〜『山形県精神文化ツーリズム事業』特別連載企画第1弾(全2回)〜
sponsored by 株式会社めぐるん

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第1回:「山形に息づく精神文化の魅力と価値を伝え“幸せで持続可能な地域”をつくる」(今回の記事)
第2回:「新しい風を入れることで地域を見つめ直し、山形の魅力と文化を紡いでいく」(1月10日公開予定)
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山形県では現在、地方創生へ向けたインバウンド拡大が大きなテーマとなっています。
県は、2020年までに外国人旅行者の受け入れ数を30万人にするという目標を掲げており、その施策の一つとして、とくに山形の精神文化に理解と関心の高い欧米豪からの旅行客をターゲットした『精神文化ツーリズム』事業にも力を入れていきたいと考えています。
ゴールデンルート(有名な観光地)を巡るツアーや、食べ物や買い物だけを楽しむツアーとは一線を画し、より“体験”を重視し文化を理解してもらうことを目的としているのが『精神文化ツーリズム』です。

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山形県は、出羽三山をはじめ山寺や出羽百観音など、古くから山岳信仰や観音信仰といった精神文化が深く根付いている地域です。
現在、地域の方々と連携し、訪日旅行客向けの“精神文化体験プログラム”づくりのお手伝いをしているメンバーの一人、株式会社めぐるん代表取締役の加藤丈晴さんにお話を伺いました。
山伏修行体験がきっかけで東京の会社を辞め、鶴岡へ移住した加藤丈晴さんが感じる山形の精神文化の価値と魅力とは…?

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加藤 丈晴(かとう たけはる)さん
【プロフィール】
株式会社めぐるん 代表取締役社長。
ローカルアクションプロデューサー。
羽黒山伏(山伏名:丈哲)。
横浜市出身。大手広告代理店「博報堂」でおもに営業・PRとして20年間勤務。グリーンツーリズム事業を通して携わった庄内の人と地域に魅了され、その後、山伏修行体験をしたことで移住を決意。2011年、家族で鶴岡市へIターン。現在、山伏修行をライフワークとしながら、訪日外国人向けの地域体験事業のプロデュースをしている。

 

子どもたちに受け継ぎたい未来と自分の役割を模索した日々

丈晴さんは、8年前まで都内の大手広告代理店に勤めるサラリーマンでした。傍から見れば、華やかな世界で活躍するエリート。そんな丈晴さんが、なぜ羽黒山伏になったのでしょうか。

そこには、行き過ぎた資本主義社会に対する疑問があったと言います。

「このまま資本主義社会がどんどん進んでいったとき、そこに幸せを見出すことは相当難しいだろうなと感じていて、そういう社会でいいわけがないし、子どもたちに受け継ぎたい世の中ではないと思っていました。

それと、自分自身の根っこのなさをすごく感じていて…。なぜだろうとずっと考えていたんです。そして、辿り着いた答えが、自然との関わりが薄いということや、神、仏、精霊たちといった人知を超えたものとつながっている実感がないということでした。

自分の中で、何か大事なものが欠けている気がずっとしていました。

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(※画像はイメージです)

都会でがむしゃらに働き続けることにも疑問を感じ、このままでいいのだろうか?というもやもやした気持ちを抱えていたんです」。

そんなとき、今のパートナーと出会いお子さんを授かります。丈晴さんは一年間の育児休暇をとり、パートナーの実家がある上山市で有機農家のお手伝いをして過ごしました。

「今思うと、とても良い時間でしたね。土に触れて暮らしながら、子どもたちに受け継ぎたい社会像を実現できる場所ってないかな、自分の役割や将来できることって何だろうと模索していました」。

 

庄内で見つけた大事なピース

育児休暇が終わった後、丈晴さんは会社に戻り、農林水産省のグリーン・ツーリズムを広める仕事に携わることに。そのときに関わった地域の一つが庄内でした。

「事業のパートナーとなる地域が全国に20ヶ所ぐらいあったのですが、その中でも、庄内はピカイチに面白かった。都会や現代社会に欠けているピースがここにはあると感じました。それは、“命の循環”と“魂の循環”です。命の循環というのは、食べ物のこと。在来作物をきちんと種から採って、残していこうという文化がまだあるところに魅力を感じました。

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魂の循環というのは、“生まれ変わり”のこと。出羽三山巡りは生まれ変わりの旅ともいわれていますよね。 “生まれ変わり”は科学的には実証されていないから、今の世の中では信じている人は少ないかもしれません。でも、死んだ後の世界って科学で解明しきれない。だからこそ人類の長い歴史の中で“生まれ変わり”という概念が生まれたのだと思います。

現代社会では、目に見えないものを信じるのは難しいことかもしれませんが、そういう世界を否定しないことで救われることってあると思うんです。

ある人が『自分が生まれ変わった後のビジョンを常に描いて、そこから、じゃあ今、自分は何をすべきかと考える』というようなことを言っていたのを聞いて、すごく腑に落ちました」

