「たまたま結婚を意識した男性が、“山形生まれ、山形育ち”な人でした。
“東北”“雪国”っていうことくらいしか、山形のことを知らなかったけれど。
友達も仕事も、新しい環境をゼロから築き上げることに不安はあったけれど。
それでも、彼と添い遂げる道を選びました。
けれど、その道は、夢や希望に溢れる出来事ばかりでは、ありませんでした。」
そう語る、山形県外から嫁いできた女性達。
私自身も、雪の降らない瀬戸内海沿岸から山形に嫁いできて、たくさんの不安や葛藤を抱えながら、今日までやってきました。(過去の出来事:ずっと地元・UIターン・転勤族・…いろんなママが混ざり合えば、より豊かに育児を楽しむ環境づくりができる!)
山形に関わらず、生まれ育った場所を離れ、異なる環境に身を置いたとき、多かれ少なかれ、違和感を覚えることがあると思います。
”夫や同僚には、相談しづらい…。勇気を出して、話してみたけど、全然共感してもらえなかった…”
“こんな風に感じてしまうのは、自分だけなんだろうか?”
一旦、壁を感じてしまうと、孤独はますます深まっていくばかりです。
県外から嫁いできて、もしも今現在、ひとりで悩んでいたり、不安を抱えたりしているのなら、過去に同じような葛藤を抱え、そして、それを乗り越えてきた女性達に、ちょっと勇気を出して会いに行ってみてください。
同じような境遇を経てきた人が相手なら、共感できたり、素直にアドバイスを聞き入れることができたりもすると思います。
去年のちょうど今頃、ある女性と出逢いました。
同時期に県外から山形に嫁いできていたことが分かり、
「きゃ~~! わかる~!! 私もそうだった~~!!!」
初対面にも関わらず、時に爆笑したり、時に涙したりと、お互いに共感することばかりで、話は尽きることがありませんでした。
今では、山形で暮らす期間が、人生の3分の1を占めるようになり、山形のことも、山形の人も、すっかり大好きですが、
“彼女の働く場所の前を何度も通っていたし、どうして、もっと早く出逢えていなかったんだろう!?
山形に嫁いできたばかりの頃に、もし彼女と出逢えていたら、違う10年間があったのかもしれない…”
と、悔やまずにはいられませんでした。
人生は、どんな人と出逢うかによって、大きく変化します。
山形に嫁いできたことを後悔するのではなく、山形での暮らしを今よりもっと、笑顔で楽しめるようになるために、ぜひ彼女に会ってみてほしいと思います。
今回のやまがたで働く人
小野慶子さん(リネン・オーガニックコットン製品とヨーロッパヴィンテージ雑貨の店【MUNDO NOVO(ムンドノーヴォ)】オーナー、ヨガ講師、アロマセラピスト)
山梨県出身の慶子さん。山梨の高校を卒業後、東京の短大に進学し、服飾デザインを学ぶ。卒業後、2年間の語学留学のために渡英。帰国間際に、ロンドンの古着屋で修行中だったご主人(山形県出身)と出逢う。帰国後、仙台等でアロマセラピストとしてのサロン勤務を経て、2003年、結婚のため退職し、山形へ。ご主人が経営するヨーロッパ古着屋【SQUAT(スクワット)】にて、販売・経理を担当する。2004年に長男、2007年に次男を出産。育児を生活の中心にしながら、ヨガ講師としての活動も2009年からスタートさせる。2015年、ヴィンテージ雑貨店【MUNDO NOVO(ムンドノーヴォ)】をオープン。現在に至ります。
ロンドンで山形県出身男性と出逢う
東京の短大を卒業後、イングランド北部ブラッドフォードでの1年間の語学留学を経て、服飾デザインを学ぶためロンドンに転居した慶子さん。
1年後、“そろそろ帰国しようかな”と考え始めたタイミングで、ロンドンの古着屋で働いていた日本人男性と出逢います。それが、山形生まれ山形育ちのご主人でした。
2人が出逢ってから3ヶ月後、先に慶子さんが帰国。実家のある山梨へ。一方ご主人は、しばらくロンドンに留まり、その後約1年間の放浪の旅を経て、帰国。2001年に山形市十日町でヨーロッパ古着店【SQUAT(スクワット)】をオープンします。
