近ごろ人気が高まる田舎暮らし。

喧騒や人混みから離れた大自然の中での暮らしはいいものですよね。

でも、気になるのは「働き口」。
どんなに魅力的な場所でも、仕事がなければ暮らしていけません。
厳しい自然の中で生きる人々は、どんな仕事をしてどんなふうに暮らしているのでしょうか。

日差しが照りつける夏は畑に出て農作業、雪の積もる冬は家で藁細工。
そんな昔ながらの農家の営みを受け継ぎ、季節とともに暮らす男性が山形県・真室川にいます。

そこには、消えつつある地域の「宝」を守りたいという思いがありました。

 

今回のやまがたで働く人

1.髙橋さん-2

髙橋伸一(たかはし しんいち)さん プロフィール

1975年山形県真室川町に農家の5代目として生まれる。高校卒業後、真室川町役場に就職。2016年3月、20年以上勤めた町役場を退職し、藁細工などの手仕事と農業を行う「手仕事と食べ物 工房ストロー」を立ち上げる。2017年には仲間とともに「真室川伝承野菜の会」を結成し、勘次郎胡瓜など伝承野菜の栽培管理や販路拡大にも取り組んでいる。

自然の恵みを循環させる、昔ながらの仕事と暮らし

山に囲まれた町の中で、見渡す限り広がる田畑。時折、「モ〜」と牛の鳴く声が聞こえてくる。

髙橋さんは自然豊かなこの地で、農家として働いている。

2.畑-6

一口に農家といっても、高橋さんの日々の仕事は畑作、稲作、畜産、藁細工と多岐にわたる。

「これが昔ながらの農家のやり方。それぞれの仕事が互いに関わりを持っているんです」

農地の恵みを、家畜を通してまた土に還し、稲作で刈り取った藁を藁細工に利用するという「循環型」の暮らしだ。

育てている作物は、お米や野菜など、なんと200種類以上。

一つの作物を大量に育てるのではなく、多品種を少量ずつ育てるという代々受け継がれてきた方法を取っている。

特に力を入れているのは伝承野菜の生産だ。

真室川には、限られた農家の間で先祖代々受け継がれてきた独自の作物がある。

「伝承野菜はもともと農家が自分の家だけで育てて、自分で種を取って、自分たちで食べるために作られてきたもの。私が栽培を辞めてしまったら誰も続ける人がいないという使命感にも似たような思いで続けています」

 

「町の宝」を受け継ぎ、自分にしかできない仕事を

「工房ストロー」(※ストローとは藁のこと)を始めることを決意したのは、40代に差し掛かったときだった。

高校を卒業してから20年以上、真室川町役場に勤めていた髙橋さん。町の農作物などのブランド化を担当する部署で働くうちに、真室川の伝承野菜や藁細工のすばらしさに気付いたという。

3.役場時代-1▲真室川町役場で働いていた頃の高橋さん

「まさにこの町の宝のようなものだなと。でも作り手が高齢化していて、後継者がなかなか見つからない。このままなくなっていってしまうのは惜しいな、と思っていたんです」

そこで髙橋さんは、「農家に生まれた自分こそ、伝承野菜も藁細工もどちらも引き継げるのではないか」と考えた。

「人生80年とすれば、その約半分に達する年齢。仕事人生も約半分というところまで来て、ちょうど立ち止まる時期だったんです。このまま役場で働くのもいいけれど、自分にしかできないこと、自分がやりたいことを自ら選択するのもいいかなと思いました」

もともと手先が器用で、ものづくりが好きだったという髙橋さん。

伝承野菜や藁細工を仕事にしたいというよりも、「ものづくりが楽しい」「まずはなんとか学んで技術を残していきたい」という気持ちだったという。

幸いにも家族の理解を得ることができ、転身する環境も整った。「いろんなタイミングがカチカチとはまっていって…。今こそ始めるときだ!と突き進みましたね(笑)」

2016年春、髙橋さんは惜しまれながら役場を退職。農家としての仕事をスタートさせた。

 

「求められること×自分にできること」から仕事が生まれる

試行錯誤しながら伝承野菜の栽培に取り組む一方、藁細工の師匠に弟子入りして技術を学ぶ毎日。

町役場を辞めて新たな道に進むことに、不安はなかったのだろうか。

「最初はなかなか仕事が来ないかなと思っていたけれど、そんな不安を感じる暇もないくらいすぐに忙しくなりました。藁細工は本来冬の仕事なのですが、夏の間にも受注がありノンストップで働いていました」