丈晴さんは、仕事を通して関わった庄内の人と文化に魅了され、ここなら、自分の役割が担えるのではないかと感じたそう。そして、その思いがやがて移住後の仕事へとつながっていきます。

 

人生を変えた山伏との出会い

同じ頃、丈晴さんは仕事を通じて羽黒山伏の先達である星野文紘さんと出会います。その出会いが、丈晴さんのその後の人生を変えたといっても過言ではありません。

「星野先達とはじめて会ったときは、山伏って何?という感じでした。東京で山伏に会うことってないですからね(笑)。山伏の目的って何ですか?何のためにやっているんですか?と聞いたら、『そんなもん、やる前からわかるか!』と言われて、それもそうだなと思ったので、まずやってみることにしたんです。

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最初は1日の体験で羽黒山に登って、湯殿山で滝行をするという内容だったのですが、そこでさまざまな気づきがあって…。それまで僕は、何事も目的をもってやることが大事だと思っていたけど、その目的意識こそが、自分の邪魔をしていることに気がついたんです。

本来、人は誰でも自分自身のこころと身体で感じる力を持っているはずなのに、「○○のためにやる」という目的を持つことで、それが閉ざされてしまう。目的を持たずにただひたすら修行をするという体験はとても新鮮でした。

目に見えないものをこころと身体で感じる体験。それは、都会に欠けていることだと思ったのと同時に、大きな可能性と面白さを感じたんです。山伏体験をしなかったら、会社を辞めるという決断はできなかったでしょうね」。

山伏体験をしたことで「自分の中でもやもやしていた気持ちがクリアになった」という丈晴さんは、2011年4月、家族で東京から鶴岡に移住しました。

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感性を研ぎ澄まし、自分と向き合う山伏修行

正式な山伏となるためには、出羽三山神社で一週間の修行をする必要があります。それを5回修了すると『先達』号をもらい、山を案内できるようになります。丈晴さんは修行を重ね、羽黒山伏の先達となりました。

「山伏修行では『うけたもう』という言葉以外、一切しゃべってはいけません。ただひたすらに山道を歩き、滝に打たれ、座禅をして祈る。自分が感じることにいかに集中するか。そのために徹底した環境設定がされているので、とことん自分と向き合うことができるんです。

黙々と体を動かす中で、凝り固まっていた考えがほぐれていったり、自分に起きている出来事の意味がわかったり、いろいろな気づきがあります。そして山伏修行が終わった後は、やりきったという達成感でものすごく感動するんですよ。

僕もかれこれ8年ぐらいやっていますが、回を重ねるごとに感覚が変わっていく。滝行も、やるたびにもっと滝とひとつになりたいという気持ちになります」。

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山伏としての在り方、そして山伏の理念である「うけたもう」という概念(今ここに自分の身を置くことをうけたまわる)が、今の丈晴さんの生き方に大きな影響を及ぼしているといいます。

 

山伏修行を通して、山形の精神文化を世界へ

丈晴さんは移住後「株式会社めぐるん」を立ち上げ、自然エネルギーの推進や地域活性化のためのプロジェクトなどを行ってきました。現在、めぐるんでは、海外からの来訪者に対して山伏修行を始めとした地域文化体験を提供する事業に取り組んでいます。

「山伏体験はものすごく価値があると思うし、もっと知られていいと思うんです。山伏修行は、神や仏といった人智の及ばないものとのつながりを感じ、参加した人が“自分自身に気づく場”。ここはそういう体験ができる魅力的な場所だということを、もっと広く世界に伝えていきたいですね」

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深く心に訴える、より良く生きるためのプログラム

めぐるんでは、現在、4泊5日の山伏修行体験を行っています。
外国人向けの体験プログラムは、日本人が精神修養の場として取り組むものをそのまま体験してもらうことを基本としているそうですが、日本人向けと全く同じにしようと思うと、いろいろな説明に多くの時間を割かなければならなくなるため、それよりも体験を重視した内容にしているとのこと。
祈りや核になる部分は同じでありながらも、より深くこころと身体で感じことができるよう工夫を凝らしているそうです。

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「海外の方に山形の精神文化を理解してもらうというよりは、精神文化の体験を通じて、自分自身の体や心に何かが残ること、そして体験した後の生き方がより良くなることこそが大切。理解してもらうことに重きを置くあまり、説明に終始するのでは意味がないと思うので、より深く心に訴える、自分と向かい合える場となるプログラムをつくるように心がけています。

この地に残る精神文化は、より良く生き、より良く死ぬための、長きに渡って培われてきた先人たちの知恵です。自分自身の生き方や、こころと身体に向き合うこと、本質的な体験をすることこそ、今の時代に世界から求められていることではないでしょうか」。

日本人向けと外国人向けでは、他にどういった違いがあるのでしょうか。

「日本人向けのプログラムは、決まった日程にある程度の人数を集めて行うことができますが、海外からの旅行者は、1〜2人で訪れるケースが多いのです。少人数であっても安全管理は重視しなければならないので、山を案内するときは参加者が2、3人でもガイドを2人以上つけます。

 

