東北の名峰として多くの人を惹きつけてやまない、出羽富士とも呼ばれる鳥海山。7月1日の山開きから秋までの期間に多くの登山客で賑わう庄内有数の名所ですが、その山頂を有するのが秋田県との県境に位置する湧水の町、遊佐町です。

遊佐町は人口1万5千人ほどの小さな町ですが、鳥海山とその裾野に広がる庄内平野、そして山からの雪解け水を運ぶ河川やそれらが流れ込む庄内浜など、その自然環境は全国的に見ても他にほとんど類を見ないほど豊かです。こうした環境が気に入って都会から移り住んだ方々が、お洒落なカフェやパン屋さんを開いていることでも知られています。

 

今回のやまがたで働く人

平野加代子さん(49)(酒田市出身)

「家カフェBio」オーナー

1378125_650146661697194_1957735604_n-225x300

遊佐町で、自然食(マクロビオティック)と自然エネルギーをテーマにしたカフェ「家カフェBio」をオープンさせた平野さんは、趣味の料理を深めるうちにマクロビオティックと出逢い、東京で勉強を重ねてマクロビオティックアドバイザーを取得。2010年頃から地元で料理教室などを開催していましたが、2013年10月ご主人の後押しがあって、遊佐町の藤井地区の一軒家を改装した料理教室兼カフェを開業されました。


 

酒田市で生まれ育ち、趣味の料理でマクロビオティックと出逢う

遊佐町の南に接する酒田市の、酒田駅にほど近い町中で生まれ育った平野さん。平野さんは高校までを同市で過ごし、短大進学と同時に上京して幼児教育を専攻します。短大を卒業すると地元酒田へ戻り、姉からの誘いで医療事務の仕事に就職しました。

「幼稚園の先生になりたいという夢があり、保育科に進みました。東京の短大を選んだのは特に地元を離れたかったからではなく、ここでいいかな、という軽い気持ちでしたね。東京に行ってからもそこで暮らす気にはなれなくて、実家が恋しかったですね。卒業するとすぐに地元酒田へ戻りました」。

明確な理由はありませんが、東京は遊びにいくところで、住むところではないなぁと感じたそうです。地元に帰ってからは夢だった保育園の先生にはならず、誘われるままに歯科医院に就職して医療事務の仕事に従事されました。

その一方で、幼い頃からとにかく料理をすることが好きだったという平野さん。結婚して旦那さんの実家へ入ってからもその情熱は衰えることはなく、子供が生まれてからは出来る限り手作りのものを食べさせてあげたいという想いから、さらに拍車がかかります。

「ご飯の支度をしている最中に食材を見つけて、あ、これも作れるな、あれも作ろう、と思いついてしまうんですね。それでどんどん品数が増えてしまい、ちょっと作りすぎなんじゃないの、と笑われたこともありました(笑)。台所で一日過ごしてもまったく苦にならないほど、料理は好きですね。

料理の本を眺めることも大好きで、たまたま写真や内容が気に入って購読していた本がマクロビオティックに関するものだったことや、ちょうどヨガなどの菜食文化が日本に紹介されはじめたことなどから、次第に食事と身体との関わりへ関心を強めていきました。

同じ頃、夫の栄養管理が気になってきて、週末だけの野菜ダイエットを始めてみようと思いつきました。私も付き合ってやってみたら、意外とつらくなくて。それどころか身体が楽になってきたように感じました。これなら続けられるかも、と思って本格的にマクロビを学び始めました」。

1267553_1421650318061277_124080533_o-300x199

マクロビオティックとは、穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食をベースとした食事を摂りながら、健康な暮らしを実現しようという日本発祥の考え方。その原則には身土不二と一物全体という2つの考えがあります。身土不二とは、人間も植物も生まれた環境と一体であり、暮らしている土地の旬のものを食べることで身体のバランスが取れるという考え方で、一物全体とは例えば米であれば玄米のまま、野菜であれば皮ごとなど、自然の恵みを残さずまるごと頂くことで、同じく身体のバランスがとれるというものです。日本国内以上に世界的から注目を集めている食事法として、ご存知の方も多いでしょう。


 

食べ物と身体の深い関わりを、伝えていきたい

マクロビを本格的に学び始めた平野さんが最初に痛感したのは、「私たちは、自分が食べたもので出来ています」という先生の言葉だったそうです。

「考えてみれば当たり前ですが、あぁ本当にそうだなぁと。私も忙しいときにはコンビニへ走って適当な食事をとっていたこともありましたが、そうした過去の食生活をすごく反省しました。

戦後の日本は栄養的にはとても豊かになったけれど、一方ですごく病気が増えましたよね。肥満や糖尿病などの生活習慣病やガンを始め、食べて病気になっていると言うか。その背景には、農薬や化学合成物の摂取や、これまで日本の食文化にはなかった牛乳やパンなどを、食べざるをえない事情があっただろうということも学びました。スペイン人の先生によると、日本ほど食文化ががらりと変わってしまった国も珍しいそうです。