実は、藁細工はしめ飾りや履物、伝統的な祭りの道具として重宝されているため需要が絶えない。専門の作り手が少なくなっていることもあり、全国各地から髙橋さんに依頼が来るのだという。

4.藁細工部屋-5

「若者は『田舎じゃ仕事がない』と言うけれど、見つけようと思えば、やろうと思えば、どこでだって仕事はできるはず。大事なのは『何を求められているかを知ること』と『自分ができることは何なのかを見極めること』の二つだと思います」

髙橋さんの場合には、藁細工や伝承野菜の需要と、「ものづくりが好き」という自身の興味が合致したということだ。

「それですべてがうまくいくわけじゃないし、楽して稼ぐことはできない。でも、大変な面も楽しい面もあるのはどの社会でも同じなんじゃないかなあ」

 

最後に届く先まで、丁寧に見届ける

多忙な毎日を送る髙橋さんだが、その仕事ぶりは丁寧で、配慮が行き届いていると評判だ。

「つくったものを一番いい状態で最後まで届ける」ということを、何よりも大切にしているという。

「例えば農家さんによっては、作物を出荷したらそれで終わりという人もいます。でも私は、自分が作ったものがどこに行って、どんな人に食べてもらっているのか知りたいし、そこまでおいしい状態で届けたいと思っています」

そのために、おいしさを保つための工夫は欠かせない。

例えば伝承野菜の一つの「勘次郎胡瓜(かんじろうきゅうり)」は、品種改良が施されている普通のきゅうりに比べて水分が蒸発しやすく、すぐに傷んでしまうという。

「収穫したらすぐ湧き水に入れて予冷し、黒いトゲを落として、涼しいところで箱詰めをする。おいしさが続く方法を自分で試行錯誤したり、仲間同士で共有したりしています」

5.胡瓜-2

勘次郎胡瓜は、きゅうり独特の苦味がなくすっきりとした味で、そのみずみずしさと甘さはメロンにも近い。塩とオリーブオイルをまぶしていただくと、甘みがさらに引き立つ。

5.胡瓜-3

徹底的に管理されたその品質が高く評価され、県外のレストランやホテルでも使用されているそうだ。

藁細工は、髙橋さんが直接インターネット上やマルシェで売ることが多く、卸売はほとんどしていない。受け取り手に、手仕事の理念や藁細工の背景まで理解して使ってもらえるよう、しっかり説明して販売するというポリシーの表れだ。

商品を作り、自らその最下流部まで見届けること。

決して効率的なやり方とは言えないが、それを手間とも思わずこなしていく髙橋さんの姿には、自分が作り出したものへの強い愛情が見て取れる。

 

お金をかけずに楽しめる、大自然こそが最高の遊び場

髙橋さんがこれほどの熱意を持って農業や手仕事の伝承に取り組むこの地域、真室川とはどのような町なのだろうか。

「僕は真室川しか知らないので、良さも悪さも分からないんですよね。でもやっぱり、外に出たいと思わなかったのは、真室川がいいところだからなんだろうなあ」

6.真室川風景-3

人口8千人弱の真室川町には、繁華街やおしゃれなカフェ、夜まで遊べるレジャースポットはない。

都会に憧れて町の外に出て行く人も少なくない。

しかし、髙橋さんにとっては真室川が一番の場所だった。

「真室川は、アウトドアが好きな人には、とても楽しいところだと思うんです。都会の人はわざわざお金をかけてレジャーを楽しんでいるけれど、真室川なら家の裏山で楽しめる。思い立ったらすぐ山に出かけられるし、山菜を採ってくればすぐに食卓に並ぶんですよ(笑)」

大自然の恵みを享受しながら、髙橋さんはこれからも、真室川の農家であり続ける。

「この仕事を始めてまだ4年目なので、まずはしっかり継続していきたいです。伝承野菜の栽培方法もまだまだ確立していないし、もっといい方法があるんじゃないかなと思っています。

下の世代にも継承していきたいと思っているけれど、なかなか若い人との出会いがなくて…。案外、継いでくれるのは町の外から来た”よそ者”だったりするかもしれないね」

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古来から人々の暮らしの中で脈々と受け継がれてきた作物や技術は、かけがえのない地域の「宝」。それを継承する高橋さんの取り組みは、一見、保守的に見えて、実は町の魅力と価値を掘り起こす新たな“地域おこし”の形とも言えるのではないでしょうか。

真室川町の魅力に触れられる『やまがたCAMP 2019 in 真室川』が、まもなく開催されます。

真室川町に行ってみたい!髙橋さんに会って直接話を聞いてみたい!という方は、ぜひご参加ください。

詳細はこちら▶やまがたCAMP〜真室川町編

 

 

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