「君はどこの国に行きたい?」
山形県の庄内地方に、採用面接でこんな質問をしてくる企業がある。それが、ヨロズエンジニアリングだ。
ヨロズエンジニアリングの母体は、「ヨロズ」という横浜に本社のある企業。自動車の足回りと呼ばれる、サスペンションやブレーキペダルを製造する部品メーカーだ。自動車業界ではよく知られた企業で、国内すべての自動車メーカーに加え、世界的な自動車メーカーなどに部品を納めている。
自動車というのは、細かいパーツの集合で成り立っている。
そのパーツを手がける各部品メーカーの名前は表に出ることがないので、部品メーカーの名前は知られていないことが多い。しかし、パーツ1つ1つは、高い技術力のもと、常に進化している。
「ヨロズ」はその部品(パーツ)を作るメーカーとして代表的な存在で、作っているパーツは、フォードやゼネラルモータース(GM)、ベンツブランドのダイムラー、フォルクスワーゲンなどの世界的な自動車メーカーに採用され続けている。
三川町にあるヨロズエンジニアリングは、このヨロズの100%子会社で、足回りの部品を生産する際に使う金型や治工具、ロボットなどを設計・製作し、世界各地にあるヨロズの各工場に導入している。
『自動車を作る機械』を作るのが仕事だと言えば分かりやすいだろうか。
世界最先端の生産設備の設計・製造している最大拠点が、庄内の三川町にあるのだ。
ヨロズエンジニアリングの場合は2015年の売り上げは43億円、2016年はヨロズの拠点が増えた影響で、倍増の90億円になる見込みだという。
生産効率では世界ナンバー1
「金型と設備を一緒に作っているのは日本中でここだけなんです。」と、ヨロズエンジニアリングの強みについて話をしてくれたのは、組立技術課長の田宮さん。
「CADという専用のソフトでシミュレーションして「自動車生産するマシン(生産設備)」を図面化し、設計する。そして出来上がったシステムを鶴岡市にある庄内ヨロズで試運転し、成功したら標準化して世界中の工場に供給します。
一連の流れのすべてをグループ内で手がけているため、世界中にあるどのヨロズの工場でも変わらぬ生産体制を取ることが可能です。そのため、コスト削減と高品質なものづくりの両方を実現できます。」
ヨロズエンジニアリングが作る『自動車を作る機械』の一番の特徴は、部品の生産ラインに必要な金型や機械をすべて自前で作っていることにある。近年ではAGV(※)と呼ばれる無人搬送車や生産ラインに組み込むロボットまで製作し、工場の無人化を推進している。
※…人の代わりに棚などからモノを持ってきてくれたりするロボット
「AGV自体を作っている企業は他にもありますが、その多くは部品を持ってくるまでで終わりです。けれど、うちでは生産設備と一貫して作っているため、AGVが持ってきた部品を自動で生産ラインに引き込むように設計しています。
ロボットの方はまだまだ作業スピードは人間には劣りますが、休憩なく24時間働いてくれるので、効率ではほぼ同等まで来ています。生産効率では世界ナンバー1なんです」と、田宮さんが教えてくれた。
山形にいながら、あの車の部品・あの車が作られる設備を自分が担当する
「ずっとUターンしたいと思ってたけど、内陸では、興味がある自動車のパーツ・部品に関われる仕事がなかなか見つからなくていた。でも、ヨロズエンジニアリングは自動車関係の金型設計ができる」
この仕事に魅力を感じて転職したという金型設計部門の庄司 一弥さん(43歳)は寒河江市出身で、2016年12月に入社したばかり。
静岡大学の短期大学部にある機械科を卒業後、自動車部品メーカーに就職し、金型と金型をつなぐ”カム”という部品の設計をしていた。
「自分が画面上で思い描いていたものが実際に形になるのが楽しいですね。自分が手がけたものの仕上がりを現場で見られるのもやりがいにつながっていますね。
もっと若い時に入社していたら、ロボットの製造までやりたかったですね。金型の世界も奥深いので、現在40代の自分は金型をマスターする頃に退職してしまう。ロボットまで作れるなんて、きっと楽しいと思いますよ」
山形でロボットを作る仕事。確かに魅力的だ。
親会社ヨロズと協力して、自動車に使われる部品を設計することもあるという。
現在は総務の仕事をしている村上さん(鶴工専卒)は、以前は機械設計を担当しており、熱狂的なファンも多いあるスポーツカーの部品の設計を担当した。
