山形県の形・・・といえば、「人の横顔のようなシルエット」を思い浮かべる人は少なくないはず。

山形県民が自分の住んでいる場所を人に教える際、顔の部位で表現する会話も良く耳にします。(山形市の位置を“えくぼ”と表すなど)

そんな自県の形に愛着を持つ山形人の心をくすぐるお土産、「山形コースターを知っていますか?

山形コースター写真②

生みの親は、ニットクリエイターの栂瀬真さん。

プロを志すほどのスポーツ少年が、手仕事を生業とし、山形で活動を始めるまでの道のりについて伺いました。

 

 

今回の山形で働く人

栂瀬 真(とがせ まこと)さん

栂瀬さん写真①(アイキャッチ)

1975年山形市生まれ。日大山形高校、中央学院大学を卒業後、文化服装学院でニットデザインを専攻。2001年イタリア・フィレンツェに渡り、自身のブランド「adagio」を立ち上げる。2004年山形にて活動を始め、山形市蔵王半郷にあるアトリエ兼ショップ「栂瀬商店」を拠点にしながら、全国の百貨店で展示会も行い、手編みのニット作品を発信し続けている。

 

 

四季を彩る山形の風物詩をコースターに乗せて

「ニット作品を身近に感じてもらいたい」と、県民なら誰でも分かる県土の形を使ったお土産品を開発した栂瀬さん。

一つ一つ手編みで作られた温かみのあるコースターです。

展開されている15種類のカラーは、「さくらんぼ色」、「ラ・フランス色」という定番色の他に「霞城公園の桜色」、「最上川舟下り色」、「板そば色」など、山形の四季を彩る風物詩がテーマになっています。

 

贈り手が思い浮かべる「山形の景色」を添えて、プレゼントできちゃうコースターなのです。

山形コースター写真③

(S-PAL山形2F“尚美堂”/山形市十日町“紅の蔵”で購入可能です)

 

「面白いと思われたものしか広がらない。そのためには自分自身が楽しんでいることが大切」という栂瀬さん。

山形市で開催される花笠まつりの期間中は、艶やかな衣装をイメージした色遣いにアレンジしたり、FIFAワールドカップ期間中は開催国版のコースターを編み図とともにネットで販売したり。

 

花笠コースター写真④

自身の遊び心満載のアイデアとともに、コースターの制作を楽しんでいるのです。

将来的にはお土産にとどまらず、山形の文化として根付いて「山形の人はみんな山形を編める日」がくることを夢見て活動を続けていると話してくれました。

 

 

プロを夢見たスポーツ少年が初めて経験した挫折

小学校から中学校まではサッカーに没頭。山形市の選抜に入るなど、運動神経への自信から、プロスポーツ選手を目指していました。当時はまだJリーグがなかったためサッカーは辞め、高校から野球部に。

始めたばかりにも関わらず、甲子園でメンバー入りという華やかな結果を残しますが、その裏にはたくさんの葛藤があったそう。

「監督や先輩と会話もできないような根性論だけの世界。練習では技術を磨くというよりも、怒られないようにどう時間を過ごすかばかりを考えていて。好きだったスポーツが楽しめなくなり、モヤモヤしていました」。

栂瀬さん写真⑤

野球推薦で大学へ進学するも、体育会系の独特な雰囲気に納得ができない日々。

声が小さいからノックさせてもらえないなど、ままならない練習ばかりで上達するわけもなく。

仲間がジャージで学校に来る中、一人スーツで練習場に向かうなど、反抗しながら野球を続ける生活に嫌気がさし、大学2年生の時に部活を辞めました。

その決断に両親は涙を流しながら猛反対。自分には野球しかないと思われているんだと悲しくなったそう。

半ば意地になって「野球じゃなくても、俺は違う人生でやっていけるはずだ」と自分の進む道を模索し始めました。

 

 

自分の好きなものが評価されるというやりがい

お兄さんの影響で元々、洋服が好きだった栂瀬さん。

「上京していた兄貴は、ストリートスナップに掲載されたり、周りの友達もみんなおしゃれだったり。自分も洋服に関心を持つことで憧れの兄貴に認めてもらいたい、というのが最初のきっかけかもしれません」。

関心を持ったのは、若者向けのファッションではなく、海外のコレクションなどハイファッション。

 

当然お店で手に入るわけもなく、「好きな服が着れないなら自分で作るのも面白そう」と思い、服飾の専門学校への進学を決めたのだとか。

ニットを専攻したのは、コレクションでニットを使ったドレスに惹かれたことと、機械化が進んでいた当時、その学校は手編みを学べる数少ない環境であり、特殊な技術を極められると思ったからでした。

