結婚・妊娠の予定がまだなくとも、『出産後、仕事と育児を両立できるかどうか不安…』という女性は9割にも上ります。(出典:スリール株式会社『両立不安白書』)
山形での、「仕事と育児の両立」に不安を感じている働くみなさん。
女性社員には結婚・出産をしても働き続けてもらいたいと思っているけれど、退職してしまったり前例がないからどうしたら良いかわからない!とお悩みの経営者・人事担当者の皆様へ。
「産休育休を取って、復帰後も、今と同じ職種で働きたい!」
社内で前例のない要望を声に出し、また復職後も、自分の働きやすい環境を叶え、さらに育児と両立しながらキャリアアップした女性をご紹介します。
彼女が、どのようなアクションを起こしていったのか。
また、会社側は、それをどのように受け入れたのか。
働く側も、経営側も、どちらもハッピーな環境をつくりだしている会社は、お互いにどのようなアプローチをしていったのか、そのヒントを受け取っていただけましたら嬉しいです。
株式会社アサヒマーケティングのお二人にお話を伺いました
ブランディング、プロモーション、マーケティング事業を展開している株式会社アサヒマーケティングを訪問。
(写真左)メディアマーケティング事業部 統括部長 髙橋章さん(岡崎さんの直属の上司)
(写真右)メディアマーケティング事業部『ヨミウリウェイ』編集長 岡﨑彩さん
岡崎さん:2005年に株式会社アイ・エム・シイ(株式会社アサヒ印刷企画部門の会社。2016年に合併、株式会社アサヒマーケティングに社名変更)に入社し、営業に配属。その後、異動となり『月刊山形ZERO★23』の編集を経験し、2009年、編集者として初めて産休育休を取得。2010年に育休復帰し、『ヨミウリウェイ』に媒体異動。2013年から同誌編集長として活躍する小学2年生女児のママ。
その職種で初めて&会社で初めての1年間の産休育休を取得
ー岡崎さんが、編集職として初めての産休・育休を取得したと伺いました。
岡崎さん(以下、岡崎):はい、2009年から2010年の間の12ヶ月を、産休育休として取得しました。会社として制度はなく、会社と話し会って休暇期間を決めました。
それまで、労働基準法で定められる産前6週間前から産後8週間までの産休育休を取得後に復帰した事務職の女性社員の前例はあったものの、それ以上の期間の休暇を取得した女性は会社内にいませんでした。
(編集部注:育児休業期間を最長2年まで延長できるとする雇用保険関連法が、国会で可決・成立し、2017年10月から延長できる期間が1年になり、最長2年まで育休がとれるようになっている)
編集職の場合、《結婚が決まる=寿退社》という空気感があったことや、業務量が多く夜が遅くまで仕事をしており、仕事と育児を両立するイメージが持てなかったせいか、結婚や出産のタイミングで退社するのが通例となっていました。
ーそんな雰囲気の中でも、岡崎さんは、仕事を続けたいと思っていたのですね。
岡崎:入社4年目で、結婚・出産のタイミングを迎え、営業から編集にシフトして、いろんな経験をさせてもらって、一人前になりつつある時期だったんですよね。結婚と出産で、キャリアを手放したくはないなと思っていました。
だから、先輩たちが結婚や出産のタイミングで辞めていくのが、不思議で仕方なかったですね。
それに、入社当時に創業者が「これからくる、女性が働く時代への備えが必要」だと言って、(本社がある)立谷川工業団地への保育園誘致を進めているという話を聞いていたのもあって、辞めていく先輩を見ながら、「もったいないな…」という思いを募らせていました。
ー「結婚・出産後も、編集職を続けたい」と会社に申し出た時は、どんな反応がありましたか?
