山形市の江俣と山形駅前で、スペシャルティコーヒーを提供しているTsuki Cafe。
山形市にお住まいの方や山形市に立ち寄られたことのある方にとって見覚えがある方も多いのではないでしょうか?
(Tsuki cafe山形駅前店)
私も帰省をし、山交バスの中からそのお店を初めて見たときは「山形らしからぬお店が出来た?!」と釘付けになったのを覚えています。
「山形と関わる自分のこれから」を模索している研究員・オオイズミが、Tsuki Cafe、Koshindo2区&TsukiCoffeeを経営している月岡さんにお店をオープンするまでの経緯を伺いました。
前回の記事:日本の宿・古窯がグランピング施設「yamagata glam」をOPEN!その狙いは?Uターン希望者が聞いてみた 山形仕事図鑑#106
今回のやまがたで働く人:月岡涼二さん
サラリーマン勤めをしながら1号店となる江俣店を2013年にOPEN。続いて自宅の1階で焼き菓子屋もスタート後、2017年に山形駅前店をOPENし、当時勤務していた会社を退職。お店の運営は今年で9年目。
目次ーーー
✔カフェを開業したきっかけ
✔作りたいカフェを築き上げていくまで
✔カフェ×地域のコミュニケーション
✔事業を山形で始めたい方へ
✔カフェを開業したきっかけ
ーもともと、カフェを開業される夢をお持ちだったのでしょうか?
そうですね。10年前というと、僕が県外まで通っていた様なカフェが無かったんです。
今は当たり前になっていますが、まだ喫茶店の方がシェアが大きい時代で、カフェとなると県外に行かないとありませんでした。栃木のSHOZOカフェさんや、鎌倉のVivement Dimanche(ヴィヴモン・ディモンシュ)さんなどに行って、「山形にもこんなところがあったらいいな」と思ったのがスタートでした。
カフェを「やりたくてやりたくて」というよりは、今の社是にもなっているのですが、「山形にあったらいいなと思うものを作る」というのが基本的な考え方なので、カフェに限らずでも良いのですが、得意なものが今はカフェ、コーヒーなのでこれらを中心に事業を動かしているというところですね。
ーコーヒーが好きだった、というのがきっかけとなったんですね。
そうですね。カフェに対して素敵だな、とかお洒落だなとか。古いものがこんなに素敵に見えるんだ。っていう、そういうところから始まっています。さらに、カフェってどういう意味なのかを調べてみたら、元々はカフアというアラビア語で飲み物っていう意味なので、だとコーヒーが美味しくないといけないだろうと思い、その後コーヒーを勉強しに行くことにしました。
(Tsuki cafe江俣店)
ー月岡さんにとって、「カフェ」と「喫茶店」は、意味合いが大きく違うのですね?
そうですね。まず用途が違いますね。元々喫茶店は、待ち合わせやたばこを吸う場所でした。ただ、今は時世的にたばこを吸う方も少なくなって来たり、待ち合わせにも携帯電話があります。なので喫茶店が少なくなってしまうところですが、喫茶店のような場所は皆さん好きなんですよね。なので、従来の用途が無くなってきた今、どういうカタチが場として良いのか。喫茶店の用途とは違うけれども、”喫茶店のような場所とは何なのか”を探して行くのが今のカフェの考え方になっているのではないかなと思っています。
ー今は作っていく途中なんですね?
そうですね。むしろ今は色々なものが出来すぎていて、カフェというと定食屋さん、お食事処のような面もあります。ただ、語源が飲み物なのでちゃんとそこに戻っていきたいという考え方ですので、うちではコーヒーに特化していこうと思っています。
ーHPに”大好きなあのカフェ達”と書いてありましたが、月岡さんの好きなカフェはどこですか?
