みなさん、こんにちは! (株)キャリアクリエイト代表の原田です。
いつかは故郷の山形に戻って活躍したい。自らの可能性を新天地の山形で見出し、精一杯力を発揮したい。そうした想いを心の片隅に抱えつつ都会で頑張っている方は、意外と多くいらっしゃると思います。
このコラムでは、そんな“山形が気になる”ビジネスパーソンのみなさんに向けて、ユニークな取り組みで躍進を続ける山形県内の「攻めの会社」をご紹介しています。
今回は、その美味しさで山形のみならず、東北全域の人々に笑顔を届ける酒田の老舗菓子メーカーにお伺いしました。
創業から現在、そして思い描いた未来を実現すべく意欲的に挑戦する姿、さらには自分の仕事に誇りを持って、夢とやりがいを追求する社員の方々の真っ直ぐな情熱を通して、山形で働くことの意義を改めて発見していただければ幸いです。
海を越え、オランダで愛される日を夢見て
昭和26年の創業以来、65年以上にわたって素材と製法にとことんこだわり、せんべいの生産から包装、出荷までの全工程を自社工場で一貫して行っている酒田米菓株式会社が、今回のコラムの舞台です。
山形県民の母なる大河、最上川の堤防に沿って建てられた本社最上川工場の全長は545m。東京タワーの全長333mをはるかに凌ぐその長さは、国内のせんべい工場において全国一の規模を誇ります。
さっそく代表取締役社長の佐藤栄司さんに、同社が歩まれてきた歴史や現在の取り組み、そして未来に向けた展望についてお話を伺いました。
佐藤:今から60年以上前、祖父の佐藤栄吉が旧・飽海郡八幡町(現・酒田市の一部)で米屋を営んでいました。当時、せんべいの生地を作って東京などに卸していたこともあり、叔父であり創業者の佐藤栄一が昭和26年に酒田市大浜でせんべい屋を開業。昭和37年に欧風のうす焼きせんべい「オランダせんべい」を発売したところ、これが大ヒットしまして。
原田:今や東北限定販売にも関わらず、年間2億枚以上生産している御社の看板商品ですよね。山形人の、いやいや東北人のソウルフードとして親しみ深いものがありますよ。
佐藤:ありがとうございます。その後、大浜の工場が手狭になり、昭和40年初頭にこちらの最上川沿いに本社工場を移転したのです。
原田:そうした歴史が御社の今日における基礎になったと。とても興味深いお話ですね。ところで「オランダせんべい」の“オランダ”は、そもそも何が由来なのでしょうか。
佐藤:庄内弁の「おらだ(自分たち)」が由来です。「自分たちの地元産米である庄内米を使って、自分たちでせんべいを作る」という創業者の郷土への想いが込められています。和風の堅焼きせんべいやしょうゆ味のせんべいが主流だった50数年前、サラダ油を使用したうす焼きせんべいの登場はとても斬新でした。味わいや食感も従来の和風せんべいとはまったく違う。洋風テイストであることと方言の“おらだ”を重ねて“オランダ”にしたのです。駄洒落に近いものがありますよね。
原田:「オランダせんべい」には、そんな由来があったのですね。御社は、昭和41年に法人化。会社を設立して半世紀になりますが、現在、最も力を入れて取り組まれている事業についてお聞かせください。
佐藤:大きく別けてふたつ。輸出事業と観光事業です。輸出に関して、すでにアジア地域は着手しているのですが、せっかく“オランダ”という冠のついた商品があるのだから、正真正銘のオランダに売り込みをかけてみようじゃないかということで、プロジェクトを進行中です。
原田:それはおもしろい! 山形を代表する郷土の味が海を越えて愛される。しかも本場のオランダで。心躍るお話ですね。
佐藤:でしょう(笑) しかし、すべてが順風満帆な訳ではありません。ISOやHACCPを内包する「食品安全システム認証規格FSSC22000」を取得しなければ、欧米の国際的な商談ステージに立つこともままならない。ですので、2年後を目処に認証取得を含めた体制の強化を目指して力を注いでいる最中です。
観光工場「オランダせんべいFACTORY」をオープン
原田:もう一方の観光事業について。御社は平成27年8月、工場見学ができる「オランダせんべいFACTORY」を開設されました。酒田市の新たな観光拠点として新聞や雑誌などのメディアに掲載されて注目を集めていますよね。
佐藤:お陰様で開設以来、秋田県をはじめ、宮城県や福島県などの県外からもマイカーや観光バスでお越しいただいています。「オランダせんべいFACTORY」は、実際にせんべいの製造過程を間近でガラス越しに見ることができるよう工場を改装したものです。見学コースの全長は395m。歩き応えがありますよ。
原田:「オランダせんべいFACTORY」の開設理由をお聞かせいただけますか。
佐藤:実は、これまで地元の小学校から工場見学の問い合わせがあっても、法制度の関係でお断りしていたんです。辛いですよね。郷土の誇りであるオランダせんべいの製造現場を子どもたちに見せられないのは。もちろん、以前から観光工場の構想はあったのですが、なかなか実現には至りませんでした。そこで、平成26年11月に私が代表に就任した際、真っ先に取り組んだのが観光工場化だったのです。
原田:平成26年11月に工事を始めて、翌年8月にオープン! わずか10ヵ月の短工期というのは驚きです。
佐藤:観光工場化の想いをあたためていたので、効率よく工事を進めることができました。「オランダせんべいFACTORY」の2階には、見学後ゆっくり寛いでいただけるよう「cafe de ola’(カフェ デ オラ)」という米粉を使用したパンケーキなどをご提供するカフェも開設しています。カフェ併設の売店では、ここでしか手に入らない限定商品やグッズも販売しているのでみなさん喜んでご購入されていますよ。
観光事業をきっかけに、地元・酒田の元気を取り戻す!