▲シェアメイトはヨーロッパやアジア各国からの留学生で、留学目的もバレエダンサーや庭師になるためなど様々。
「帰国後は、山梨の実家の家業を手伝いながらアロマの勉強をしてました。それから、仙台にあるアロマの会社で働き始めてから半年後に群馬支店に異動になって。結婚が決まったのは、その半年後のこと。
仕事も楽しくなってきていて、これからっていう時期だったけど、結婚に迷いはなかったです。
山形がどんなところなのかも知らなかったけど、ただ、彼と一緒に居たかったっていうシンプルな理由で、仕事を辞めて、山形に嫁いできたのが2003年。もう14年前のことですね。」
山形で迎えた初めての冬
結婚後、ご主人の経営する古着屋で、販売・経理担当として働くことになりました。程なく妊娠しましたが、安定期に入る前に、雪の降り始める時期を迎えます。しかしながら、ご主人は、海外での古着の買い付けのため、海外に滞在中で…。
「もう忘れもしない!雪が積もり積もって、お店の駐車場に入れない状況で。どうしたらいいかわからなくて、立ちすくんで、泣きました。
山梨の雪は積もるような降り方じゃないから、雪かきをしたことが一度もなかったの。道具も分からなくて、ただ立ち尽くしてました。妊娠もしてるから、ガツガツ雪かきできるわけでもないし。
近所に住んでる方が、私が泣いてる姿を見たんでしょうね。除雪機を持ってて、全部雪かきしてくれたんです。まだお腹が目立たない時期だったから、本当に神様みたいでした。
“山形=雪国”って知ってても、体験したことがないから、危機管理能力もないのよね。“雪かきって、何を使ってどうしたらいいの?”っていう質問すらしないまま、彼は海外に行っちゃいました。思い出したら、今でも悲しくなっちゃう。」
資格取得を目指すことは、子育て中のモチベーション維持に
初めての過酷な冬を乗り越えて、臨月までお店に立った慶子さん。結婚前に習っていたヨガを、安定期に入ってから再開し、ヨガ講師になることを意識するように。長男出産後、古着屋での仕事は裏方に回ることにし、育児を中心とした生活の中、ヨガ講師になるための勉強を始めました。
約5年かけて資格取得するのと並行して、次男を妊娠するまでの間、美容院で不定期にブライダルエステを担当するアロマセラピストとしても働きます。
「どちらの実家も家業が大変だった時期で、里帰り出産できる状況じゃなかったんです。彼も年に数回、海外に買い付けに行くから不在期間が長いし、誰にも育児を頼れなかったのね。今でいう“ワンオペ育児”ですね。
母親になっても仕事をしていくだろうと思ってはいたけど、子育てを最優先にしたかったのは、後でやり直しがきかないことだから。
だけど、育児以外のことを全く何もしないのも不安でした。いざ働こうってなるときに、やっていけるか自信がなかったのね。細々とでも社会と繋がっていくことを目標にして生きていかなきゃなって思って、育児をしながら、ヨガの資格を取りました。いつかどこかのタイミングで、ヨガ講師の仕事ができればいいかなって考えてた。
資格を取ることは、育児中のモチベーションみたいなところもあったかな。勉強の時間を確保するのは大変ではあったけど、周りが見えなくなる時期に、社会復帰を意識してたことで精神的に助けられてたのかもしれません。」
▲幼稚園でのヨガ講習会にて。
ヨガ講師資格を取得してから約3年間、山形市内のカルチャーセンターで月に数回、親子ヨガを担当しました。当時山形では珍しかった“親子ヨガ”は、慶子さん自身が、子どもを預けてヨガをしていた経験から提案したもの。金銭面や心理面から、他人に子どもを預けることが困難な母親にも、リラックスできる環境を提供したかったと言います。
現在は、主に平日の午前中に自宅で個人レッスンを行うスタイルで、依頼があれば子育て支援センター等で指導することも。
過去に経験した全てを活かし、雑貨店経営を始める