岡崎:軽い感じで、『あ~、助かるよ~!』って言っていただけたのが有難かったです。『私、このまま会社にいてもいいんだな』って安心したのを覚えています。
女性がキャリアを積むことは、会社の成長にも繋がっていく
1995年から、会社の変遷を見守ってきた、岡﨑さんの上司である髙橋さんにもお話を伺います。
ークリエイティブ職は、結婚や出産のタイミングで退社するのが通例となっていたそうですね。
髙橋さん(以下、髙橋):編集の他、制作デザインなどを担当する社員は女性が多いです。会社としては「辞めてほしい」なんて思ってないのですが、確かに、夜遅くまで仕事するし、子育てしながら働くことは大変な環境だったかと思います。
『話があるんですけど…』と呼び出されると、ドキッとしましたよね。話があるという時は大抵、『結婚するので、辞めたいんです』と切り出されるので。
しかし、会社側も、改革の時期にあると考えていました。
弊社で発行している『マーメイド』というフリーペーパーは、子育てママが読者ターゲットであるのと同時に、子育て中の女性が働ける場を作ることを目的として、創業者が立ち上げたもの。
対外的に「働く女性の場を」と動いているにも関わらず、社内に目を向けると旧態依然とした体制のまま。言ってることとやってることが違うし、このままでは、社員がいなくなり、事業縮小せざるを得ない状況に陥ってしまう危険性を感じていました。
岡﨑からの、「結婚出産後も、編集職を続けたい」という申し出は、女性が働き続けられる仕組みを整備していかなくては、会社としての成長は望めないと考えていた矢先のことでした。子供が出来たら辞めてほしいなんて思ってませんし、出産後も働き続けたいというのは願ってもないことでしたし、働きやすい環境づくりに取り組んでいることを、社内の女性たちにPRできる絶好のタイミングでもありました。
コミュニティの一員として、周囲との関わりを持つ
ー「会社」または「部署」または「その職種」で、初めての産休・育休取得をし復帰後、同じ職種(会社・部署)に復帰して活躍するには、会社側・個人側でそれぞれどんなことをしていくと良いでしょうか?
岡崎:会社には、育休制度はありませんでした。ですので、『この期間、お休みをいただきたい。復職後も、働きたい場合はどうしたらいいか?』という相談をしました。
妊娠中は、残業していると、社長の奥さんが来て、『もう7時でしょ!?帰りなさ~い』みたいに声をかけてくれたり、上司や同僚も、仕事の配分を気にかけてくれていて、常に共有できている関係でした。周りの人たちが、関心を持って接してくださっていたのが良かったなと思います
産後は、子供が生後8ヶ月の頃から、(前述の、誘致された)会社の隣の保育園に子どもを預け、復職しました。夕方、保育園に迎えに行った後、会社の休憩室に子どもを寝かせて残業したこともありましたね。
お腹が大きくなっていく様子や、赤ちゃんの頃からの成長を、親戚のような、ご近所のような感覚で、見守ってくれているのがわかり、産休育休前後の不慣れで大変だった時期にも、協力を得られやすかったと思います。
その頃から、会社に子どもを連れてくる人も増え、会社全体として、子育て世代を見守り、ともに育てていく風土が生まれた気がしますね。男性社員であっても同様に、保育園の送迎のため早く退社することが容認されていますよ。
(会社のイベントに連れてきた岡崎さんのお子さんと遊ぶ高橋部長)
髙橋:中小企業は、大企業のように手厚く制度を作りこめない分、機動力が武器です。中小企業だからこその身軽さで、地域のコミュニティのような環境づくりが可能になります。
ガチっと制度を作りこんでいくよりも、個人のタイミングや希望、方向性にあった働き方を話し合い、実践しながら馴染ませていくのが合っています。
子育てや介護などのため働く時間に制約のある社員、それぞれに働きやすい環境作りをするには、相談文化を根付かせることが必要。
時間も手間もかかるが、それが一番の近道です。
アサヒマーケティング流、両立ママが活躍するコツ
どのような考え方・具体的なアクションを行って、岡崎さんが活躍しているのか、ポイントをまとめました。
1・タイムマネジメントを徹底する
育児は、保育園の迎えや子どもの入浴など、自分のこと以外の時間が決められていることが多い。復職時は、実質的な仕事のボリュームは減ったものの、仕事のために使える時間は制限されたので、まず最初に、どこにどのくらいの時間を費やせるのかを、あらかじめ算出するようにした。
出産後、自分の手の及ばない不可抗力がかかったことで、「限られた時間の中で、何が自分にできるのか?」考えるようになったことは、キャリアに良い影響を与えられた。実際に、媒体の編集長という責任あるポジションに就いたのも結婚してから。
普段は、残業しないで6時に帰る!と決めている。残った仕事は家に持ち帰ることもあるが、あまり手をつけられてはいない。どうしても必要なときは、残業する日を決めて、夫に保育園の迎えを頼んだりもしていた。
