫をお手伝いし、美味しいさくらんぼを味わいながら山形のさくらんぼ農家を応援する活動。食事・宿泊・1kgのさくらんぼのお土産付き。(※交通費は自己負担)

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ーーアイデアを思いついても、実際に人を集めるのは大変なことですよね。

立ち上げてすぐにFacebookのグループを作り、いろんな方にシェアしていただいたのですが、人は集まりませんでした。

最初の年は2人。しかも2人とも私の知り合いです(笑)。さくらんぼを食べに来たいというのをいいことに、半強制的に朝から晩まで収穫を手伝ってもらいました。翌年は、前年の反省を踏まえて早めに告知をしたり、様々なフルーツ関連のイベントに参加してPRしたり…。おかげで、その年は15名参加してくれました。

そんなふうにして、あちこちに顔を出してPRしているうちに、参加してくださった方の口コミなどもあり、少しずつ参加者が増えていったんです。

小座間さんは、HPやfacebookで積極的に情報を発信したり、全国各地を飛び回ってさまざまなイベントに参加したりと、持ち前のバイタリティと笑顔であきらめずにPRし続けました。
ときに熱くさくらんぼの魅力と農家の現状について話し、ときにはニコニコしながらさくらんぼのかぶりものをかぶるおちゃめなキャラクターで、ひたすら地道に「山形さくらんぼ部」の活動を伝えていったのです。

 

“さくらんぼの収穫”=“ここでしかできない体験”という価値

――さくらんぼの収穫を手伝ってくれる方には、食事と宿泊付きでさくらんぼのお土産まであるなんて魅力的です。労働の対価として“お金(アルバイト代)”を払うのではなく、“体験”を提供するという考え方なのですね。

おかげさまで、最近は定員オーバーになるぐらいたくさんの応募があり、いくつかの農家さんになんとか受け入れてもらいうまくいっています。

はじめての方でも一から教えるので大丈夫ですが、今、3分の1はリピーターの方なので作業も慣れていてとても助かってます。

全国から幅広い年齢層の人が来てくれて、四国からご夫婦で来てくださる方もいますし、料理人やパティシエの方、定年退職されて季節ごとに全国を回って農家さんのお手伝いをしている方とか…。

さくらんぼ部の人たちで一緒にご飯を食べに行ったりする交流の時間もあるので、活動が終わった後も連絡を取り合ってお付き合いが続く人もいるみたいですよ。

 

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「山形さくらんぼ部」に参加してくれた皆さん

※2019年度は募集を締め切りました。

 

おもちゃ会社の開発担当、ネットショップ運営を経て、さくらんぼ農家へ

――小座間さんは、もともとサラリーマンだったそうですね。

おざま農園自体はずっと昔からやっているので私で7代目になりますが、私は就農してまだ7年目です。

子どもの頃から両親が果樹農家として働く姿を見てきて手伝いもしていたので、いずれはやるつもりでしたが、実はメカが好きで、某おもちゃ会社で長年開発をしていました。

その後は子会社でインターネット販売サイトの立ち上げと経営に携わっていましたが、数年前、親父が病気をしたことがきっかけで会社を辞めて就農したんです。

 

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――サラリーマンからさくらんぼ農家になって、ご自身の中で何か変化はありましたか?

どんな仕事も一長一短ありますけど、気持ちにゆとりができたのが一番良かったなと思います。サラリーマン時代はやっぱり組織のしがらみや対人関係のストレスがそれなりにありましたから。今は、ストレスはないですね。

おもしろいことに、以前は目がすごく悪かったのですが、就農してから目がよく見えるようになったんですよ(笑)。サラリーマン時代は1日中パソコンとにらめっこだったから、座りっぱなしで腰は痛くなるし、運動不足になるしで体に悪かったけど、今は体の調子も良いんです。

私は何でものめり込むほうなので、さくらんぼの栽培も、こうやったらどうなるんだろうと常に試行錯誤しながら追求していくのが好きなんです。リスクもありますけど、やった分だけ成果は返ってきますから、やりがいはありますね。

 

日本の人口減を見据え、海外のマーケットも視野に

――さくらんぼ農家としての今後の夢や、考えている新しい展開はありますか?