1つ上げられるのはSHOZOカフェさんですね。オーナーの菊地さんはリノベーションという言葉が無いときから、古いアパートを一棟買いして直していき、素敵なカフェにして、自分のお店を観光地にしたという方です。さらには”歩ける通り”作りを完璧にされた方で、カフェ界では神様のような存在です。
研究員の視点
”菊地さん”と”SHOZOカフェ”さん、気になりましたね!なので、早速調べてみました。
菊地省三氏が1988年に栃木県黒磯市(現・那須塩原市)に作ったカフェが「1988 CAFÉ SHOZO」。菊地氏は、「『いい街』とは、旅先に選ばれる街であり、そこにはいいカフェがある。たくさんの人を歩かせれば、そこは『通り』になる」と考え、カフェと同じ通りに空き物件ができると家主と交渉して借り受けリノベーションをされていたそうです。その結果、菊地さんのカフェの近くにはインテリアショップや雑貨店などが並ぶようになり、今やカフェ好きに愛される場所となっているとのことでした。
(駅前店で初デートしたお二人が前撮りに。)
✔作りたいカフェを築き上げていくまで
ーHPや店内インテリア、ギフト包装などを見ますと、すごく洗練されている印象ですが、デザイナーさんやコンサルは入っているのでしょうか?
基本的には自分たちで考えています。いろんなものを見ながら、山形にこういうお店が無いな、こういう雰囲気のお店があったらいいなというのを話し合って、どうしたら形になるだろうか?ということをやっていきました。
ー軸となっているコーヒーの淹れ方はどうやって学ばれたのでしょうか?
コーヒーにはジャンルがあって、いわゆる喫茶店寄りのコーヒー(深煎り)と、私たちが扱っているようなスペシャルティコーヒー(浅煎り)の2つにおおよそ分かれています。コーヒー用品を扱うメーカーの元で私は深煎りコーヒーを学びました。会社員時代に、金曜の夜に深夜バスで東京まで行って学んでいました。日曜日の夜に帰ってくるやり方でしたね。
今主流なフルーティーな浅煎りのコーヒーは、まだ世界のみんなが研究中です。大会に出ながらみんなと情報共有をしながら、みんなで美味しくしていっているところです。
研究員の視点
Tsuki cafeさんは、内装からギフト包装がどれもお洒落でつい写真を撮ってしまいたくなるようなものばかりでしたので、全て月岡さんたちご自身で考えて作られたものであるとお聞きして驚きました。お客様へ届けたいメッセージが根底にあり、それがそれぞれのデザインにも反映されていると思うので、月岡さんたちが思い描くカフェ像はすごく明確なものがあるのだなと感じました。深夜バスで通われていたというエピソードも、刺激になります…!
ー奥様と始められたカフェですが、現在は3店舗を運営されていますよね。事業を広げていく際の仲間づくりってどうやられてきましたか?
サラリーマンだったときは、奥さんにお店をやってもらっていた形でしたが、今は法人化をしているので募集をかけていき、基本的には私たちと方向制が同じ人を見つけていっています。ただ、やはりそういった方はいずれ自分のお店を持ちたいという方も多いので、最後までずっと一緒にいられるとは思っていない部分もあります。求人にも、独立を支援するという考え方で出していますし、山形にたくさんカフェができたらいいなと思って始めているので、いずれはカフェをやらずにカフェ巡りができるのではないかという期待も持っています(笑)。
実際に、駅前にも最近はお店ができていますが、それまでずっと山形では、”山形には何も無くて駅前で何かをするのは無理”という固定観念がありました。そこにお店をドーンと構えて実践してみて、「(駅前でも)できるよ!」ということをある程度は人柱の役割のように提示できたのかなとも思います。できるとわかったら、やる人って増えてくると思うんですよね。
ーなるほど。人柱のように「できるんだよ」と挑戦してみせたのは、それも目的だったのでしょうか?それとも結果的に、そうなったのでしょうか?
駅前というのは県外の方も来る場所で顔になる所ですし、基本は「山形にカフェがあったらいいな」というのが起点だったのですが、できるかどうかというのはみんな懐疑的だったので、山形の駅前に作りたいという思いと、本当に無理なのかトライをしてみる、という思いは両方ありましたね。
なるほど…!長くあの場所は空いていて、確かに寂しかったですもんね。明かりを灯して下さりありがとうございます…!