長男が2歳の頃、両方の実家の家業が相次いで倒産。慶子さん自身の悩みや育児の不安を、誰にも相談できず、頼ることもできない状況は続きました。それでも今となってみると、そこから多くのことを学んだと振り返ります。
「あのとき、底辺を見た。だから、親と同じ自営業者になった今、“どんなことがあっても、何とかなる”って思えるし、彼が夢を追いかけるのを純粋に応援できるんです。
あの後、彼の両親も新しい会社を始めていて、今まで以上にバリバリ働いてる。復活していく姿から商売人としての生き様を見せてもらったんだと。親達から経営者としての教訓を得たんだと、有難く受け止めてます。その経験がなければ、今の生活もただ不安だったかもしれないね。
4年前に【SQUAT秋田店】を出店したんだけど、あんまりうまくいかなくて、2年くらいで閉めたんです。私はそのとき、経営自体は大丈夫だと思ってたんだけど、彼自身の心がすごく参ってたの。
そこで、“今、私に何ができるんだろう?”って考えたとき、倉庫として借りてた場所を店舗にして、私自身が動くことを思いついて。初期投資は最小限に、自分たちで壁を塗りなおして、まず始めてみよう!と。それが、自分でお店を始めたキッカケでした。」
▲【MUNDO NOVO(ムンドノーヴォ)】は、ホテルキャッスル南側の第二公園近くに。赤い入口を入ってすぐ階段を上って2階にあります。
「“自分のお店を持ちたい”って願望からのスタートではなかったけど、やっぱり私は商売人の娘だから、お店に立つことがすごく楽しいし、人とのかかわりが好きなんだなって感じてます。
彼が買い付けたヴィンテージ雑貨を自分なりに消化して、お客様に伝えていくのが、すごく面白いの。彼の店でもあるんだけど、私自身のカラーがやっと出てきたのかな。
“古い物を甦らせ、今の暮らしに循環させる”ことは、元々やっていたヨガやアロマの概念とも共通する部分があるんです。これまでに自分が経験した全てを放出できる場所を与えてもらったことや、働けることを有難いと感謝できるのは、育児に没頭し、辛い経験も経てきたからだと思う。」
▲店内には、雑貨や洋服などがセンス良く並んでいます。
働き方は子ども達の成長に合わせて変化していく
次男が小学校低学年だった雑貨店オープン当初は、週3日、1日4時間の営業。2年経った現在は、1日増やして平日週4日(水曜定休日)に、1時間延長して、12時から17時までの営業としている。
「仕事のやり方は特に決めてなくて、子どもの成長と共に変わってきてます。
保育園に預けて働くっていう選択肢もあるけど、私は、子どもとの時間をなるべく多く共有したかったの。そのことに、彼も賛同してくれてたから、それが可能な範囲で進んできたし、もうしばらくはこのスタイルでやっていくと思う。
“なんてワガママな働き方!”って思うけど、サポートしてくれる彼やお店のスタッフ、理解してくれるお客様には感謝しかありません。限られた稼働時間の中で、私の役割をどれだけ多く果たせるかをいつも考えてます。
今、子ども達が成長して、育児はもちろん、普通に仕事ができる有難さや楽しさを身に染みて感じるの。
もっとガムシャラに仕事したい!って気持ちもなくはないけど、そこは敢えて抑えながら。家のことや子ども達のこととのバランスを取りながら、地道にゆっくり進めていきたいかな。
次男も小学校高学年になったし、2人とも私が働くことを応援してくれてるけど、まだ母親が必要な微妙な時期なんだと感じてます。会社勤めだったら難しい部分も、自営業だからこそ融通きかせちゃうところは、有難いシステムですよね。」
▲実家を頼れなくても、何かあると子どもを預かってくれ、いつも助けてくれた友人達は、心強い存在だった。現在も、友人関係は続いている。
子育て中のパパママへ。~パパにはママを支えてあげてほしい~
「育児で一番大変だったとき彼から言われたのは、“俺を見て”って。それは、子どもをないがしろにしてでもってことじゃなくてね。“子どもはもちろん大事だけど、いずれ巣立っていくもの。夫婦2人で生きていく人生のことを大事に考えてほしい”って。
