転職、結婚、子育て…。人生のいろいろな変化の中で、皆さんはどこを「住む場所」、「働く場所」として選びたいですか?
人生の多くの時間を過ごす場所は、自分自身の価値観や人間形成に大きな影響を与えるものです。
自分は今後どこで、どんな風に生きていくべきなのか?
地元に帰るべきか、都会で生活するべきか迷っている…。
地方に関わりたいけど、移住までは考えられない…。
そんな悩める方たちへのヒントにして頂くべく、今回は、厚生労働省の地方就職促進の取り組みである「LO活プロジェクト」の仕掛け人・伊藤悠さん、ヤマガタ未来ラボ編集長・田中麻衣子の対談を、2記事に分けてご紹介。
東京に住みながら、地方と東京をつなぐ”仕掛け人”たちは、いったいどんな理由で地方と関わっているのでしょうか。
地方・東京どちらも知っている仕掛け人たちが考える「地方移住」とは?

 

 

 

目次(この記事を読むのにかかる時間:8分)

  • 地方と東京をつなぐ仕掛け人たちの”ジレンマ”。東京にいるからこそできる、地方への貢献
  • 地方に関わり続ける理由。土地とアイデンティティーは深くつながっている!?
  • 多くの人が「東京」に求めるものとは?伊藤さんが地方に強く惹かれながら東京で暮らす理由

 

LO活プロジェクト(地方人材還流促進事業)

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LO活とは、地方就職を考える若年層に向けて、地方就職に役立つ情報を提供する厚生労働省のプロジェクト。全国46の自治体(道府県)・211の大学との連携により、どこよりも詳しい地方就職に関する情報を掲載している。(WEBサイトはこちら

 

 

 

地方と東京をつなぐ仕掛け人たちのジレンマ。東京にいるからこそできる、地方への貢献

田中麻衣子 ヤマガタ未来ラボ編集長(以下、田中):伊藤さんは、LO活なども含めて地方と関わる機会が多いと思うんですが、地元に戻る気はないんですか?

 

伊藤悠さん(以下、伊藤):今のところ、地元は考えてないですね。私はよく人生計画を自分の「夢ノート」に書いているんですが、この前20代のころの夢ノートを見返したら、「30歳で結婚して32歳で妻の実家の地方に移り住む」と書いてありました笑。だから、日本の地方のどこかに行こうとはずっと思っていたようです。全く叶っていませんが(笑)。

 

ito伊藤悠さん:長野県出身。新卒で人材サービスの株式会社インテリジェンス(旧社名:現パーソルキャリア株式会社)に入社。その後、地方で事業づくりや復興支援など複数の経験を積み、約2年前にパーソルキャリア株式会社に再入社。現在は厚生労働省から委託されている地方人材還流促進事業(通称「LO活プロジェクト」)の仕掛け人として活躍。

 

 

田中:伊藤さんは富山県に通ったり、岩手県で働いたり、いろいろ地方とは関わってきましたよね。私も山形県へのUIターン支援の仕事をしてますが、最近「地方で働くって何なんだろう」って思うのですよね。働く場所や住む場所が「地方」か「都会」かみたいなことをどう捉えて行けばいいのか…とよく考えます。

 

私たちって、いつも地方と関わって、いろんな活動をさせてもらっていますが、ひるがえって自分のことを考えると、あれ?現在地方に住んでない私が何言ってるんだろうと思うことがあって。地方への移住支援の仕事をしているのに、地方に住んでいない自分。そこにジレンマを感じることがあるんですよね。

 

伊藤:そう!わかる!これだけあちこち行って、地域で活躍している人と話して、『で、お前は?』ってなりますよね。

 

田中:でも、いろいろ考えていくと、役割分担ってあるのかなと感じることがあります。

 

伊藤:それもわかる!! 僕、京都府の海の方の京丹後市っていうところに住んでる親友に「こっちに来ないか」と、一度誘われたことあったんですけど、僕行かなかったんですよ。

ただ、現在彼は、僕が東京に残ってやっていることに意義を感じてくれています。彼は地域で自然資源を使いながら自分の事業を立ち上げている人なんですが、「こっちの立場が分かる人が東京にいてくれることに意義がある」と、思ってくれています。

 

田中:こっちの立場が分かる人、というのは?

