社会人として働きはじめて数年たつと、「自分らしい働き方って何だろう…?」と思うこと、ありますよね。でも、どうしたら、自分が望む暮らしや働き方を実現できるのでしょう?
そのヒントを探るべく、山形に移住し、自分らしい暮らしと仕事を実現した女性にインタビューしてきました。これからの生き方・働き方を変えたい思っている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

今回のやまがたで働く人

川地あや香さん/金工作家、兼お菓子作家

プロフィール
東京芸術大学工芸科にて金工を学んだ後、食品と雑貨のセレクトショップに勤務。2012年、山形へ移住。金工作家としてカトラリーや製菓器具を制作する傍ら、「カワチ製菓」という活動名でお菓子制作家として素朴な日常のおやつの制作も行っている。夫と4歳の息子の3人暮らし。日々の暮らしとものづくりの様子を自身のウェブサイト(https://www.kawachiayaka.com/)で発信している。

昨年12月にはじめての著書「おやつとスプーン」を上梓した山形在住の金工作家・菓子制作家の川地あや香さん。日常で使えるお皿やカトラリーなどの金工作品と、素朴なかわいいお菓子が人気で、全国に“カワチファン”がいます。

お菓子作りやものづくりが好きな人は世の中にたくさんいますが、それを仕事にできる人はそう多くありません。まして、店舗を持たないとなればなおさら。しかし、おもにネットと展示会でのみ販売している川地さんの作品は、HPにアップされるやいなやたちまち売り切れ、展示会を開けばファンが列をつくります。

川地さんの作品はなぜ人々を惹きつけるのでしょう? そして、「好きなものをつくり続ける」という自分らしい働き方に辿り着くまでには、どのようなプロセスを経てきたのでしょうか。

 

友人に振る舞っていたお菓子が評判に

――川地さんは、もともとお菓子作りを仕事にしたいと思っていたのですか?

「仕事にしようと思ってやっていたわけではなく、成り行きに近いですね。お菓子作りは小さい頃から好きでした。学生時代は、友人の誕生日に彫刻のようなスポンジケーキを作って、壊さないように慎重に運んで、サプライズのお祝いで盛り上がるのが楽しくて…。」

大学では工芸科で金工を学んでいたという川地さん。ケーキ型や調理器具にまつわる作品を作りながら、友人たちにお菓子を振る舞っていました。「そこから、イベント時のお菓子のケータリングや、結婚式のプチギフトを頼まれたりするようになったんです。」

しかし、それを仕事にしようという気持ちはなく、卒業後は、東京で会社員として働きながら、依頼があればお菓子を制作していたそう。

現在、つくっているのは、おもにクッキーやビスケット、グラノーラなど。卵やバターをほとんど使用せず、できるだけ身近で安全な食材を使っているとのこと。素材にこだわり一つひとつ丁寧につくられているお菓子は、シンプルで食べ飽きないおいしさです。

また、川地さんのつくるお菓子は、見た目のかわいらしさも特徴的。動物や子どもなど、身近なものをモチーフにした図柄が多く、手にした人をほっこり笑顔にさせてくれます。

毎回試行錯誤しながらデザインしているというパッケージや詰め方も、細部にまでそのこだわりが見て取れます。

缶の中は、まるで宝箱のよう。「受け取った人に喜んでもらいたい」という川地さんの気持ちがすみずみにまであふれています。おいしいだけでなく、楽しさや喜びを与えてくれるーー。それこそが『カワチ製菓』の魅力なのでしょう。

そして、興味深いのは、お菓子作家であるだけでなく金工作家でもあるということ。なぜ、お菓子と金工の両方をやっているのか? その理由と、金工がお仕事になるまでの道のりを伺いました。

会社員として働きながら休日は金工制作も

――金工作家のお仕事は東京にいた頃からやっていたのですか?

