突然ですが、皆さん、山形の市町村名すべて言えますか?

山形出身の人でも、なかなか全部は出てこなかったりしますよね。意外と、自分が住んでいる(住んでいた)エリア以外のことって知らないものです(置賜の人は最上のことがよくわからなかったり、その逆もしかり)。まして、全市町村を訪れたことがある人は少ないのではないでしょうか?

現在、山形県内には29市町村に109名の地域おこし協力隊がいます(令和元年度/総務省HPより)。そこで、地域おこし協力隊の方々にインタビューをし、活動内容や地域の魅力について語っていただこうというこの企画。

彼らの視点を通して各地域の魅力を再発見したり、興味を持って訪れるきっかけになればと思います。

今回は、鮭川村地域おこし協力隊の松並三男さんにお話を伺いました。

松並三男(まつなみ・みつお)さん
◆プロフィール
神奈川県大磯町出身。36歳。幼少期より川や海で遊ぶことが大好きで、海をきれいにしたいという思いから大学では水産学を専攻し海のゴミ問題に取り組む。大学卒業後は全国を旅しながらさまざまな仕事に従事し、25才から約10年間某アウトドアウェアメーカーに勤務。結婚し子どもが生まれたのをきっかけに2018年10月、家族で鮭川村へ移住。現在は妻と2歳半の娘との3人暮らし。時間を見つけては釣りやアウトドアを楽しんでいる。

鮭が遡上する全国トップクラスのきれいな川に惹かれて

――松並さんは神奈川出身とのことですが、なぜ鮭川村へ移住しようと思ったんですか?

「神奈川は、海も近くて仕事も楽しかったのですが、人も多いし、今後の人生を考えたときに、1時間かけて通勤する生活をずっと続けるのもなあ…と思っていました。子どもが生まれたことと、ちょうど前職が10年目の節目ということもきっかけになりました。

妻の実家が山形ということもあって、山形での仕事を探していたときに、たまたま鮭川村を見つけて、『鮭』という名前のつく地名と協力隊の『鮭漁』というワードに興味を持ちました。」

――もともと鮭に興味があったのですか?

「川や海の近くで育ったので、小さい頃から釣りが好きで…。学生時代は海洋環境学の研究をしていたのですが、鮭というのは、「生態系にとって良い川かどうか」を見極める指標として、面白い魚なんです。」

▲鮭川の鮭(写真提供:松並三男さん)

――指標として面白いというのは、どういうことですか?

「鮭は、移動距離がとても長く、川で生まれてアラスカまで行き、4年間で大きくなってまた生まれた川へ帰ってきます。移動しながら成長するそのプロセスには当然、食物連鎖があって、有機物を運ぶ役割も担っているので、鮭がいないと成立しない生態系があるんです。

鮭がいる川というのは、それだけ環境が良いということですし、鮭が住めれば他の魚も住める。僕の遊び(釣り)場がたくさんあるということでもありますね(笑)。」

――鮭への関心と、地域おこし協力隊の仕事がうまくマッチしたのですね。

「自分の中に、魚が住みやすい環境を次の世代まで残してあげたいという想いがあって、そういう仕事に携わりたいと思っていたのですが、都会では根本的な解決につながるような仕事はなかなかできないんですよね。

実際に問題が起こっているのは現場なので、上っ面で話すのではなく、自分が現場に立つことで、言葉に力を持たせたいと思ったんです。そんなときに出会ったのが、鮭川村でした。鮭というテーマときれいな川があって、これは面白そうだなと思いました。」

四季が美しく、食べ物もおいしい。一年中楽しめる自然環境

松並さんは無類の釣り好きであると同時に、学生時代から継続して海や川の環境保全にも熱心に取り組んでおり、自身のfacebookなどでもたびたび川や魚にまつわる問題提起を行っています。そんな松並さんは、鮭川を「中流域の川としては、水質も地形も県内随一の良い川」と語ります。

「鮭が遡上する川は、最上川など他にもありますが、鮭川の持つ川の条件はとても面白いんですよ。中流域から源流まで自然の地形がまだ残っていて、傾斜が小さく、こんなに穏やかに村の中をぐるりと回って流れている川というのは山形県内でも鮭川の他にないと思います。

