遊佐町に移住し、起業した二人の若い女性が今、ひそかに注目を集めている。
ヴィンテージ織物を使った商品の製造・販売を手がける合同会社『Oriori Japan』を立ち上げたのは、ともに20代の藤川かん奈さんと坂部春奈さん。
彼女たちは、使われずに眠っている反物を集めて、より身近なアイテムにつくり変えることで、日本の伝統文化である織物の美しさと素晴らしさを伝えている。

スクリーンショット 2020-01-17 17.27.14▲ 『Oriori japan』 HP(https://oriori-japan.com/)

遊佐町を拠点とするオリジナルアパレルブランド『Oriori Japan』の展示販売会が、1月11日〜16日の6日間、大石田町『KOE no KURA』で開催された。期間中は延べ250名以上が来場し、大盛況となった。

初日の展示販売の様子と、トークショーで語られたブランド立ち上げの経緯を未来ラボ編集部がレポートする。

展示販売は13:00からにも関わらず、30分前にはすでに行列ができ、開場と同時に『KOE no KURA』2階のギャラリースペースはあっという間に人であふれた。お客さんは皆、興味津々で商品を手に取り、素材を確かめたり、色や柄をじっくり見比べたりしている。

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そんな会場の片隅で、黙々と針仕事をする女性がいた。Oriori Japanで製品の企画・デザインを担当している坂部春奈さんだ。坂部さんは遊佐町地域おこし協力隊として活動する傍ら、Orioriの仕事もしている。丹精込めて作り上げた製品は、「もともと反物だったものを利用してつくっているので、その生地がなくなったらそれで終わり。だから、ほぼ一点物なんです。」とのこと。

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「このアクセサリーは、ヴィンテージシルクの糸を一本一本巻きつけてつくっているんです。」「この色、すっごくいいですよね?同じ色はもう作れないので、これ1個だけなんです。」お客様一人ひとりに丁寧に説明しているのは、代表の藤川かん奈さん。お客様と話す熱心な語り口からも、商品に対する想いが伝わってくる。

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IMG_6380 2▲アクセサリーは、一つひとつすべて手作業でつくられている。

Orioriの製品に使われている生地は、100%純国産。山形県内の家庭や呉服屋さんの蔵で眠っていた反物から作られている。

元々は、処分される予定であったり、タンスの中で眠ったままもう二度と日の目を見ることがなかったであろうものを、Orioriが買い取り、スカーフやストール、バッグ、アクセサリーなど日常で使えるアイテムに形を変えて甦らせているのだ。

新たな生命が吹き込まれた織物たちはOrioriのブランドロゴを纏い、凛とした佇まいで誇らしげに輝いている。

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しかし、反物を新たな製品につくり変えるまでには、大変な手間暇がかかるのだという。

「Orioriの製品は直接肌に触れるものなので、材料となる織物は、一度必ず専門の職人さんにお願いしてクリーニングしてもらっています。専門的な知識や技術が必要なので、最低でも2週間はかかるんです。」

眠っていた宝物を甦らせるのは、簡単なことではないのだ。

IMG_6376 2▲ヴィンテージシルクの品のある輝きと、シンプルで洗練されたデザインが魅力。

アパレルブランドというと、都会のイメージだが、遊佐でつくることにこだわりはあるのだろうか?

デザイナーの坂部さん曰く、「遊佐は、都会と違っていろいろな情報は少ないかもしれません。でも、その分、余計な情報に惑わされることもない。商品の企画やデザインを考えるときにも、今はこういうものが流行っているから…とか、こういうデザインが売れるとか、世間の声に流されることなく、純粋に自分がつくりたいと思うものをつくることができるんです。この風景や自然の中でこそ生まれるイメージもあるし、遊佐だからこそつくれるものがあると思っています。」

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展示販売会の客足は途切れることなく、お客様への対応に追われながらも、トークセッションがスタート。

IMG_6398のコピー▲左:坂部春奈さん、中央:藤川かん奈さん

「私たち、かん奈と春奈なので、漫才コンビみたいってよく言われます(笑)。姉妹にも間違われるんですけど、違います」

はじめてのトークショーで緊張はしているものの、関西出身なだけあり、軽妙なトークで笑いを誘う藤川かん奈さん。話すのは苦手という坂部春奈さんも、展示販売会で商品を手に取ってくださったお客様を前に、にこにこと嬉しそうだ。

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イタリアでの衝撃的な体験が人生の転機に

京都出身の藤川さんは、4年前に地域おこし協力隊として遊佐町へ移住。任期を終え、イタリアへ旅行した際に体験した出来事がOrioriを立ち上げるきっかけになったという。

「現地で知り合った、イタリア人のあるカメラマンから撮影に協力してほしいと言われ、「着物を着てシチリアの海に飛び込んでくれないか?」と頼まれたんです。最初は冗談かと思っていたのですが、話をするうちに相手は本気だとわかり、「だったら私も本気でやるしかない!」と腹をくくりました。」