“え!?この余裕のない状況で言うか”って思ったけど(笑)今になって思うと、あのタイミングで彼がその言葉をかけてくれてなかったら、どうなってたか分からなかったと思います。」
▲海外でのご主人の仕事を見せるため、長男が小学校を卒業するまでの5年間、年に一度、子ども達を海外での買い付けに同行させた。
「彼は週末も仕事だし、日本にいないことも多いから、赤ちゃんを抱っこしてもらって買い物してるお母さんのことが、当時はすごく羨ましかったんです。だけど、いつも側に居なくても、ちゃんと私のことを見ててくれてるんだと思えたから、良い意味で諦められた(笑)
彼は、本当に子どものように仕事を楽しんでる。父親が活き活きと仕事に出掛けて行く姿を見せてくれるだけで、子育ての役割を果たしてくれてると思えたんです。うちは男の子2人だし、仕事に対する姿勢を見せられるのは、何よりの教育かなって。
“イクメン”って言葉もできたけど、“パパが子どもの面倒を見る”というよりは、“ママを”ちゃんと見ててあげることがすごく重要だと思います。それが出来れば、他のことは自然とうまく運んでいくんじゃないかな。」
▲2年目の買い付け同行旅行、タイにて。
循環していく豊かさを提供していきたい
「心地良いって思えたりとか、心が幸せに、豊かになるって思えることを提供したいと心がけてます。
例えば、人との出逢いや繋がって話ができる時間とか、豊かですよね。特に山形って、それを感じられることが多いかも。山形に来たばかりのときは分からなかったけど、今は特にその“人と繋がって循環していく感じ”を体感する機会がたくさんあるの。」
▲雑貨店を始めてから恒例になっている酵素ジュースづくりのワークショップ。蔵王こまくさ分校にて。
「お金とか物質的にっていうことではなくて、既にあったものが循環して、そこにみんなの楽しいことが拡がっていくって、とても豊かだと。
私のテーマは、“循環”。古い物を新しく生まれ変わらせて、巡らせていくことって究極なエコロジーだと思ってて。“人”も同様で、お店に来て私に会って話すことで、自分を取り戻して帰っていく人もいらっしゃるんです。このお店は、“悩み相談室”みたいな場所でもありたいし、人が出逢う場でもあって欲しいな。
あんなに泣いた過去を、こうして笑って話してるってスゴイ!と思えるけど、今現在、辛くて落ち込んでる人もいますよね。“理解者が欲しいけど、特定のグループに属するのが苦手”っていう人達を受け入れられる場所にしていたいなって。ゆったりと来れるような雰囲気にしていたいし、私のお店だからこそ出来る役割を果たしていきたい。」
取材後記
「夢は、寝具関係を扱ってた父の仕事を私なりの形として復活させること。ホッとできるような、そういう方向性のものをいつか、形に出来たらいいな。やりたいことがいっぱいありすぎて。」と笑う慶子さんが、どんな風にその夢を叶えていくのだろうかと、私までワクワクしていました。
慶子さんに会ってみたい方、話をしてみたい方、お家のインテリアを素敵に飾りたい方、ぜひお店に足を運んでみてください。きっと体中を喜びが巡ってゆくのではないでしょうか。
ヴィンテージ雑貨店【MUNDO NOVO】
店舗所在地:山形県山形市十日町4-3-14
℡:023-626-1847
営業日:月・火・木・金曜日
営業時間:12:00~17:00
駐車場:2台分有(SQUAT共用)
オンラインショップURL: http://www.mundonovo.shop/index.html
Facebookページ:https://www.facebook.com/MUNDO-NOVO-434812636690643/
Instagram:https://www.instagram.com/mundo_novo_squat/
Profile
小野慶子 さん
山梨県出身、ヴィンテージ雑貨店【MUNDO NOVO】オーナー、ヨガ講師、アロマセラピスト