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本当は「この地域の文化・信仰で救われたい」「必要だ」と思っている人たちに対して、もっと広く体験の場を開いていきたい。その際に、参加費用は一つの大きなハードルになりえるので、できるだけ料金を抑えて門戸を広げたいとは思っています。

しかし、まだまだ来訪する人の数が少なく私たちスタッフの人的資源も限られている中で、なるべく地域のものを調達したり、環境負荷がかからないものを使おう思うと、参加費を抑えることが難しいというのが現状です。ただ、将来的には、もっともっと必要としている人たちが利用しやすい環境を実現できると思っています。

一方で、修行を始めとした精神修養の機会を活用した、付加価値の高い体験プログラムの開発も進めていきたいと思っています。例えば、企業の人材開発などへの問い合わせはすでに多数いただいています」

海外の人たちも、山伏体験するとみんなとても感動してくれると言います。

「8割から9割の方はすごく満足して帰っていくし、もう1回来たいと言ってくださいます。自分の本来持っていたものに気づけたとか、この経験によって次の一歩を踏み出せるようになったとか…。そう言ってもらえると、本当にやって良かったなと思えます。私たちが地域の人たちと提供するプログラムを通して、関わった人たちの人生がより良くなるような時間や場を提供できたら幸せです」。

 

 

地域の人たちが守り続けてきた信仰と文化

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出羽三山神社の門前町である手向地区は宿坊街であり、古来より講中(日本各地にある信仰者の組織)や参拝者を受け入れ、出羽三山信仰と修験道の文化を支えてきました。このように、山と地域と信仰が一体化した精神文化で、現在でも山伏修行を始め活発に活動が続いている地域は、全国的にも貴重だといわれています。

「出羽三山の山岳信仰と山伏文化を支え、守り続けてきたのは地域の人たちです。それぞれの宿坊には受け持ちの地域があり、その地域の「講中」と呼ばれる信者の方々を宿坊でもてなし、山を案内するという役割を担っています。そして、冬になると受け持ちの地域へ行きご祈祷するという昔からの営みと人々の往来が今も続いているのです。

宿坊の中にある写真や奉納された品々を見ると、これまで出羽三山信仰に関わってきたたくさんの方たちの想いを感じると同時に、連綿と続くこの営みこそがここの文化を守ってきたのだということがよくわかります。

 

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私も少しだけではありますが、秋の峰入(※初秋に行われる1週間の正式な山伏修行)や地域の活動をお手伝いさせていただく中で、この地域の方々が長きに渡って受け継いできた山伏文化や山岳信仰の歴史の重みというものを感じました。

宿坊街は冬になると2メートルを超す雪に覆われ、冬を越すこと自体がとても大変な地区なのですが、先祖代々からここに暮らし、この文化を守り続けてくれている地域の方々がいるからこそ、今、僕たちはこうして山伏修行をしたり、海外の方を案内することができているのだと思うと、本当に頭が下がります。

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この文化をこれからも残していくためには、地域内だけでなく、地域外の人たちともその価値を共有し、より多くの人に伝えていくことが大切なのではないかと思います」。

 

 

幸せで持続可能な地域をめざして

丈晴さんは、地域の中と外をつなぐ架け橋として、多くの人に庄内の魅力を伝える役割をこれからも担っていきたいと言います。

「“幸せで持続可能な地域をつくる”。それが僕のミッションです。そのために、地域の中で信頼し合える関係性を構築していきたい。

目の前の自然や人と、きちんと向き合って生きていれば、どんなことが起きても恐れることなく自分の生を全うできると思うんです。そういうコミュニティや地域をつくることに自分の人生を捧げたいと思って、僕はここに移住してきました。

ただ、僕は『これだ!』と思ったら突っ走ってしまう性格で、まわりが見えなくなって迷惑をかけてしまうこともあるので、それは本当に申し訳なく思っています。でも、庄内のため、鶴岡のために自分にできることは全力で頑張りたいと思っているので、僕の足りないところやできないところは助けていただきながら、地域の皆さんと一緒にやっていけたら嬉しいです」。

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インタビューを通して、庄内の価値を誰よりも高く評価し、その魅力を世界に伝えていこうとしている丈晴さんの熱い想いをひしひしと感じました。山伏修行は、地域や国を超えて現代を生きるすべての人にとって価値のある体験だと思います。山形に暮らす私たちも、あらためて山形の精神文化に触れることで、新たな気づきが得られるかもしれません。

次回は、インバウンド旅行客をどのように受け入れていけばいいのか? 地域の人たちの取り組みや課題、訪日旅行客のニーズについてお伝えします。(1月10日公開予定)

山形県精神文化ツーリズム推進事業特設サイト
山伏修行体験、山寺、善寳寺、黒川能、西川町出羽屋など、海外の方向けに提供可能となったプログラムを順次こちらに掲載しています。

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菅野幸子

ライター情報

菅野 幸子

埼玉県出身。東京の広告代理店にて企画営業を数年担当。その後、編集プロダクションに移り、ライター兼編集者として広告のコピーライティングや情...