「東京で働いていた頃は、金工は副業の位置づけでした。今は副業OKという会社も多いと思いますが、当時はあまり大きな声では言えなかったので、ひっそりと…。

大学時代に授業でHPを作成して以来、自分のWebサイトで情報発信は続けていたので、ネットを通じて展示会のお誘いをいただいたり注文がきたりして、仕事が終わった後や休日を利用してやっていました。

ただ、金工は音が出るので、当時住んでいた住宅密集地ではご近所への影響もあり、だんだん制作しづらくなっていったんです。東京で音を出しても問題ない場所を確保するのは大変だし、会社員でそれほど稼ぎがあるわけでもなかったので作業場を借りる余裕もなく、自由に作れる場所がなくなってしまって…。」

※金工とは、金属を加工して作られる工芸品のこと

――金工をやめるという選択肢はなかったんですね。

「金工を将来的にずっと続けるかはわかりませんでしたが、自分にとっては学生時代を通して得た貴重な技術だったので、手を止めてしまうと自分じゃなくなる気がしました

山形には、夫(当時は結婚前)のおじいさんの家の敷地内に、小屋や使っていないスペースがあり、そこは広くて、山に囲まれて作業がしやすそうな環境だったんです。2年ほど遠距離で東京と山形を行き来していたある時、こんなにいい場所があるのにどうしてそこを使わないのだろう?と思って、移住を考え始めました。」

 

金工ができる環境を求めて山形へ

――金工をできる環境があったということが、山形へ移住するきっかけだったのですね。不安や迷いはなかったですか?

「東京では忙しさ=楽しさでもあり、毎日走るように仕事していましたが、30代になっても同じ働き方はできないと想像するようになり、東京生活ももう満喫したかなという気持ちもありましたね。

山形で金工をすることはできても売ることはできるのか、作品を販売する機会や求めてくれる人はいるのだろうか?という不安はもちろんありましたが、HPから注文や仕事の依頼がきていたので、住む場所は関係ないかなと。Web上で発信できるツールを持っていたから、東京を離れる決断もできたと思います。それがなかったらなかなか移住できていないかもしれないですね。」

▲金工制作に使う道具の数々

気負わずに続けてきたことが、やがて仕事に

――もともと独立したいとかフリーになりたいという思いはあったのですか?

「いえ、まったく。山形に来るときも「これで生計を立てていくぞ」という意気込みはなくて、生活を整えながら少しずつやっていこうかなと、とりあえずバイトもしていました。そのうちにHPを通していろいろな仕事やイベント出品のお話が舞い込んできて「これは、バイトをしている場合じゃないな」と思い、自分の仕事に集中するようになりました。」

――その気負いのなさが良かったのかもしれませんね。

「好きなことを仕事にしているという自覚はなくて、言われてみてはじめて「そういえば好きなことだったかもしれない」みたいな(笑)。芸大を目指したのも、作ることが自分に向いてる気がしたというぐらいで…。もっと知りたい、続けたいという気持ちで進んできたように思います。

「好きを仕事に」という言葉は、あまり好きではないですね。「楽しかったらOK」と、自分に甘くする言い訳にもなる気がします。」

▲金工の作業場

「作ること」と「売ること」の距離

――そうなんですね。好きなことを仕事にしている感覚がないというのは意外です。趣味でものを作っている人はたくさんいると思いますが、それを仕事にできる人は少ないですよね。

「作るということと、それを売るということの間には、少し距離があると思います。私も、はじめて注文があったときは「買ってもらえるんだ」という感動がありました。それが続いていくうちに「自分の作っている物は、欲しいと思ってくれる方もいる種類のものなのだ」と感じることができて、お金を頂くならもっと質の高いものを、と技術を磨く責任も生まれ、研究していいお許しが出たというか、仕事にしても良いのかなと思うようになりました。」

――自分のつくりたいものを作るということと、お客様のほしいものを作ることの違いは何でしょうか?

「最終的には自分で「これが好き」と納得できるものをつくるようにしていますが、その「好き」は、あくまで自分が「受け取る側だとしたら」という“お客様目線”での話で、仕事をしている“作る側の自分”とはまったく別な人格として分けています

作っているときは“仕事”としてやっているので、たとえば、ちょっと手間がかかるなとか面倒くさいなと思っても、自分がお客さんだったらどっちが嬉しいかな、好きかなと考えて、その要望にできるだけ従うようにしています。」

▲おもに日常で使うスプーンやプレート、クッキー型などを制作している

 

一人で仕事をするために必要なこと

――一人で仕事をしていて大変なことは何ですか?