実は、今年から海外にも輸出しようと思っているんですよ。

最近の若い人は、お中元やお歳暮を贈ることもあまりなく、贈答品の注文が少なくなってきているため、今後は国内だけでなく海外にもマーケットを拡大していったほうがいいのかなと。

ソフトバンクが農産物の売り手と買い手をつなげる新しいマッチングサービス(AGMIRUを始めたので、それを使って海外でさくらんぼが欲しいという人にも届けたいと思っています。

まだ上手くいくかどうかわかりませんけど、新たなチャレンジなので楽しみでわくわくしています。

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――情報を敏感にキャッチして新しいことにチャレンジしていらっしゃるんですね。

サラリーマン時代に、仕事でネットショップの立ち上げと運営に携わっていたので、そのときの知識や人脈が今につながっているというのはあります。

知り合いの農業経営のコンサルティングをやっている人からたまたま海外輸出の話を聞いて、さくらんぼを輸出するのも面白そうだなと思ったんですよね。

農水省のGFP(※1)というイベントに参加したときに、小泉進次郎さんや鈴木憲和さんもいて、そこでいろいろな話が聞けたのもすごくいい刺激になりました。

聞いた話によると、2050年には日本国内の人口が20%少なくなるのに対し、世界の人口は15%増えるそうです。それを考えると、これからは農家もグローバルに展開していかなければならないですよね。

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※1…GFPとは、農林水産省が推進する日本の農林水産物・食品輸出プロジェクト。

――小座間さんの行動力が、人とのつながりや新たな取り組みに結びついているのだなと感じます。

もともと人と会って話すのが好きで、じっとしていられない性格なんですよ(笑)。

さくらんぼで忙しい時期以外は情報収集も兼ねてあちこちに出かけているので、週末はほとんど山形にいません。まぁ、現実逃避ともいいますが…(笑)。

サラリーマン時代は知り合う人も限られていたし、会社同士のお付き合いでしたけど、今は個人とのお付き合いなので、いろんな年代の人がいて人間性も見えるから面白い。さくらんぼを通じていろいろな人と出会えるのが楽しみなんです。

 

他にはない“濃厚”なフルーツができるワケ

 

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――おざま農園のフルーツは本当に味が“濃厚”ですが、こんなに美味しくなるのはなぜですか?

村山盆地は寒暖の差がはっきりしているということと、この辺りの土地は水はけが良いので果樹の生育に適しているということが関係していると思います。

また、うちでは有機肥料をふんだんに使って、しっかりと養分の行き届いた根張りの良い土作りをめざしています。

土から十分に養分を吸いあげる“根を育てる”ことが果樹の生育には欠かせません。除草剤はダイレクトに根に影響を与えるので、極力使わない方法で育てています。

現在、山形県には30種類以上のさくらんぼがありますが、うちで作っているのは、佐藤錦が8割、紅秀峰が2割。

今話題の新しい大玉品種「やまがた紅王」も植えましたよ。収穫できるようになるまでにはまだ時間がかかるけど、新しい品種はやっぱり楽しみだよね。

【濃厚フルーツ おざま農園】

994-0002 山形県 天童市大字乱川192ー2

HP:https://ozamafruit.com/

Facebook:https://www.facebook.com/orchard.ozama/

東京で小座間さんの濃厚なさくらんぼが食べられるイベントが開催されます!
https://mirailab.info/event/26277


 

さくらんぼ農家の仕事

皆さん、さくらんぼができるまでの農家さんのお仕事をご存知ですか?
小座間さんに、さくらんぼ農家のお仕事の流れを教えていただきました。

<1月〜2月>…整枝・剪定。

冬場の一番寒い時期は、細い枝だけを切ります。さくらんぼは寒さに弱いので、太い枝は大寒を過ぎてから。寒い時期に大きな枝を落とすと“凍み枯れ”と言って、切ったところから凍って枯れてしまうため、大きな枝はなるべく後半に落とします。