ーTsuki cafe山形駅前店をオープンする前は、会社員をしながら事業をしていたというのは月岡さんにとってリスクヘッジでもあったのでしょうか?
生活で言えば、リスクヘッジでしたね。その分、思い切ってできました。
ただ、駅前に店を出すと決めた時点では会社を辞めることが決まっていたので、裸一貫のような状態でした。
でも、駅前でやるなら会社員との両立ではなく、100%力を注がないと無理だろうなというのは思っていましたね。
研究員の視点
会社員としての安定した収入が得られる環境を離れ、自分で事業を起すことは容易ではないことかと思います。本業に加え、副業として関心のあることを仕事として始めていくケースも近年は珍しくない様ですね。月岡さんのように、できることはできるうちに始め、向かいたい方向にいつでも舵を切れるように思いを持ち続けること・情報収集することはどの事業においても共通して大事であると感じました。
カフェ×地域のコミュニケーション
ーお店のHPで、山形のことも発信しているのは何故でしょうか?
山形を思い出す時に、一緒に思い出して欲しい。その為に、地域とリンクした楽しいことしていきたいなと思ったからです。実際に、県外の人にも多く足を運んで頂けています。
(Tsuki cafe WEBサイト。山形のことを発信している)
ーお客さんとは、仲良くなったりしますか?
はい。お名前を知ってる方もいれば、仕事内容も知っているというお客さんもいます。そういう意味では、街をより近くに感じることができますし、地元の人と触れ合うことができるので楽しいです。
ー街の人と距離が近づけるような感覚もカフェをされてると得られるんですね。
そうですね、ただやっぱりカフェは地元の人と県外の人どっちも来てもらわないと運営は難しいですね。地元の人に喜んでもらえる環境を維持しつつ、週末で県外の人にたくさん来てもらい、続けていく感じです。
ーなるほど。地元の方向けに出勤前の時間帯にモーニングをされているのは、そのためですか?
そうですね。ただ、実際にはモーニングを利用したい方向けにやっているというよりかは、単純に朝から駅前のカフェが開いている方がいいんじゃないかということでやっています。朝から営業しているカフェはチェーン店とかではありますが、地元のところでそういうのやってるのって結構大切かなという気がします。
ーそれは、「地元の人を元気づけたい」という思いもあるということでしょうか?
それに関しては、山形の人は”山形に諦めてる問題”があったんですよね(笑)。「何もないから~」とみんなが言っていた。なので、そうではないんだ、という風にしたいと最初は言っていました。けれど、前よりも「何にもないがら」って言わなくなってきている気がします。新しくオープンするお店も増えてきましたしね。
ー「何もないから」と言わなくなってきたのは何故だと思いますか?
情報が入りやすくなったからでしょうかね。個人がメディアになる時代ですし、「何も無い」と言えなくなってるのかなと思います。以前はお店のジャンルが固定されていたこともあるのですが、今は新しいものであっても、品質が良いものはちゃんと評価される健全な状態に山形はなっていると感じます。
確かに私自身、SNSで新しいお店を知る機会も増えましたし、町のイベント情報なども得られるようになりました。店長さんの人となりや町の活気が感じられ、「なんだか面白そう」と思える環境が生み出されている印象を受けています。
ー東京だと1つお店ができると、周りはライバル、競合というバチバチな状態になりやすいですが、山形のエリアはどうでしょうか?(ライバル関係?仲間関係?)
私たちが扱っているスペシャルティコーヒーは、”こういうコーヒーが美味しい”と定義づけられてる正解があるものです。山形にはまだ多くないのですが、同じようにスペシャルティコーヒーを提供しているところは仲間として一緒にいろんなことについて取り組みたいと思っています。これから、お客さまが正しいものに触れて頂けるような環境になるよう、発信を今後も頑張っていこうと思っているところですね。
ー素敵ですね。実際に、近くのオーナーさん同士など、街の中で横のつながりはありますか?