「上司も誰もいないので、締切やスケジュールを自分でコントロールしなければいけないというのはなかなか大変ですね。地道な仕事なので、マラソンのように苦しいときのほうが多いです。

自分の好きな仕事といっても、パッケージしたりする作業は地味ですし、心躍るほど楽しいわけではないけれど、やらなければいけない作業だから集中する。そういうことを淡々とやることができなければ、仕事として成り立たないと思います。

喜びを感じられるのは、作品が完成してきたときや、お客様に渡すことができたときですね。こういう仕事をしていると、自然と自分と同じように食べ物や器、雑貨が好きな方々とつながることができるのが嬉しいですし、続けていて良かったなと思います。

一人で仕事をする大変さはありますが、この自由さには代えられないので、私はやっぱり会社員として働くより、今の働き方がいいかな。会社員としてポンコツすぎて向いてないというのもあります(笑)。“早く”とか“効率よく”は得意ではないようです。」

会社員時代の経験が生きている

――会社員として働いた経験は今につながっていますか?

「そうですね。実は会社員時代の経験はとても役に立っています。食のセレクトショップでお菓子や雑貨の販売・接客をしていたのですが、ディスプレイや見せ方によって売上が変わるということを目の当たりにして、とても勉強になりました。商品にリボンをかけるなど、ひと手間加えることで「わ〜、素敵!」と反応率が上がったり、お客様はこういうものを求めているんだ、人の気持ちってこんなふうに動くのだというのを実感できました。すでに完成した品をどのように売るかということを実践させてもらえたのは大きかったですね。それを、今は自分の作品や商品でやっている感覚です。

あとはメールのやりとりや締切のことなど、社会人としての最低限のスキルを身につけられたのも良かったですね。自分の好きなことを仕事にするにしても、良いものを作る能力とは別に、社会人としての基盤がないと特に最初の方は、広がりがない気がします。イベントやお取り扱いのお店の方と気持ちよく仕事をできれば、次の機会につながります。そういう意味でも会社員として働く経験をして良かったなと思っています。」

自分のスタイルを極める

――金工作家とお菓子制作家という2つの肩書きがありますが、両方やるのは大変ではないですか?

「もうお菓子作りは仕事として受けるのは辞めようと思った時期もありました。いろいろやって中途半端になるのが嫌で…。でも、東京でイベントをしていた時のお客さんが覚えていてくれて「もうあのお菓子作っていないのですか?」と求められることが何度かあり、せっかく長く研究してきたのに、やらないのももったいないなと思うようにもなりました。

それに「金工作家の作品展」という言葉で反応してくれる人は限られていると思うのですが、お菓子がフックになって興味を持っていただき、金工の道具や焼き印を欲しいと思ってくださる方もいます。今は、これを自分のスタイルとして極めていけばいいのかなと、やっと思えてきています。」

季節に合わせてフレキシブルに働く

――2つの仕事をやっていてよかったなと思うことはありますか?

「状況に合わせてフレキシブルに仕事ができることです。夏は半野外で元気に金工作業して、焼き菓子はいったんお休み。逆に冬は、焼き菓子の活躍するイベントの多い時期なので、そちらを中心にして仕事するなど、季節に合わせて自分の持ち札を出していけるのはいいなと思います。

それから、ずっと形に残る金工と一瞬でなくなるお菓子という異なるものづくりをすることで自分の中でバランスをとっているのかもしれないです。金工の作品は割れずに千年残ることもあり、それが素晴らしいところで、且つ恐ろしいところでもあり…。だからこそ細部までこだわって作るし、長く使ってもらえるという喜びもありますが、結果が見えてくるまで時間がかかるものです。対しておやつ作りは、その場で達成感を味わえるので、ガス抜きになっている部分があるのかもしれません。」

自分の暮らしを発信することで、どんな作り手なのかを知ってもらう

日々の仕事と暮らしを綴っているホームページには、お子さんと一緒におやつをつくる様子や、お弁当や晩ご飯など料理の写真もアップされており、“作ること”と“食べること”を大切にしたシンプルな暮らしを楽しむ川地さんの日常を垣間見ることができます。お客さんたちは、商品だけでなく川地さんの暮らし方も含めた“カワチワールド”のファンなのでしょう。

――HPの更新はマメにされていますよね。

「私の展示会に来てくださるお客様は、HPを日々見てくださっている方の割合が多いので、自分のメディアを育てるということにはかなり時間を割いています。

技術的にはもっと上手な人がたくさんいる中で、あえて私のつくったものを欲しいと言ってくれる方は、HPを通して私が普段何を食べて、どのような時間を過ごしている作り手なのかということを知って、親近感を持ってくれているのだと思うんです。」

▲HPには日々の様子がフォトダイアリーのように綴られている

――お子さんがいらっしゃるそうですが、子育てと仕事の両立はどのようにしていますか?