 

伊藤:「地域で駆けずり回りながら頑張っている人」のことを肌感覚で知っている、と言えばいいのかな。僕のようにあちこちの地域に行って、仕事もしてみて、それで今東京にいてくれる人って他にいないから役割分担だよねと思ってくれているみたいです。

 

「地方の視点に立てる人」ということだと思います。

 

特にこの地方創生ブームの何年間か、上から目線で「地方のことを助けなきゃ」とか、「何とかしなきゃ」と言っている人も一部いるように感じるんです。正直に言うと、「お前は何がわかっているんだ」と感じることもあります。

 

僕は10代を田舎で過ごして、あの何もないところで、鬱屈としてたころの気持ちとか、「長野いいところだよね」とか言われるけど、表面には現れないところは理解されないだろうなと。そういう意味で、地方を知らない人が地方の視点に立つのってなかなか難しいと思うんですよ。

 

僕は、人のミッションは、自分の中に抱える葛藤からスタートすると思っているので、自分のコンプレックスに向き合った結果「地域」をテーマにしようと決めました。地方に関わりたくて、地方で活躍している人を見ると、「助けてやろう」とかではなく「いいな。理想だな」と感じます。一方で、自分の心に正直に問うてみると、地方の暮らしを選びたいと今は思っていないわけですよ。

 

地方で頑張る人々のために貢献したい、でも生活拠点は東京に置いているというジレンマを抱えてるんです。今のままでいいとは思っていないし、将来的には地方で生きたいとも思っているし。

 

でもこれまでの人生がいろいろあって、僕は意図的に選んでここにいるので、そういう特異なポジションにいることが逆に重宝されることも、最近はわかってきました。

 

 

 

地方に関わり続ける理由。土地とアイデンティティーは深くつながっている!?

ライター:それでも地方に関わり続けたいと思うのはどうしてなんですか?

 

伊藤もともと、どうして地方に興味を持ったかというと、地元が嫌いだったんです笑。僕の地元は長野県の伊那市というところで環境はとても良い。住んでいたのは、住宅造営地で森を切り開いたところにぽかっとできたところでした。ミニ・ニュータウンですね。昭和50年くらいに、似たような住宅造営地が全国にたくさんできたんですよ。

 

田中:私は山形出身ですが、住んでいたのは似ている環境ですよ。同じように住宅造営地的な、団地でした。

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田中麻衣子:山形県出身。大学卒業後、地元企業で社会人を経験し、その後上京。東京でも会社員として働いたのち、山形県と県外をつなぐメディア「ヤマガタ未来ラボ」を立ち上げる。現在は、株式会社キャリアクリエイトに所属し、山形へのUIターン転職の支援なども手掛ける。

 

伊藤:そうなんですね。この住宅を購入した世代は、自分は農家の次男や三男として生まれ、サラリーマンになりたいと思っていた人が多くて、その人たちが夢のマイホームを買う。だからいわゆる田舎のコミュニティとは異なり、周囲の人との関わりを嫌う人も多いように感じました。

自分の親がそういう感じで、農家出身で市役所職員になり、結婚してマイホームを建てました。自分の親と同世代の人が集まっていて、そこだけ子供がたくさんいる。

 

そういう意味で、田舎なんだけど、人間関係や地域との繋がりは希薄でした。

僕は、そんな中途半端な田舎が大嫌いでした。

 

家と学校の間に店は1軒もないんです。当時はコンビニもあまりなかったですし。僕、今はこんなに社交的ですけど、友だちも少なかったので、朝から晩までの間に、親に「おはよう」と「いただきます」と「おやすみなさい」しか言わないことがあった(笑)。本当に居場所がなかったです。

 

東京だとそういう人の居場所って学校や家以外にたくさんあるじゃないですか。田舎でその状況だと本当にヤバくて、生きてくい感覚がだんだん薄れるような高校時代時代でした。ちょっと危ない感じでしたね笑

 

そうなっていた背景としては、学校の理由とか自分自身の理由とかあったんですけど、当時10代の僕は、「ここにいるからダメなんだ、出よう」って思ったんです。

 

田中:その感覚ありますよね。土地のせいじゃないけど、土地のせいにしてしまうというか。

 

伊藤:自分自身を断ち切りたくて、地元を出ましたね。

 

田中:なりたい自分になるために、地元を離れるという感覚はわかりますね。

 

伊藤:僕も仕事などを通して地方移住に関わっていますが、地方移住がこれだけ進まない原因は、アイデンティティーと密接に絡んでいると思っています。自分を否定したかったから、故郷を否定する、という感覚。

 