東京の学校へ通ってマクロビを学んでいたのですが、そういうところに学びにくる東京の方は、すごく意識が高いんですね。自分が口にするものがどういう環境で育てられたものか、無農薬か無化学肥料か、加工品なら化合物は入っていないかなど、とても注意を払っています。

ところが田舎では、そこまで関心の高い方はまだまだ少ないことも事実です。結果として、地元で作られた有機栽培の野菜は都会へ流れてしまって、ここで暮らす私たちは、農薬がかかっているかもしれない野菜を気にすることなく食べています。

これはすごくもったいないことだなぁ、と思いました。ここで暮らす方がちゃんと有機栽培の作物の価値を知って農家さんを支えることができれば、有機で作物をつくる農家さんも増えるでしょうし、ここで育てられたものをここの人たちが食べることができますよね。そのために、自分が学んだことを役立てることができたらと思い、3年前くらいからマクロビの料理教室をはじめました」。

1377216_650147078363819_818700183_n-225x300

Facebookなどを中心に呼びかけて開催している平野さんの料理教室には、酒田市だけでなく近隣市町村からも参加者が訪れて、食や健康について学びながら楽しく受講しています。


 

自然食と自然エネルギーをテーマにした「家カフェBio」をオープン

今年10月に、遊佐町の研修施設だった建物を改装してマクロビの料理教室兼カフェを始めることになった平野さん。そのきっかけは、景色のいいところで料理教室をやってみたらいいんじゃないか、とご主人が提案してくれたことだったそうです。

以前からその景色の美しさがとても気に入って、度々足を運んでいた遊佐町の藤井地区で絶好の物件が見つかると、一気に話が進み、ご主人が興味を持っていた太陽光パネルや薪ストーブなどの自然エネルギーなどもコンセプトに取り入れた店舗が完成します。

「あれよあれよという間に話が進んでしまって、自分自身も驚いています。お店を始めることは考えていたわけではないのですが、周囲に押されるようにしてやってみることになりました。ここではマクロビを基本とした自然食をテーマにしてはいますが、厳格なマクロビカフェにするつもりはあまりないんです。出来る限りこの土地で育てられた有機栽培のものを使いたいと思っていますが、手に入らないものもありますし、ゆる~い雰囲気でやっていけたらと思っています。

お店はすべて一人で切り盛りしていきますので、お客様をお待たせしてしまうこともあると思いますが、この景色と時間を、ゆったりと楽しみに来て欲しいです。そういう意味では、急いでいらっしゃる方にはご迷惑をおかけしてしまう可能性もありますので、他のお店をお勧めします(笑)」。

わがままなお店ですみません、と言って頭を下げる平野さん。でも、お店のコンセプトとしてはとても素敵だと思います。店主自身がリラックスしながらおもてなしをしてくださると、嬉しいと感じるお客さんもいます。そんなお客さんが集う場所に、なっていくのではないでしょうか。

ただ食べるだけの場所ではなく、情報を発信していく場所へ

1097939_1413472005545775_1458172246_n-300x199 お店はまだ、オープンしたばかり。準備や対応にまだまだ忙しい毎日を過ごしていらっしゃる平野さんですが、早く自分のペースを掴み、ここでの時間を楽しんでいきたいと語ります。

「様々な不安もありますが、ここに立たせてくれた夫に感謝しています。ここにいると、生きている、ではなくて、生かされているなぁと感じます。目の前に広がる美しい景色は何ひとつ昨日と同じものがなくて、田んぼや山の色が、季節とともに日々移ろいでいきます。私は自然の中にいて、生かされている。そんな実感があります。

そしてよく、ここからほど近い八幡の山の中にあった、母の実家で過ごした幼い頃の時間がふっと蘇ることがあります。夜になると空に星がうるさいくらい瞬いていたことや、家の傍を流れる川が、手を入れていられないほど冷たかったこと。そしてそれを口に含んでみると、すごく甘かったこと。車のドアを開けた瞬間に包まれる匂いが、とても好きだったことなど。

そうした時間を大切にしながら、やってきけたらいいなぁと思っています。そしてここを訪れる方々には手仕事やワークショップの会場としても活用していただくなど、ただ食べるだけの場所ではなくて、情報を発信していく場所に育てていけたらいいなぁと思っています」。

お話を伺っている間も、お店の中を案内してくだっている間も、平野さんの柔らかで飾らない雰囲気とこの空間がとても合っていることに心を打たれてしまいました。この空間にいらっしゃることが、なんてぴったりな方なんだろう。よく晴れた秋晴れの日に、また平野さんに会いに行きたいなぁと思いながらお店を後にしました。

Profile

平野 加代子さん

出身 山形県酒田市
生年月日 10月14日
URL Lhttps://www.facebook.com/iecafebio

□お店情報
家カフェBio
山形県飽海郡遊佐町白井新田字藤井北47
当面は金土日のみ営業

記事をシェア

陽子佐野

ライター情報

佐野 陽子

1983年生まれ神奈川県出身。 早稲田大学商学部を卒業後、大手損害保険会社に勤務し丸の内OLを経験。 山形の在来作物とそこに関わる人々を描いた一...