「母親としての時間を大事にしようとすると、なかなか仕事にばかり時間を割くこともできませんが、逆に子どもがいることで、「こういう仕事はやらない」という取捨選択をできるようになった部分もあります。前に比べるとかなり引き受ける仕事を削ぎ落としたと思います。」

山形で作っていることの価値

――山形に来て、ご自身の変化はありましたか?

「東京にいた頃は家賃のために働いている感覚もありましたが、今は暮らしに無理のない形で仕事しているので、健康的に過ごせていると思いますね。山形のことで知らない事や景色もまだまだ多く、今も旅人気分のようなところもあって、四季の移り変わりの美しさを感じて日々写真を撮ったり、季節ごとの感動をたくさん味わっています。

私のお客さんは関東の方も多いですが、山形の自然豊かな場所で作っているということが作品の魅力にもなりますし、“遠さ”がかえって興味を持っていただくきっかけになり、山形の風景や暮らしの様子を見て楽しんでいただけているようです。いずれ、皆さんに来ていただけるような機会もゆっくり作っていけたらと思っています。」


【写真提供:川地あや香さん】

まとめ

川地さんのインタビューから考える“自分らしく暮らし、働く”ためのヒント

・好きなことを続けられる環境を選ぶ

・自分のスタイルを極める

・取捨選択し、無理をしない

今でこそ、自分らしい働き方のスタイルを確立している川地さんですが、最初から好きなことだけをやってきたわけではありません。会社員として働きながらも、学生時代から興味のあることを研究し続け、やり続けてきた結果、それが自然と仕事という形につながり、また、山形に移住したことで自分らしい暮らしと仕事を両立できるようになったのです。

川地さんのHPが多くの共感を呼ぶのは、暮らしと仕事が溶け合うような自然体で無理のない“自分のあり方”を見せてくれているからではないかと思います。

もし、今「自分らしさって何だろう?」「やりたい仕事、やりたいことがわからない」と悩んでいる人は、まずは興味のあることや好きなことを掘り下げて、今の仕事をしながらでも少しずつできることから始めてみてはいかがでしょうか。焦らなくとも、続けていくうちに、それがやがて「自分らしい生き方・働き方」につながっていくかもしれません。

最後に、リモートワークが増えている読者の皆さんに向けて、川地さん流の在宅ワークのストレスを減らすための工夫を伺いました!

1.自分に違う景色を見せてあげる

一日一人で仕事をするためには、飽きない工夫が必要です。一日中仕事だけしていると集中力も切れますし、どうしても単調になりがちですよね。「疲れた」=「飽きた」でもあります。だから、仕事の合間にごはん作りや服作りなどをして、家の中でも違う景色を自分に見せてあげる工夫をしています。

2.立つことを意識する

家で仕事をしていると、気をつけないとずっと座りっぱなしになってしまうので、あえて「立つ」ことを意識しています。実は、仕事の合間に料理をつくるのは、立つためでもあります。なるべくポストまで歩いたり、散歩するのもいいですよね。万歩計をつけるのもおすすめですよ(笑)。

3,自分の癒やし時間をつくる

私にとっては、手を動かして何か物を作ること自体が癒やしにもなります。ご飯やお菓子作りは、「今日はこれができた」という一つの成果物になるのがいいですね。地道な作業の積み重ねの中で、お菓子作りやご飯づくりに救われているなと思います。

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川地あや香HP https://www.kawachiayaka.com/

書籍「おやつとスプーン」特設ページ https://kawachiayaka.com/oyatsuspoon.html

インスタグラム https://www.instagram.com/kawachingkawachi/

(作品やお菓子は、イベントや展示会、HP内のオンラインストアで不定期で販売されます。)

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