Sponsored by 米沢商工会議所
子どものみならず、大人にも大人気の木の玩具「もくロック」をご存知ですか?
手掛けている米沢市の「株式会社ニューテックシンセイ」は、意外にも金属加工技術を軸に情報通信機器などを製造している会社でした。
県外から山形県に戻って転職した米沢商工会議所の後藤ちひろさんが、代表取締役社長の桒原晃(くわばらあきら)さんに開発秘話や想いを伺いました。
「米沢だから出来ること」に注目して、全く新しい分野に進出
米沢商工会議所 後藤ちひろさん(以下、後藤:写真右):桒原さんは随分とお若いですが、何歳で社長に就任されたんですか?
株式会社ニューテックシンセイ 代表取締役社長 桒原晃さん(以下、桒原:写真左):5年前、31歳の時に就任しました。初代は親族ではなくて、社員として働いていた父が2代目社長となり、私は3代目です。
後藤:「もくロック」とってもオシャレですよね。カフェのオブジェとして拝見したこともあります。手触りやデザイン性などとても興味深く感じていました。
地元企業さんが作っていると知って驚いたのですが、本日会社にお邪魔して、実は金属加工や精密機器の製造を主にやられている会社だと知り、もっと驚きました!
桒原:当社は昭和55年、地域にあった大手電子機器会社の協力工場として設立しました。その後、長年培った生産技術や品質管理能力を強みに、パソコンなど情報通信機器の受託生産を引き受けて成長してきた会社です。
そちらがメインで、もくロック事業部は会社の事業のごく一部です。
後藤:金属加工と木製ブロック・・・、全く結びつかないように思われますけれども、どのようなきっかけで生まれた玩具なのですか?
桒原:2009年頃にリーマンショックが起きた時、当社はあまり影響はなく、社員の解雇もなかったのですが、取引のあった地元の大手企業では、経営方針や社員の見直しが迫られるなど、かなりのダメージを受けていました。
その様子を見て、『会社を存続させるためには、今のままではダメだ。受注の仕事を果たすだけではなく、小さいモノでもいいから自分たちが企画する事業を起こさなければ』と思うようになりました。
後藤:それが「もくロック」だったのですか?
桒原:はい。私よりも会社を良く知る社員、幹部に集まってもらい、当社は過去にどのような生産をしてきて、どんな技術を持っているのか、どのように成長してきたのか、全部教えてもらいました。そこを土台に何ができるか話し合ったのです。
後藤:金属ではなく、木を扱う、全く異なる分野に進出したのはなぜですか?
桒原:これまでとは全く別の分野に進出したいと考えていました。差別化しなければ、また同業者と争わなければならなくなるからです。いま私たちの技術を持ってできることをテーマに様々な案を出し、その中で「米沢だからできること」に注目して「もくロック」開発へ進むことになりました。
米沢は木に囲まれていますからね。ブロックは子ども達の創造的な能力を育ててくれますから、自然の力を加えてもっと面白いモノができるんじゃないかなと思って、ワクワクしました。
後藤:金属加工で培った技術はあっても、「木材」は初めて扱う素材。難しさはありませんでしたか?
桒原:最初の1、2個はすんなり出来たのです。ところが大量に製造するうちに、ブロック同士がぱちっと入らなかったり、割れてしまったり不具合が。木は生き物で、温度や湿度で伸びたり縮んだりするのです。材質によっても性質が全く異なりました。
それから最適な乾燥期間や手法、寸法を見つけ出すため、試作を繰り返しました。ようやく完成した現在のもくロックは、開発を続けた社員の努力と、関係機関の協力あってのこそのものです。
五感で楽しむ「もくロック」の魅力
後藤:米沢の「木」の特徴は何かありますか?