反面、雨が降ると氾濫しやすい川でもあるのですが、それによって土が肥沃になって食べ物が美味しくなるという恩恵もあります。魚の付き場も多く、まわりに水源が豊富にあるので、魚にとっての条件がすごくいいんです。」

▲村の中央を悠々と流れる鮭川
鮭川は、「水質が最も良好な河川」(国土交通省発表)の一つに選ばれている。(2020年度、東北の河川の中で選ばれたのは、福島県の荒川と山形県の鮭川のみ)

――実際、鮭川村に住んでみて、いかがですか?

「冬が厳しい分、春や夏の良さをすごく感じますね。とくに春先、木々の新緑がぶわっと一気に芽吹くエネルギーには圧倒されます。夏の緑の濃さ、秋の紅葉、一面真っ白になる冬…。冬は厳しいですが、スノーボードをしたり春に向けてのルアーづくりをしたりしてるので、結局、一年中楽しいんです(笑)

月山と鳥海山を眺められるロケーションも素晴らしいですし、神奈川ではこんな景色の変化を見たことはなかったので、四季折々の風景の美しさに感動します

あと、農作物のおすそわけの量の多さにも驚きました(笑)。野菜はもらえるし、魚は自分で釣るので、買うのは肉ぐらいで生活費もそんなにかかりません。職場も遊び場も家の近くにあって、ストレスなくのびのびと過ごせています。都会の渋滞なんてもう考えられないですよ(笑)。」

▲冬の鮭川(写真提供:松並三男さん)

――子育て環境はどうですか?

「子育てもしやすいですね。山、川、雪の中でたくさん遊んでいます。子どもを自然の中に解き放てば、土をいじったり、虫を捕まえたり、花を摘んだりといった具合に延々と遊んでいるので、家で遊ばせるよりも楽ですよ(笑)。野遊びをする子どものクリエイティブさは、大人も見習ったほうがいいなぁといつも感心します。たくさんの生き物に触れて遊びながら、自然に対する思いやりも学んでくれたらと願っています。」

▲自然の中でのびのびと子育て(写真提供:松並三男さん)

――都会と比べてお店が少ないと思いますが、不便や退屈さを感じたりはしませんか?

「釣りや山菜採りなどの外遊びが好きなので、毎日ワクワクしてます。歩いていける範囲にコンビニがないというのはありますけど、行く必要性もあまりないので不便さは感じませんね。スーパーはあるし、他に欲しいものはネットで買えるし…。生活的には、神奈川とあんまり変わらないかな。総合的に見て、僕は鮭川村は便利だなと思っています。」

鮭のレシピ開発と自然産卵に取り組む

――今は地域おこし協力隊として、どんなお仕事をしているのですか?

「鮭川村には現在、3人の地域おこし協力隊がいて、それぞれ異なるテーマで地域活性化に取り組んでいるのですが、僕は【鮭の利活用】というテーマで活動しています。

2年目となる今年度は、初年度の経験を踏まえ、①『遡上した鮭のレシピ開発』、②『発眼卵放流』の2つに挑戦します。

▲地域おこし協力隊として所属する鮭川村むらづくり推進課。良い仲間に恵まれてます。(写真提供:松並三男さん)

――鮭川に遡上してきた鮭は、食用として流通していないのですか?

「90年代から脂がのった海外の養殖鮭が通年で出回るようになり、遡上して脂が抜けた鮭は市場から淘汰されました。脂がないからこそ保存性が高く、昔は冬のタンパク源として無駄なく食べられてきたのですが、現在はあまり活用されていません。

でも、昨年、現場に立ちながら関係者への聞き込みを行ったり論文を読み解いたことで、この鮭の旨味を引き出す方法が徐々に見えてきました。今年はそれを試験的に実施し、まずは地元で食べてもらい、検証していく予定です。」

▲「ぶなっけ」といわれる脂が抜けた川の鮭(写真提供:松並三男さん)

――発眼卵放流というのは、どんなことをするのですか?

