長井市は、置賜地域に新たな産業を生み出すことで地域経済が活性化し、若者が誇りをもって働ける地域へ発展していくことを目指し、昨年から『長井ビジネスチャレンジコンテスト』を開催しています。
このコンテストは、若者や移住者の創業、新たな「コト」起こしの促進、地域資源を見直す機会を創出し、地域にチャレンジする雰囲気を醸成することを目的としています。
今年は、8組が一次審査を通過。ビジネスプラン部門から3組、ビジネスアイデア部門から2組、高校生チャレンジ部門から3組が選出されました。
ヤマガタ未来ラボでは、一次審査通過者の中から“カフェを併設した観光農園”の実現を目指す安部真理さんに注目し、取材してきました。
プロフィール
安部真理(あべ まり)さん
長井市出身。短大卒業後、山梨県の農業大学校へ。その後、ドイツにあるワイン用のぶどうとりんごを栽培している農場で1年間研修を受け、24歳で就農。現在、ご両親・ご主人とともに長井市の『安部ぶどう園』でぶどう作りに励んでいる。3人の子どもの子育て中。
“親子で楽しめる農園カフェ”で地域を盛り上げたい
――なぜビジネスチャレンジコンテストに応募しようと思ったのですか?
うちは、おもに生食用のぶどうを栽培しているのですが、ただ作って売るだけではなく、もっと生産者とお客様が交流できる場を作りたいなと思っていて…。お客様と触れ合える農園カフェをやりたいという夢がずっとあったんです。
それと、就農して気づいたのが、長井産のぶどうがあまり知られていないということでした。だから、農園カフェをつくることで長井のぶどうをもっとたくさんの人に知ってもらい、地域を元気にできたらいいなと思って応募しました。
――農園カフェではどんなものを提供する予定ですか?
カフェでは、ぶどうジュースや、ぶどうソースを使ったスイーツなどを提供する予定で、今、いろいろ試作しているところです。
ぶどう狩りをして食べて終わりの観光農園ではなく、ぶどうがどういうふうに作られているのかをもっとお客様に知ってもらいたいんです。
収穫の時期だけでなく、春先にぶどうの花が咲いているところも見てほしいですし、グリーン・ツーリズム体験として一緒に農業体験をするなど、ぶどうの成長過程を知ってもらえる場所にしたいと思っています。
それから、この地域(長井市伊佐沢地区)の自然を生かして、子どもたちの自然体験プログラムや、ぶどうのツルを使ったワークショップもできたらいいなと考えています。
長井市内には子どもを連れて遊びに行ける場所が少ないので、休日に家族でお出かけする場所として、県内だけでなく県外からも来てもらえるような“親子で楽しめる農園カフェ”にしたいですね。
▲安部さんファミリー
――“親子で楽しめる農園カフェ”があったらママやパパも嬉しいですね。
私も小さい子どもが3人(小1、年中、2歳)いて、子育て真っ只中なので、どうしたら子どもが喜んでくれるかな、どういう商品がお母さんたちに喜んでもらえるかなと思いながら、カフェや商品のアイデアを練っているところです。
子どもの頃からお菓子作りが好きで、暇さえあれば作っていました。作ったものをみんなに食べてもらって喜んでもらえるのが嬉しいんです。
私が住んでいる伊佐沢地区は果樹地帯なんですが、だんだん人も少なくなってきているので、この地域に訪れる人を増やすためにも、カフェの存在が外から人を呼ぶきっかけになればと。
カフェで若い世代にも果物の美味しさを知ってもらい、「ここに来て楽しかった」と思ってもらうことで、ファンを増やしていけたらいいなと思います。
――ビジネスプランを考えるのは大変ではありませんでしたか?
いろいろな人との出会いがあり、皆さんに助けてもらいながら今回のビジネスプランをまとめました。さまざまな人と関わることで、自分では気づかなったことに気づけたり、違う角度から考えることができたので、助言をくださった皆さんには感謝しています。
自分一人で考えていたのでは、ここまでくることはできなかったと思います。
このビジネスプランは、自分のカフェを持ちたいというよりも、農園カフェをつくることで地元を盛り上げていきたい、地域の活性化につなげたいというのが一番の目的です。
父から受け継ぐ『高尾』への想い
――小さい頃からぶどう農家を継ごうと思っていたのですか?
いいえ、まったく(笑)。でも、大学で農業に対する熱い想い持った先生や仲間と出会って意識が変わり、農業って楽しいかもと思うようになりました。今、楽しく仕事をできているので、継いで良かったなと思います。
農業の楽しさは、作るところから売るところまで全部できること、そして、自分の好きなようにやれるところですね。買ってくださったお客様の反応も嬉しいですし、それがやりがいにもつながっています。
――ぶどう作りに対するこだわりはありますか?
今、安部ぶどう園で作っているぶどうは高尾、シャインマスカット、ロザリオビアンコなど、約20種類ありますが、すべて生食用のもの。栽培のこだわりとしては、化学肥料だけに頼らず、なるべく有機肥料を使うようにしています。
高尾は、とくに作るのが難しい品種なのですが、このあたりで最初に高尾をつくりはじめたのがうちの父で、それから40年以上作り続けています。
見た目は巨峰と似ていますが、味が全く違います。希少品種なので、実は高尾ファンってけっこういるんですよ。
果樹は、畑の土との相性も大きくて、この畑には高尾が合うけど、こっちの畑だと味がのらないということもあって、それは植えてみないとわからないんですけど…。うちの高尾が美味しいと言っていただけるのは、ここの畑の土が高尾にすごく合うからなんだと思います。
安部ぶどう園のお客様は、高尾が食べたくていらっしゃるので、これからも大切に受け継いでいきたいですね。
大量廃棄されるぶどうを加工品に
――加工品も作っていらっしゃるんですよね?