桒原:実際に使うようになって知ったのですが、米沢の木の約8割が広葉樹なんだそうです。広葉樹は固く、色味が良いので家具材として重宝される木。そこからカエデ、サクラ、ホウノキ、カバ、シデ、ケヤキの6種を選び使用しています。
子ども達にはそれぞれの特徴を見て、ほのかな木の香りや、触れた感覚、木の音を感じながら、五感で楽しんでほしいです。
後藤:桒原さんはどの木が一番好きですか?
桒原:昔は楓でした。固くてつるつる手触りもよく、すごくきれいなピンク色。最近好きなのは桜ですね。世界から見ると日本らしい木。そして桜は育った環境によって黒や緑、ピンクと異なる表情を見せてくれるんです。自然っていいなって、改めて感じられますよ。
桒原:もくロックの販売を始めて6年。今では日本のみならず、海外でも使用していただける玩具になりました。
組み立てて遊んでもらうのはもちろん、絵具で色を付けたり、紐を付けてキーホルダーになったり、写真たてのように組み立てたり、手にしていただいた方の元で、さらなる展開があって面白いです。
後藤:どんな人に使って欲しいですか?
桒原:子どもから大人まで楽しんでもらえることが一番ですよね。
そして、もっと山形、地元の子ども達に手にしてほしいです。
山形にはこれほど自然があるのに、家の中で遊んでいる子どもも多いとのこと。ならばもくロックが自然の中で遊ぶ一つのきっかけになってもらいたいと期待しています。
(もくロックは、山形駅ビルのショップでも販売されていました)
米沢らしさを発信し、ここ米沢で事業を行っている意義を見出していきたい
後藤:現在社員は150名ほどいらっしゃるそうですね。
桒原:そうです。社員には常に「責任は私が取るから好きなことをやって」と言っているんです。興味あることで、もっと何かが展開できるかもしれませんから。
でも「みんなが好きなことをやったら大変ですよ」って言われて最近では、好きなことをやる人だけじゃなく、それを支えてくれる人の重要さも実感しているところですが(笑)
桒原:以前「社長が何を考えているかわからない」と言われたことがあって。それは社員にとってものすごい不安なことだよな、って思ったのです。朝礼でお話するにも今現場が幾つかの拠点に分かれているので伝えにくい。ならばお手紙でと、就任した後から毎日社員全員にメールマガジンのようなメッセージを発信するようになりました。
後藤:毎日ですか!どんな内容ですか?
桒原:毎日私が何を考えているのか、大切にしたいこととか、今日の仕事で気づいたこととか。基本一方的ですけれども、それを待ってくれている社員もいれば、感想を述べてくれる社員も。今日は雪の存在価値をテーマにした話題でした。雪かきをする時に挨拶をしたり、雪で道が狭くなって譲りあったり、そこでコミュニケーションが取れる。雪って素敵な存在ですねって。
こんな風に、問題に立ち向かって下さいというメッセージを込めています。
後藤:物事を見る視点に気づきがありそうですね。
後藤:桒原社長が考える、株式会社ニューテックシンセイが米沢にある意義とは何だと思われますか?
桒原:当社は設立40年にも満たない会社で、文化的にはまだまだ浅い。ですから、これからもっと様々な事業から米沢らしさを発信したり、ここ米沢で事業を行っている意義を見出していきたいと思っているんです。
山形・米沢の人の真っ直ぐで真面目な気質は、伝統の米織だけではなく、製造業や事業の継続・発展に重要な人材であることは間違いありません。
これからの世の中は、お客様の期待に応えるだけではなく、お客様の期待をこちらが創りださなければいけないと思っています。
これからもコツコツと成長し続けていき、もっと『自分たちで立ち上がる』会社経営をしていきたいと思っています。
取材後記
取材にお邪魔した1月11日は鏡開き。
工場の入り口で出汁の良い匂いがしたかと思うと「今日はお供え餅をみんなで食べるんですよ」と桒原さん。ほかほかの煮汁とお餅が準備されていて、あたたかな会社の雰囲気が伝わってきました。
山形・米沢には、まだまだ知らない素敵な会社があります。
もくロックHP