「夫も同様に、子どもが生まれてから、生産性が上がった実感があったようです。自分で時間を決められるので、いつまでもダラダラ仕事してたんだなってことに気づいたんですって」。
2・こまかく考えすぎない
大まかな方向性とやり方を決めたら、あとは、細かく設定しすぎない。
もともと、考え込まない性質なので、すぐ終わるような小さなタスクでも並べると、やる気が起きなくなるし、「できないかもしれない…」と不安になってしまう。
《不要なことはしない》を意識する。この仕事は、自分がやらなくてはいけないのか、機械に任せられないか、効率を上げるために不要なことを減らすことに注力する。「その仕事をやってきたから、自分は認められてきたんだ」と、そこに自分の存在価値をおくと、不安で手放せなくなり、辛くなってしまいそう…。
3・まわりの人に関心を持つ
上司は、男性しかいなかったけれど、出産経験できない分、女性側の状況を一生懸命理解しようとしてくれたのが、ありがたかった。異性であることから、逆に、お互いに歩み寄ろうとする気遣いが生まれた。
「岡﨑さんに対し、特別に配慮するような取り決めはしなかったが、妊娠期から子どもの成長過程をみているので、娘と孫を見ているような感覚。風土づくりに大事なことは、子育て女性に限らず、他人に対して関心を持つかどうかということ。他人に対し無関心でいると、気遣いあうこともないし、ワーキングマザーは孤立してしまう」と髙橋さん。
4・なんでも相談できる関係性を築いておく
権利を主張するばかりでなく、お願いされる側の立場を考慮した言い方を心掛けること。それには、普段からの関係性が重要になる。結婚や妊娠のこと以外でも、小さなことでも細かく相談して、パイプをつないでおくのがポイント。
例えば、《育児と営業職の両立は難しいだろうから、事務職に変わったほうがいいのかも?》と考えたとき。《そもそも事務が不得意だから、営業をやってきた》のなら、そう結論付けるのは早計かもしれない。相談文化が根付いていれば、ライフステージが変化しても、キャリアを積める最適な方法を見つけるチャンスを得ることも可能に。
「企業側は、その人の成長段階に応じて、能力を伸ばすのに必要な経験や、個人の力量を活かせる場を用意しなければ」と髙橋さん。
5・チームワークを大切に、思考を柔軟にすること
結婚や出産がなくても、必ず人の手を借りなくてはいけない状況になる。そのときに重要になるのは、上司だけではなく、同僚とのチームワーク。
復職後、順調に働いていたが、1ヶ月後に子どもが入院してしまい、突然10日間身動きがとれなくなってしまった。同僚に仕事を頼まざるを得ない状況になったとき、『私が!自分でなんとかしなきゃ!』という気持ちを捨てた。一つのやり方に固執しないことが大事。
6・働くビジョンを持つ
一度しかない人生で、仕事を辞めることは、結構リスク。働いている母親をずっと見てきていたので、『結婚や出産で仕事を辞める』という概念が、そもそもなかったのかもしれない。普段から、出産後も働くビジョンを持っていると迷いなく進めるのかも。
『これを達成するまでは、私は絶対にキャリアを諦めない!』と、目標を高いところに設定しておくと、悔しくて辞められない。結婚の時点では、編集長になっていなかった。
《なぜ、仕事しているのか?》という問いに対する答えが、モチベーションや成果に影響する。
「数字を見せて『とにかくやれ!これをこうしろ!』という指示ではなく、『こうしてみたらどうだろう?』という言い方にするとか。本人が、仕事にやりがいを感じたり、仕事での自分のミッションに自分自身で気づけるよう働きかけるのが、上司の務め」と髙橋さん。
一人一人が働くやすく、キャリアを伸ばしていける風土を作る
現在、株式会社アサヒマーケティングに所属する社員は46名。男女比は、ほぼ半々。(2018年2月現在)
女性社員は、岡﨑さんの入社当時よりも10名ほど増え、岡﨑さんの後、産休育休を取得した女性社員の事例が2名続きました。
その他に、《親の介護のため、それまでの働き方はできないが会社には残りたい》という意向に沿い、フレックス勤務に働き方を変更するというケースも出てきたそう。
20年前は年間10数名辞めていた離職者も、現在は、5分の1に減りました。
岡﨑さんの事例は、結婚や出産後も仕事を続けられるかどうか心配していた新卒社員にとっても、良い影響を与えているようです。
取材後記
「育児と仕事を両立できるかどうかは、自分次第でなんとかなります。もしも、なんともならないような企業風土だったとしても、『自分で何とかしよう!』と思えれば、なんとかできます。《案ずるより産むが易し》です」という岡崎さんの言葉に、心強さを感じました。
企業を体現するのは、そこで働く人たち。
会社側と、働く側との歩み寄りがあって、組織は成り立っています。
働く側は、自分の働く目標を自分で見つける。
会社側は、理念を掲げ、向かう方向性を示したうえで、相談文化を根付かせる。
双方の目的が合致し、相互に作用していくと、みんなが幸せに働けそうです。
※この記事は、平成29年度「東北地域中小企業・小規模事業者人材確保・定着支援等事業」として作成しました。