原田:工場での生産に加えて、お客様をおもてなしする観光事業にも着手。社員の方々の仕事に対する意識も変わったのではないですか?
佐藤:変わりましたね。製造畑一筋だった社員が、見学コースのガイドを務めたり、カフェの接客や売店を担当することも。今までお会いすることができなかったお客様と直接顔を合わせてお話できるようになったのですから、みんな目が輝いていますよ。観光事業を通じて、自分の可能性を再発見していると思います。
原田:それでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。
佐藤:まずは「社員の幸福を追求する」こと。社員が仕事を楽しみ、誇りとやりがいを実感できなければ、お客様に喜んでもらえる美味しい商品や上質なサービスをご提供することはできないと考えています。これを柱に据えて、さまざまなことにチャレンジしていきます。中でもいちばんに取り組むべきは地域活性化。特に酒田市は人口減少が顕著で、若者がどんどん減っていく傾向にある。そこで雇用の機会を積極的に設け、観光事業と併せて酒田をさらに盛り上げていくことを目指していきます。
原田:集客で地域の活性化を促す観光事業が、雇用創出のきっかけにもなりますよね。
佐藤:その通りです。観光事業で酒田米菓の認知度が高まりますからね。実は、カフェをオープンする際も、飲食業の経験者を多数採用しました。京都からUターンした若者もいるんですよ。
原田:UターンやIターンを考えている方にとって、とても心強いお話ですね。
佐藤:そう思っていただけたら有り難いです。せんべい作りに関しても職人技の世界なので、後継者の育成が急務。若い力にぜひとも期待しています。また当社では、せんべいの分野だけでなく「さと吉」という団子屋と「ホルモンやわだ」という居酒屋を経営しています。今後もさまざまな形態の事業に挑戦していきますので、都会で培ってきた知識や経験、人脈を活かして、当社で思う存分力を発揮してもらえると嬉しいですね。
酒田米菓で働く社員のみなさんをご紹介します
観光事業部部長 相馬勝喜さんに、理想の社員像をお聞きしました。
「せんべい作り一筋の私が、今では観光事業部の長として活躍しています。お客様とお話する機会がとても多く毎日が新鮮ですね。でも接客に関してはまだまだ修業中の身。接客経験を積んだカフェのスタッフからの学びを非常に有り難く感じています。
その意味で、自分が知らないことを教え合えるような人間関係を築ける方と一緒に仕事がしたいですね。酒田米菓を拠点に、観光で酒田の街を盛り上げていきましょう!」
商品開発担当 小松恵さんに、佐藤社長の印象をお聞きしました。
「パティシエの経験を活かして、カフェの新メニュー開発を担当しています。おせんべい屋さんがついでにやっているカフェだと思われたくないので、常に気合いを入れてどこにも負けない本格メニュー作りに励んでいるんですよ。社長は「失敗を恐れずどんどんやれ!」と言って、社員の力を最大限に伸ばそうとしてくれる方なので、自由に伸び伸びと仕事に打ち込むことができます。とても心地がいいですね。」
品質管理担当 阿部主(ちから)さんに、仕事のやりがいをお聞きしました。
「漬物工場で培ってきた品質管理の経験と現場の発想を活かそうと思い入社しました。せんべいはお米が原料。稀に雑穀が混ざることもあるので、その点は気を使いますね。当社は生産から包装までを一貫して行っています。
もともと包装機分野の知識が豊富なので、最終の包装工程では本領を発揮することができて嬉しいですね。見学コースのガイドも担当していますので、毎日やりがいを感じています。」
編集後記
伝統のせんべい作りを軸にしながら、新しいことにチャレンジしていく。そのお話をお聞きしながら実感したのは、並々ならぬ酒田への郷土愛です。
また、取材の中で佐藤社長がおっしゃられた「たとえ失敗しても、それを失敗だとは思わない。そこから得られるものが多いから」という言葉が、とても印象的でした。
社員のみなさんも「失敗に寛容な会社」「萎縮することなく伸び伸び仕事ができる」「チャレンジにブレーキがかからない」と、誰もがその自由な社風を口々に語られたので、本当に働きやすい環境なのだと確信できたことが、今回の取材におけるいちばんの収穫だったように思います。
山形へのUIターンを考えているビジネスパーソンのみなさんも、ぜひ機会を設けて「オランダせんべいFACTORY」に足を運んでみてください。きっと、その自由な社風を肌で感じていただけることでしょう。
※この記事は、東北経済産業局「平成28年度東北地域中小企業・
Profile
佐藤栄司さん
酒田米菓株式会社 代表取締役社長
昭和38年生まれ。団子屋「さと吉」、居酒屋「ホルモンやわだ」を経営する傍ら平成26年11月、代表取締役に就任。「動かなければ出会えない。出会えなければ始まらない」という言葉がモットー。思いついたら即行動に移すアクティブかつ人情味豊かな人柄で、社内外に多くのファンを擁している。プライベートでは、陶芸を本格的に学ぶことが今後の目標。