そうですね。自分で増やそうと思ったわけではなかったですけれども、いつの間にか知ってる方が増えてきて、楽しいです。七日町にあるBota coffeeの佐藤さんとは豆を交換してシネマ通りから駅前まで歩くきっかけになるんじゃないかということもやったりしています。
ただ、最終的には個の集まりが街だと私は思っています。「みんなでやったらすごかった」というよりは、「強い個が集まって最終的に盛り上がったらいいな」と思っています。あくまでも”1つ1つのお店が強い”という町になると、勝手に集客がかかって、イベントをやっている暇がないくらいが良いなと思います。
ーふむ。1つ1つに個性があることが大事なんですね?
個性もあって、集客もできて、お店がちゃんとずっと開いている状態であるとかですね。やはり、お店をずっと開けておくことってすごく大変なんですよね。大変ですが、閉まっていると町が暗くなってしまう。だからいつも開いていて、美味しくて。そんなお店がたくさんできてくると、街って強くなるんだと思います。
研究員の視点
”強い街”とは。新しい気づきを頂きました。イベントならではの特別な体験をお客さんに提供することは貴重なことですが、私たちが活動をしている時間帯に、日常的に幅広いお客さんを幅広いお店がそれぞれのやり方でおもてなしができる状態にあることは、地元の人にとっても観光客の人にとっても、安心と信頼をおけることに繋がるんだなと思いました。
山形で事業を始めたい方へ
ー経営については、どうやって学んでいますか?
本で学んだりしますね。結局は自己完結です。
私のような業態ですと、比較的小規模なので、やるべきことは決まっています。なので、後は情報を集めたらできます。個人店に必要な経営的な方法は更に決まっています。それさえ一生懸命にすれば大丈夫です。
それに、山形の家賃は東京よりも安いのでリスクはそんなに高くありません。東京だと事業を始めるだけで保障金などで数千万円かかる等聞きますが、保障金は山形では聞いたことないので非常に始めやすいと思います。
ーそうなんですね。それでは最後に、これから事業を始めたいと思っている人に向けてメッセージをお願いします!
日本のセーフティネットには安心感がありますし、更に山形は何かやるには始めやすいです。
そして続けていくことが大事ですね。初期投資が低いこともかなりメリットだと思います。まだ無いものもたくさんあります。
そのマーケットの先頭を走れる可能性があるのが山形です。
ただ、ちょっと増えてきてるので急いだほうがいいですよ。
ー大変刺激になるお考えを伺えました。月岡さん、今回はありがとうございました!
研究員オオイズミ・アトガキ
実は私もSHOZOカフェについこの間(2021年2月)に訪れていました。
SHOZOカフェを訪れたきっかけは、同じ通りにあるお蕎麦屋さんでした。もう一度食べたい!と思って行ったお蕎麦屋さんの帰り道に、行列ができているお店を車の中から見つけて興味を持ち、翌日に訪れたのがSHOZOカフェでした。
活気に驚き。店員さんも生き生きしていたのが印象的でした。
またこのカフェに来たいとも思いましたし、通りの先を覗いてみると、近くには洋食屋があったりイタリアンレストランがあったり、雑貨屋があったり。
始めは私のように1軒のお店に行くのが目的でも、周りに別のお店があることによって「この通りを歩いてみよう」、「また次も来てみよう」と思うようになることは皆さんもあるのではないでしょうか。
まさにこんな体験を地元の人や県外の人に提供するきっかけ作りをTsuki cafeさんはされていると感じました。
そういった体験を1つ1つのお店がお客さんに提供することによって、そのエリア、その町にお客さんが立ち寄る理由になり、結果的に町が盛り上がっていくんですね。
「なるほど、”まちづくり”、”地方活性化”、の手段はいろんな形がありそうだ」と思った今回のインタビューでした。
(話を聞いた人)オオイズミ
山形県山形市出身。山形西高を卒業後、上京。某ECモールを運営するインターネット会社に勤務しており現在は都内在住。無事結婚もしたところで、これからの生き方・働き方を絶賛模索中。ゆくゆくは、と山形へのUターンを検討しています。山形”関係人口”として山形の企業、事業者様に知りたいこと・聞きたいことを伺っていきます。