僕の中では過去の自分や思い出と土地がリンクしているから、地元に帰りたくない。今でも2日以上、実家に帰ると10代の頃の気持ちがよみがえってきて気分が落ち込んでくるんですよね(笑)。そういう心理的なものと絡んでいるので、単に条件を並べただけでは、人は地方移住を選択しないと思います。

 

田中:土地とアイデンティティーのリンクが切れて、新しい視点で見れる人は、考えが変わったりするんですかね。

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伊藤:なんであんなに地元が嫌だったんだろうと思って、大学時代の卒業論文は、地元の住宅団地のことを書きました。国際文化学部だったので、みんな卒論のテーマって、スペインがどうだとか書くんですけどね。あそこは何だったんだろう、と思ってアンケートをとったり、造成計画を立てた人の話を聞きに行ったりしました。

 

ショックだったのは、造成計画を立てた人に、何を考えて団地を設計したかと聞くと、「住宅の供給目標があってそれを実現できる土地を確保して開発した」、というだけだったんですね。そこで生まれ育った人がどういう暮らしをして、どういう価値観が形成されてって一切考えていない。というか考えるものだという概念がなかったんです。

 

 

ただそういうところに住む子供たちは、その中で価値観が形成されていく。ひとくくりに地方、田舎と言われますが、伊那市の規模で考えてもわからない。子供の価値観というのは、半径1キロくらいの中で出来上がるから、住んでいる空間ってちゃんと考えなきゃダメじゃんって思ったんです。その怒りが、ずっと地方にこだわって仕事をしている原点にあると思います。

 

田中:その原体験があるから、それじゃダメだよねと課題を感じているということですね。

 

伊藤:そうです。社会人になって1社目は、今所属している人材会社に入社しました。2社目は地域再生をやっている会社です。その会社では新しい地域を作ろうという取り組みを行っていて、例えば那須で牧場を作ろうとか。自分たちで理想のコミュニティを作ることに魅力を感じていました。その後、本物の田舎を知りたいと思ったので、富山県の小さな村に通うようになりました。古い田舎に行ってみたいなと思ったからです。

 

田中:古い田舎に憧れがあるのは昔からですか?

 

伊藤:20代の時に、そういえば田舎出身なのに本当の田舎を知らないなって思ったんです。僕が育った団地という囲われている空間の外のことは知らなくて、その土地の行事も知りませんでした。小学校区すら別になってたから関わりもありませんでした。自分が住宅団地を一歩出ると、田園地帯が広がっているんですが、その田畑を持っている人たちの家とは離れているので会ったこともありません。

 

ライター:東京の人が憧れる「田舎いいよね」と言っている田舎のイメージとは、確かにちょっと違いますね。

 

伊藤:1回、都会に出てきた後に本当の田舎って何だったんだろうと思ったので、富山のその村に行ってみて、そこで知りました。地域と関わる理由は、自分にとってはコンプレックスが大きな影響を与えています。

 

田中:確かに、地方と関わったり、自分の地元を思うときに、後ろめたさっていう感情もある気がします。ポジティブな感情だけではない。

 

伊藤:生まれ育った環境って本当に影響が大きくて、そこが何県かではなく、もっと身近な環境がどんなだったかだと思う。日当たりが良い近代的なプレハブ住宅で育ったので、それを否定したい気持ちはありつつ、便利な家に居心地の良さは感じるんです。それは残念だなと感じることもあります。旅行で訪れた古民家に嬉々として宿泊しても、そこに住むとなると、抵抗感を覚えます。

ito2(地方とつながるイベントで講演する伊藤悠さん)

 

多くの人が「東京」に求めるものとは?伊藤さんが地方に強く惹かれながら東京で暮らす理由

田中:東京にいるけど地方に関わっている理由は、原体験は今伺ったお話ですけど、住環境だけではないですよね。

 

伊藤:そうですね。僕は10代のころに刺激が本当になかったので、刺激に飢えているというのはあるでしょうね。新宿とかにいると落ち着くんですよ笑。ガチャガチャしているところにいたい。

 

田中:新宿で落ち着くっていうのは珍しいですね(笑)。

 

伊藤一生涯に得るべき刺激がまだ満たされていなくて、「もういいや」ってならないから東京にいるんだと思います。大学進学で東京に出てきてホッとしたんです。田舎に行くとホッとすると聞くけど、僕の地元は高原で空気もいいところなのに、僕は行くと気が滅入る。東京に戻ってきてむわっとした夏の暑いところに来るとホッとする。生理的感覚なんでしょうね。

 