形の悪いぶどうや、傷がついてしまったものは売れないので、毎年大量に(約1トン)廃棄していたんです。それをなんとかしたいと思って、三年前ぐらいから加工品をつくり始めました。
今、実際に商品化しているのは、ぶどうジュース、ぶどうソース、干しぶどうです。ぶどうソースはジャムよりもゆるいので、ヨーグルトやパンケーキにかけたりと使い勝手が良く、お店に出すとすぐ売り切れてしまいます。(※安部さんの商品は長井の道の駅をはじめ置賜の道の駅で販売しています。※売り切れの場合はご容赦ください。)
――ジャムではなくソースにしたのはなぜですか?
ぶどうがたくさん余っていたので何かできないかなと思って、最初はジャムを作ろうとしたのですが、うまく煮詰まらずにゆるくなってしまったんです。だったらジャムじゃなくてソースにしようと思って、ためしに売ってみたら予想以上に反応が良くて…。
今まで商品化した中では一番手応えがある感じです。我が家でもぶどうソースをパンに塗って食べたりしているのですが、子どもたちもおいしいと言ってくれます。
ぶどうジュースは、子どもの名前を一文字ずつとって商品名にしました。ひろとの「と」、みわの「わ」、そらの「ら」で、『永遠楽(とわら)』です。
――加工品は、いつ作っているのですか?
秋に収穫したぶどうを冷蔵保存しておいて、農作業が落ち着く冬場に試作しながら作っています。ソースは手作業で裏ごしして、絞って、煮詰めているのですごく手間はかかります。
これまでは地区の共同の加工場を借りて、すべて手作業で作っていたので作れる数も限られていました。今後は、機械を入れて生産数を増やしていきたいと思い、今、自宅の隣に加工場を作っているところです。嬉しい反面、もう後戻りできないなという感じですね(笑)。
家族の応援を力に、子育てしながら夢にチャレンジ
ーー子育てしながらやるのは大変ではないですか?
商品を作ったり試作をしたりしているとつい夢中になってしまって、時間があっという間に過ぎていきます。子育てや家事をしながらなのですごく忙しいですが、好きなことをやっているので楽しいですね。自分の夢に向かって進んでいるので、毎日充実しています。
――ご家族も応援してくれていますか?
今、ぶどうゼリーの試作段階なんですが、ゼリーを作ったほうがいいと言い始めたのは、実は父なんです。母も協力してくれていて、ぶどうソースは母と一緒に作っています。
姉は、試作品を食べてアドバイスしてくれたり、今、こういうのが流行ってるよとか、もうちょっと甘さ控えめのほうがいいんじゃない?とか、いろいろ相談に乗ってくれます。
主人は、北海道出身なのですが、うちのぶどう農家を手伝いたいと言って、結婚してから農業を始めたんですけど、もともと自然や生き物が好きだったらしく、農業が楽しいみたいです。今回のビジネスチャレンジコンテストについては、口では何も言いませんが、応援してくれていると思います。
たくさんの人が応援してくれているので、私も家族のため、地域のために全力で頑張りたいと思います。
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取材の間もずっと笑顔を絶やさず、柔らかい雰囲気で場を和ませてくれた安部さん。一見、おっとりしているように見えて、やりたいことには迷わず突き進むという行動派でもあります。
夢に向かって一生懸命な安部さんを見ていると、つい応援したくなってまわりが自然と協力してくれるのも頷けます。
“親子で楽しめる農園カフェ”が実現したら、ぜひ遊びに行ってみたいですね。安部さんの素敵な夢の実現を、未来ラボも応援していきたいと思います。
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ファイナルイベントに向けてブラッシュアップ!
去る1月19日(土)、長井市のタスビルにて、ビジネスチャレンジコンテスト一次審査通過者のファイナルイベントに向けたブラッシュアップ合宿が行われました。
合宿1日目は、プレゼンテーションの仕方についての講義を受け、その後、本番と同じ会場を使って模擬プレゼンテーションを行いました。
このような広い会場で発表をするのははじめてという方がほとんどで、皆さん緊張した面持ち。もともと人前で話すのはあまり得意ではないと言っていた安部さんも、積極的に自ら手を挙げ、模擬プレゼンにチャレンジ。
終了後、振り返りの用紙には、「前を見て話せなかった」「話すペースが速すぎた」など、いくつもの反省点が書かれていました。
「ふだんは、こういった資料を作ることも、プレゼンテーションをする機会もないので、わからないことだらけで…。はじめての体験でとても緊張しましたが、他の人のプレゼンや講師の方のお話を聞いて勉強になりました」
合宿2日目は専門家からの意見をもとに企画書を修正したり、プレゼンの仕方に磨きをかけました。さて、どんな仕上がりになっているのか、本番が楽しみです。
2月16日(土)、いよいよファイナルイベント!
安部さんの他には、長井産のけん玉を全世界へ販売する企画や、人にもペットにもやさしい飲食店モデル事業のほか、高校生や大学生の企画も発表されます。
はたして、グランプリは誰の手に!?
2月16日のファイナルイベントをどうぞお楽しみに!
観覧無料です。ぜひ皆さんも会場で応援してください!
■会場:タスビルコンベンションホール(長井市館町北6-27)
■日時:2月16日(土)13:00〜17:15(受付12:30〜)
※申し込みは不要です。お気軽にお越しください。
詳しい情報はこちらをご覧ください。↓
長井ビジネスチャレンジコンテスト http://www.nagai-biz-challenge.info/