「人工孵化による鮭の漁獲量は2007年以降減少し続けていて、そんな中、自然産卵の野生魚の強さが見直されはじめています。発眼卵放流というのは、受精した卵を川の適正地に埋め戻していく方法なのですが、鮭川のような環境の良い川では有効な方法ではないかと考えているんです。

鮭が自然産卵しやすい川の地形を残していくことは、多くの淡水魚にとっても住みやすい環境になるので、実はそれが一番の狙いでもあります。」

先人たちの知恵に学ぶ、モノがなくても豊かな暮らし

――鮭川村の地域の魅力はどんなところにありますか?

「たぶん、都会にいる自然派の人たちのほうが環境に対する意識も高いし、知識もあると思いますが、鮭川村の人たちは、それを当たり前にやってのけているんですよ。「エコ」とか意識しなくても普通に物を大事にして、川や自然との付き合い方もよく知っている。そこがカッコいいですよね。

鮭漁で知り合った方は80代の方が多いのですが、春は田植えや山菜採り、秋は鮭漁、稲刈り、冬の間は藁細工などの手仕事をするというサイクルで、季節に合わせて工夫しながら自給自足を楽しんでいるところがいいなあと思います。」

▲川の師匠。御年83歳。男として最高にかっこいい人です。(写真提供:松並三男さん)

――80代の方が鮭漁をやっているとは、驚きです。

「僕の川の師匠は83歳の今も現役で、むちゃくちゃ元気ですよ(笑)。鮭漁をやっている人たちは皆さん元気だし、楽しんでやっているので、本当に素晴らしいなと思います。

そういう人たちを見ていると、モノがなくてもすごく豊かだなと思いますし、暮らしの中のちょっとしたことでも学びが多いんです。」

▲鮭川の鮭漁に携わる「ウライの会」のみなさん(写真提供:松並三男さん)

――物質的な豊かさではない、知恵と工夫から生まれる暮らしの豊かさがあるんですね。

「温暖化、海ごみ問題など環境に関する課題が山積みの今の社会にとって、自然や四季の流れを活かしたローカルな文化から学べることはたくさんあると思うんです。

モノがない時代の考え方って面白いし、一周回って最先端かもしれないですよね(笑)。そこに立ち返って、これからの時代を生き抜いていければいいなと思います。」

多様な人を受け入れ、一緒に鮭川の自然を楽しみたい

――地域の文化を次の世代に残していくためには、若い人たちに興味をもってもらうことが大事ですよね。

「そうですね。鮭漁は貴重な文化なので、鮭漁をやる仲間がもっと増えてくれたらいいなと思っています。僕は “鮭”に興味を持ちましたが、視点を変えれば農業や林業、狩猟(またぎ)など、鮭川村の魅力は他にもあります

最近は、アウトドアに興味がある若者も増えていて、「釣りを教えてほしい」とか「キャンプに行きたい」というお誘いも多いので、できる範囲で教えたり遊びに行ったりして、なるべくいろいろな人を受け入れるようにしています。お互いに無理なく楽しみながら一緒に自然の中で遊ぶことで、結果的に鮭川に来る人が増えたらいいですね。」

▲地元の与蔵山を楽しむトレイルランニングチーム「YOZO Project」(写真提供:松並三男さん)
最近は、村の20~40代くらいの若者たちでも釣り、キャンプ、トレイルランニングなどを楽しんでいる人も多い。

松並さん、ありがとうございました。
秋は鮭漁の季節です! 皆さんもぜひ一度、鮭川村へ遊びに行ってみてくださいね!
鮭川村での暮らしや協力隊の活動についてはSNSで発信しています!

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【魚と釣り日記】
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【鮭川村のおすすめスポット】

・羽根沢温泉郷
アルカリ性の泉質で、角質が落ちる美肌の湯といわれる化粧水のようなお湯です!
http://www.vill.sakegawa.yamagata.jp/kanko/stay/184

・鮭川村エコパーク
オートキャンプ場やコテージ、ウッドデッキサイトがあり、穴場のキャンプ場として人気です!
https://www.yamagata-ecopark.com/

・小杉の大杉
「トトロの木」として有名なスポット
http://www.vill.sakegawa.yamagata.jp/kanko/tourist-spot/172

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