村上さんは、昔からその車が大好きで、この仕事をやり遂げたときは達成感でいっぱいだったそう。
「まさか自分が、この車の部品を作れるって思ってなかったので、もうやり残すことはない!という気持ちでしたね(笑)「自分がやった仕事だ」と胸を張れます」。
拠点は庄内。だけど、フィールドは世界中
ヨロズエンジニアリングは、世界的な自動車メーカーの部品を生産している世界各地20カ所以上の親会社ヨロズ工場の「生産能力・効率を左右する生産設備」を作っている。
親会社ヨロズの工場は、アメリカ・ブラジル・中国・インド・メキシコ・タイ・インドネシアなど世界各国にある。
「自動車を生産する製造ライン(生産設備)」をここ庄内で組み上げたら、一度分解して世界の工場へと運ぶ。そして現地で再び同じように組み立てることで、世界中のどの工場でも同じクオリティを実現している。
この「現地での組立」を行うために、ヨロズエンジニアリングの社員は世界各国に行く。だから「君はどこの国に行きたい?」なんて話を面接で話したりするのだ。
現地でラインを組み立てるため、3ヶ月から半年間の海外出張が続く。昨年の4月に入った新入社員は入社10ヶ月でメキシコへ行き、その翌月には中国へ。そんな会社だから、面接では必ず『海外出張が多いけど大丈夫?』って尋ねているのだそうだ。
入社15年目となる澁谷和紀さんは、こう話す。
(酒田市にある産業技術短期大学庄内校を卒業後、新卒で入社。現在は機器製作部門のリーダー職)
「良くも悪くも海外への出張が多いです。短いと3ヶ月、長いと半年。家族の行事にかぶらないよう配慮しているが、どうしても重なってしまって、家庭を犠牲にしないといけない時も。。また、海外って聞くと観光地をイメージすることが多いと思いますが、工場があるのはどうしても郊外や田舎。最初はガッカリしている子もいますね。
でも、海外への出張には3~10名のグループで行って同じアパートで過ごすので、必然的にコミュニケーションが増え、仲良くなりますよ。」
長期の海外出張の受け取り方は人によって様々だろうが、グローバルに海外で活躍したい人にとっては絶好の環境があるようだ。
庄内にしっかりと根を下ろしながら、世界をフィールドに活躍できるのだ。
工場=単純作業にあらず。毎日違うことに取り組んでいる
澁谷さんがリーダーになって2年。現在では10名ほどの部下を擁し、プロジェクトの進捗管理を行っている。ベテラン社員から見た会社の社風をお聞きした。
「僕は、短大時代の企業実習がきっかけでヨロズエンジニアリングへ入社しました。単純作業が苦手なので製造ラインでの仕事は避けたかったため、毎日違うことに取り組んでいるので向いていると思ったんです。
会社の雰囲気としては、常に新しいものづくりをしている会社なので、負けず嫌いというか、先輩から厳しいことを言われても、いつか見返してやるぞというノリがあります」。
「社内にはカイゼン活動っていうのがあり、各個人が与えられたテーマに対し、自分が考えてカイゼンし、効果の確認まで行います。自分でアイデアを出して進めていく必要があるので、チャレンジして失敗することには温かいですね。
工場の無人化と自動化を進めており、復元して生産性をきちんと確認して帰って来なければならないため、難易度が急に上がってきています。上からの指示を待つのではなく、自分から積極的に色々考える人、体力勝負な仕事も頑張れる人と一緒に働きたいですね」。
花見や定期的な飲み会、組合の主催する家族参加の行事などもあるそうで、全体的に和気あいあいとしているそう。
こんな風に庄内に根付いて、「世界をフィールドに活躍する」のも、きっとアリだ。
取材後記
あの高級車、あの世界的な自動車メーカーに信頼され自動車部品を作っている親会社ヨロズ。そして、それらの部品を作る世界各地の工場の生産設備を作っているヨロズエンジニアリング。しかも、その生産効率は世界ナンバー1だという。
こういった、B to B(企業がお客様の取引の形態)の企業・仕事は、普段わたしたちの目につかないので、本当は「結構すごい」のに、実は知らなかった、ということも多い。
ものづくりが盛んな山形県は、そういった企業が多い。
ヨロズエンジニアリングは、その代表格だ。
※この記事は、東北経済産業局「平成28年度東北地域中小企業・小規模事業者人材確保支援等事業((2)事業)」の一環で制作しました。