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「剪定しないと枝が混んできて日当たりも悪くなるので、剪定は大事です。

冬場は積雪の影響で果樹の枝が折れないようにまずは木に積もった雪おろしから。積雪の中を歩いて行くだけで倍以上の体力を消耗しますが、枝が折れれば大打撃ですから放っておくわけにはいきません。」

<3月〜4月>…摘芽・摘蕾(芽欠き)。

佐藤錦は葉芽と花芽を3芽、紅秀峰は葉芽と花芽を1芽だけ残します。さくらんぼは1本の木に何万個も蕾をつけるため、これをしないと花が咲きすぎて果実の成長が悪くなります。芽欠きは大きさの揃った良い果実を作るための大事な作業。

芽かき

<4月〜5月>…施肥(元肥え)。受粉。

「4月にあげる肥料は「元肥え(もとごえ)」と言って、“元気に育っておいしい実をつけてね”という意味で、いわば木に働いてもらうための肥やしです。

人間も元気に働くためにご飯を食べますよね? それと同じです。木も働く前に栄養をたくわえてあげないといい仕事ができませんから。」

受粉

(写真:ダチョウの羽の毛羽たきでサーッとなでて、受粉させる。)

さくらんぼは同じ品種では交配せず実にならないため、佐藤錦は交配樹の紅さやかやナポレオンから花粉をとり受粉します。

 

<5月中旬>…摘果。

一箇所にたくさんの実がなりすぎると、粒が大きく育ちません。少し実がふくらんできたら、バランスを見て良い粒だけを残し他の実はとってしまいます。

摘果後

<5月下旬>…ハウスのビニール掛け。

梅雨時にさくらんぼに雨があたると実割れするため、ビニールをかけてさくらんぼを雨から守ります。

<6月上旬>…葉摘み。反射シート設置。

「日光がよく当たるように、光を遮っている葉っぱをとり除きます。畑に反射シートを敷くのは、下からも光を当てて色づきを良くするため。水は、やりすぎると良くないですし、味にも影響するのでタイミングが重要。葉っぱが少し黄色っぽかったり丸まったりしていたら水が不足している証拠なので、様子を見ながら水をまきます。」

<6月中旬>…収穫・発送。

さくらんぼは収穫する時間によって鮮度が全く違います。朝採りがいちばん鮮度が良く長持ちして美味しいため、朝5時〜7時の間に集中して収穫を行います。

さくらんぼの木

(高いところの実も脚立に乗って一つひとつ手作業で採ります。約12日間で何万個もの実をすべて収穫するのは大変な作業。)

<7月>…施肥(お礼肥え)。

「収穫が終わったら、木に“ありがとう”という感謝の意味を込めて「お礼肥え(おれいごえ)」をします。収穫が終わると木も疲れるんですよ。やはり樹木も生きているので、働くだけ働かせて何も与えなかったら倒れちゃいますよね。」

<7月下旬>…ハウスのビニールを降ろす。

「農家によって違いますが、うちは一年使ったビニールは廃棄します。複数年使うと紫外線の透過率が悪くなり、さくらんぼの色づきが悪くなるんです。また、穴が空いたり切れたりすることもあるので、家では毎年新しいビニールにしています。」

<8月>…灌水(水やり)。

来年の花芽形成の大事な時期に水分が足りないと双子果が増えるため、この時期の水やりは欠かせません。

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<9月> 夏切り(剪定)。太い枝を切る。

山形のおいしいさくらんぼは、このような農家さんの大変な作業とたくさんの努力、そして大きな愛情が一粒ひと粒にギュッと詰まっているのですね。このおいしさが今年も日本全国、いえ、世界中のさくらんぼファンの皆さんに届きますように!

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