急遽、遊佐から着付けの先生も一緒にイタリアへ同行してもらい、撮影に臨んだ。

▲シチリアの海に飛び込んだときの写真(Oriori Japan HPより)

出来上がった作品は高い評価を受け、その後、レセプションパーティが開かれた。

そして、そのパーティでの出来事が、藤川さんの人生の転機となる。

最初は「セレブが集まるパーティなんて…」と気後れしていた藤川さんだが、しぶしぶ振袖を着て参加すると、その着物はたちまち会場の人々の注目を集め「ビューティフル!!」「アメージング!」と、たくさんの人に取り囲まれる事態となったのだ。

「人生ではじめての経験だったので、なんなんだこれは!?とびっくりしました。日本の着物がこれほど海外の人から評価されるということに驚いたのと同時に、この価値をもっと日本の人にも知ってもらいたい!と、そのとき強く思ったんです。」

 

未経験からのオリジナルブランド立ち上げ

日本の伝統文化である織物の素晴らしさを多くの人に伝えたいーー。自分のやりたいことは「コレだ!」という確信とともにイタリアから帰国した藤川さんだったが、アパレルやデザインの経験はまったくない。形にしたいけど、どうしたらいいかわからない…。そんなとき、同じ遊佐町の地域おこし協力隊である坂部さんが、デザインや縫製ができるということを知る。

もともとスタイリスト志望だったという坂部さんは、自分がデザインしたものを形にしたいという想いを持っていたが、どこでどのように表現すればいいのか思いあぐねていた。そこへ、藤川さんから織物で何かをつくりたいという話を持ちかけられ、即座に意気投合。

二人の想いが、織物の縦糸と横糸のように合わさり、2019年4月、『Oriori Japan』が誕生した。

自ら道を切り拓いていく、行動力あふれる藤川さんと、ものづくりに並々ならぬ情熱を傾け、一つひとつの製品と真摯に向き合う坂部さんは、絶妙なコンビだ。

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藤川さんは「坂部さんに出会わなかったら、Orioriは生まれなかった」と話す。

 

 勝負はこれから。試行錯誤しながら奔走する日々

経験も実績もない若者がオリジナルブランドを立ち上げるというのは、一見、無謀な挑戦のようにも見えるが、彼女たちは決して勢いだけで突っ走っているわけではない。

藤川さんは、自分たちのアイデアを商品化するにあたって、本当にそれが消費者に受け入れられるのかどうかを確かめるため、商品サンプルをスーツケース2つにびっしり詰めて海外へ市場調査に出かけた。結果、商品は売れ、評判は上々だった。「これは、イケる。」そう確信した藤川さんは、本格的に生産をスタートさせた。

しかし、すべてがはじめてのことばかり。もちろん、うまくいかないこともある。デザイナーの坂部さんは「実は今、つくりたいと思っている商品があるのですが、構造が特殊なので製品にするのがなかなか難しくて…。今も県内の工場を当たっている真っ最中です。」とのこと。

また、販売ルートは現在、オンラインショップがメインだが、まだまだ認知度は低く「ネット販売の難しさを痛感している」という。

「やっぱり、実際に商品を手にとって見てもらったほうが伝わると思うし、私たちも直接お客さんと顔を合わせて話せるのはうれしい。」そのため、今回のような展示販売会をこれからもいろいろな場所で開催していきたいと考えている。

先日は都内のデパートでも販売会を行ったり、海外バイヤーとの商談会にも積極的に参加したりと、藤川さんは『Oriori Japan』の商品を知ってもらうため、日々奔走している。「起業したばかりなので、成功するかどうか私たちにもまだわからない。」そう言いながらも、自分を信じて突き進む彼女の笑顔は、シルクのようにキラキラと輝いている。

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「誰でも、何にでもなれる」ということを伝えたい

Oriori JapanのHPには、こんな言葉が書かれている。

「誰でも、何にでもなれる」

これは、藤川さんがOrioriを通してもっとも伝えたいメッセージでもある。

「デザインの知識やアパレルの経験がない私でも、こうしてなんとかオリジナルブランドを立ち上げることができた。私が起業したのは、自分がチャレンジする姿を見せることで、“誰だって、何にだってなれるんだよ”ということを伝えたいからでもあるんです」

自分の想いに真っ直ぐに突き進む彼女は、振袖を着てシチリアの海へダイブしたときと同じように、勇気と覚悟を持って起業し未知の世界へ飛び込んだ。そして今、もがきながらも自由に、生き生きとその世界を泳いでいる。

Orioriの物語は、まだはじまったばかり。

彼女たちの織りなす未来を、楽しみに見守っていきたい。

『Oriori Japan』Webサイトはこちら
『Oriori Japan』 facebookページはこちら

取材協力:大石田町『KOE no KURA』

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