田中:そう考えると、コップの水があふれる時が、人が動くきっかけになるのかな。まだ刺激を得たいということは、伊藤さんのコップがまだ満たされてないのかなと感じます。

 

私も28歳くらいまでは東京でも地方でも、どっちでもいいかなと思っていたけど、最近ごちゃごちゃしている東京が段々とツラくなってきて。それもコップの水加減かなって思うんです。感じ方が変わってきましたね。

 

都会に求めるものがあって一度東京に出てくる人は多いけど、その求めるものをコップとした場合に、コップの大きさや満ちているかどうかで、地元に戻るかどうかが決まってくるのかもしれない。

 

その「コップ問題」と「人生のプライオリティ問題」がある気がします。人生のプライオリティとは、どんな価値観を大切にしたいか、という優先順位のこと。例えば「高収入を重視したい」とかと「家族との時間を大切にしたい」とか、自分が生きる上で大切にしたい価値観って人ぞれぞれです。

人生のプライオリティも年代とかライフスタイルで変わってくるから、「コップ問題」も同じように年代やライフスタイルで変わってくるのかなと思いますね。

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伊藤:僕も結婚してたり子どもがいたら、今の考え方ではないと自分でも思いますす。例えば、子どもの教育は環境の良いところでしたいなとか。

 

でも僕はモラトリアムが人より延長されているので、その意味で、スタンスが20代なんでしょう(笑)。だからまだ刺激!刺激!を求めているようなところがありますね(笑)。

 

田中:なりたい自分になるために地方から都会に出てくるっていう話があったじゃないですか。モラトリアムって自分は何者なんだとか、まだそういう方向性や求めるものを迷っている段階だと思います。その時期が終わる=自分が何者であるかが見えてくると何か踏み出せるようになるのかもしれない。

 

「自分はこうじゃない」と思って田舎を出てくるけど、何がしたいか・何を大切にしたいかがわかるとか、やりたいことをやりきったり、何かを諦めたり、蹴りがついたり、新しくやりたいことが見つかったり、求めるものが都会になくなったりする時に、地方を視野に入れる人がいるのかもしれない。モラトリアムが終わったり、自分の中で解決してる人は東京に固執しなくなる場合もあるかもしれない。

 

 

ライター:ここまで、主に伊藤さんが東京に住みながら地方に関わり続ける理由を伺ってきましたが、伊藤さんや田中さんが地方に関わってきてよかった!と思うのはどんな時なのでしょうか。

 

伊藤:僕は、1度社会人になって東京で働いてから、地方で働く経験をしたのですが、本当によかったなと思うのは自分の価値がめちゃめちゃ高まったことです。地方での経験を経てその後の人生が大きく変わりました。

 

田中:私もそうです。地方で働くことを通して、東京で働いている時よりも、自分の働きが社会に役立っているという実感が得られる仕事ができています。東京だけでの仕事より、自分の影響度が高まっているいることを感じます。

 

******

 

中編・後編へ続く。

 

東京で山形との関わり方を考えてみるイベント「ヤマガタユアターンサミット」

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「今」の山形に出会えるイベントを、1月27日(土)に開催します。

ヤマガタユアターンサミットでは、「山形では今、どんなことが起きているのか」山形の今・チャレンジを知ることが出来ます。

ゲストは、山形のチャレンジャー達。山形にも希望があるんだなって、きっと希望が湧いてきます。

頭の片隅に「山形」「地方」とかのキーワードがよぎるなら、みんなでガヤガヤ話しませんか?

山形からやって来たゲストや参加者同士でも話すことで、「自分はどうだろう」と、自分の心を少し客観視できたりします。

今、必要に迫られて決断するような出来事はなくとも、「未来はわからないけど、何か動いてみる」てことを今しておくと、心の準備とか人脈とか人生の備えであるとか、とにかく人生にプラスになるはず。

「話す」のは、その第一歩。

小さな一歩が大きな一歩です。

ヤマガタユアターンサミット2018
  • 日時:2018年1月27日(土)13:00〜18:00
  • 会場:fabbit大手町(東京都千代田区大手町 2-6-1 朝日生命大手町ビル3F)
  • 主催:株式会社キャリアクリエイト
  • 共催:経済産業省 東北経済産業局
  • 後援:米沢商工会議所
  • 詳細、参加お申し込みはこちらまで。

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Yukari

ライター情報

Yukari

山形県白鷹町出身。東京の大学に進学。
卒業後、東京で経営コンサルティング・シンクタンクに入社し、金融機関などを中心とした企業経営者にコン...