去る11月7日、大石田町『KOE no KURA』にて、株式会社グランドレベル代表・田中元子氏を招いてのトークイベントが開かれました。
「大石田町に東京からスゴい人がくるらしい」と聞きつけ、未来ラボ編集部も潜入取材させてもらうことに。
建築コミュニケーターの田中元子さんは、2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに「人・まち・日常」をアクティブにする『株式会社グランドレベル』を設立。昨年、東京・墨田区の住宅街にオープンさせた『喫茶ランドリー』は、市民の能動性を最大限に高めるスペースとして、グッドデザイン特別賞グッドフォーカス[地域社会デザイン]賞をはじめ数々の賞を受賞しました。
建築・設計に関する幅広い知識をもとに、最先端のまちづくりを手がける時の人。
そんな田中さんの話を聞こうと、平日の夜にも関わらず町内外から多くの人が集まりました。
トークは、まず「まちって、どこだろう?」という問いかけから始まりました。
田中さん曰く、人々が「まち」として認識している範囲は、「人が立ったときに自然に目に入るエリア」つまり、地面から建物の1階ぐらいまでの高さ(=グランドレベル)とのこと。
イキイキとした活気のある街をつくるためには、その範囲(グランドレベル)に「人の姿が見える」ことが重要であり、どんなに人口が多くても、そこに「人の姿が見えない」街は寂しく、豊かではないと田中さんは言います。
ある地域では、新しいマンションができて住民の数は増えたはずのに、街にはほとんど人の姿が見えません。みんな建物の中にいるからです。
次にモニターに写し出されたのは、山形市とほぼ同じ人口密度のデンマークにあるオーフスという街の写真。たくさんの市民が街中でくつろいだりおしゃべりしていて、山形の街にくらべてはるかに人が多く賑わっているように見えます。
それは、なぜか? オーフスは「人々が自然と外に集うように街全体が設計されている」から。気軽に座っておしゃべりしたり、水辺でくつろげるようにデザイン(設計)されているのだそうです。街をつくるときには、建物だけでなく“外に人が集う”という観点も大事なのだと目からウロコでした。
また、田中さん自ら、人々の交流が生まれる公共の場(=マイパブリック)をつくろうと、無料でコーヒーをふるまう小さな屋台を出してみたところ、興味を持って声をかけてくる人や立ち止まる人が少しずつ増え、道行く人たちと気軽なコミュニケーションを楽しむことができたそうです。
今の日本は、「知らない人には声をかけない」ことが当たり前になっており、地域の中でも他者と関わる機会が減っています。そんな息苦しい社会を変えようと、斬新なアイデアを形にしてきた田中さんのエピソードは実に面白く、「殻を破って一歩踏み出せば、もっと社会とつながることができる」「誰でもマイパブリックをつくることができる」というメッセージに、日常の景色を変えるきっかけや社会との接点を増やす鍵は、他の誰でもない自分自身が持っているのだと気付かされました。
田中さんが手がけた話題のカフェ「喫茶ランドリー」は、道路に面した1階がガラス張りで外から中の様子(人)が見えるようにつくられており、カフェスペースのほかに、店内に洗濯機やミシン、アイロンなどが置かれた「家事室」があるのが特徴。それによって主婦がミシン教室を企画したり、一緒に家事をしながらおしゃべりを楽しんだりと、住人同士の新たな交流が生まれ、地域住民が主体となりさまざまなイベントも行われているとのこと。
田中さんは、あえてカフェの目的を固定化せず、誰かがやってみたいと言うことは「いいね!やってみたら?」と、サポートしています。
「そういう小さな“やってみたい”を実現することで、人生の幸福度は変わる」「そこに住む人々の幸福度が上がれば、街は豊かになる」という田中さんの言葉がとても印象的でした。
田中さんが大事にしているのは、いろいろな人が集まる「多様性を受け入れる」ことと、人々が受動的に楽しむのではなく「能動性を発露させる」きっかけをつくること。
すべてを説明したり用意しすぎず、訪れた人が自分で「もっとこうしてみようかな」「こんなことやってみたい」と思うような仕掛け(デザイン)や設計をしているのだそうです。
白い紙に自由に何でも書いていいよと言われると難しいけれど、うっすら補助線が引いてあると、そこから想像力を働かせてどんどん書くことができるのと同じで、それを「補助線のデザイン」と呼んでいるそうです。
最後に、自分を満たす趣味や他者と楽しむ趣味の他に、「社会に貢献したり世の中の役に立てる、第三の趣味」が人生を豊かにしてくれると話してくれました。
「特別なことじゃなくていい。ありふれたことでいい。あなたがしたいことは、あなたにしかできないことなのだから。」
田中さんの言葉はとてもパワフルなのに優しさと愛に満ちあふれていて、一歩踏み出す勇気をくれる、心に響くトークイベントでした。
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今回、このイベントを企画したのは、大石田町地域おこし協力隊の香坂明さん・舞子さんご夫妻。こんな貴重なお話を聞く機会を山形でつくってくださったことに心から感謝したいと思います。