編んでいる写真⑥

入学して、新しい技術の取得に夢中になっていると、イタリアの糸会社から作品づくりを依頼されるというチャンスが舞い込んできたのです。

結果、手編みの技術を使った作品は大好評で、イタリアでの展示会に招待されたそう。

「現地に行ったことで、世界的に手編みの技術は衰退しているのだと知りました。だからこそ、俺たちの技術でも通用するんじゃないかと可能性を感じて。卒業したらすぐ戻ってきます!と宣言して帰国しましたね(笑)」。

 

言葉通り、専門学校を卒業するとすぐにイタリアのフィレンツェへ。語学学校に通いながら制作を進め、自らブランドを立ち上げるとお店への売り込みを開始しました。

イタリアの人たちは自分の納得できるものを作って唯一無二を目指すことが当たり前で、俺も好きなものを作ることに没頭できたんです。お店の店員さんが「良い」と思ったらすぐ買い取ってくれるので、頑張り甲斐がありました。流行りの型や色であるかどうかで判断し、売れることが重要視される日本とは大きく違う世界だなと」。

 

 

一つ一つが再現不可能な、世界で唯一の作品たち

イタリアで生活を始めて3年が経った頃、ビザの更新のため日本へ帰国した栂瀬さん。

友人とサッカーをしていると、アキレス腱断裂というハプニングに見舞われ、治療のため山形に滞在することになりました。

「そういえば山形には何もないと決めつけて、飛び出してきたなあと思い返す機会になりました。イタリアの人たちの“故郷に誇りを持って生きる”という考えと自分を比べて、山形について自分の言葉で語れない恥ずかしさもあったし、ネットが普及した環境であれば場所を問わず世界に発信できるなと思って、このまま山形を拠点にしても面白いなと」。

 

そうして、イタリアに荷物を残したまま、山形での生活が再開し、現在に至るのです。

毛糸写真⑦

栂瀬さんの作品には、山辺町のニット工場で出たモヘアの残糸が使われています。

「残り糸というと良い印象を持ってもらえないのですが、使っているのは一流の立派な糸たちです」。

アパレルメーカーが山辺町の工場に生産を委託する際、糸は少し多めに発注されるため、年間数トンもの糸が余り、捨てられていたのだそう。そのことを知った栂瀬さんは、残り糸の買い付けを始めたといいます。

一般的には、細い糸を何本かねじり合わせて1本の糸として使用するそうなのですが、栂瀬さんの作品ではねじらずそのまま揃えて編んでいます。

そのため感触はふわっと柔らかく、軽やか。毛が長いモヘアの特徴により、ザクザク編んでも隙間が生じず、さらに間に空気が入ることで温かさが保たれるのだそう。

残糸は色の指定ができないことから、様々な色の糸が組み合わさり、全てが偶然生まれるグラデーションであるという面白さも。

また、栂瀬さんは同じ形の作品を作り続けることもこだわりを持っているのだとか。

 

「毎年、流行りの色や形に振り回されてばかりでは、技術が積み重なっていかない。どんどん新しいものが生まれるのは日本の良さでもあるのですが、消費のための生産を繰り返し、モノに溢れた現状への危険性も感じています」。

 

「10年、20年後にこの帽子の形は “MAKOTO TOGASE” だよね」と言ってもらえるように作品づくりを続けていきたいと話してくれました。

帽子写真⑧

 

 

お金には換算できない価値を提供できる仕事

栂瀬商店写真⑨

「SNS等を活用すれば、すぐに繋がれる時代。作家さんたちの交流が盛んになったらもっと面白いだろうなって」。

 

2014年から山形市蔵王半郷に「栂瀬商店」を構え、アトリエの一角を開放し、売り手がないと悩む作家さんたちへ場の提供を行い、イベントも開催しています。

 

プロペラ商店写真⑩

(可愛らしいデザインに一目惚れをし、筆者が購入したのは南陽市を拠点に活動する「ぷろぺら商店」さんのお椀)

山形を拠点にしてからも、利益を優先し売れ筋のニットを作る日々など、葛藤し悩んだ経験があるからこそ、作家同士の繋がりを生むことや、冒頭で紹介した山形コースターの活動にやりがいを感じているそう。

流行りや安さで“モノ”が売れる時代に、どうやって作り手の想いを届けるか」。

お金に換算できない価値を山形コースターに見出すべく、山形県の中山町では「中山コースターを作ろう」と題したワークショップを開催。商品をただ買ってもらうのではなく自分で作るという面白さを一緒に味わう場を提供しました。

 

今後は、他の地域や都道府県でもワークショップを実施したり、町報に編み方を載せて地域でコンテストをしたり、いずれはふるさと納税のお礼の品として渡しても面白そうと話します。

栂瀬さん写真⑪

「お金になるのがいい仕事という価値観にとらわれず、人に喜びや楽しさを与えられることにやりがいを感じながら、活動を続けていきたいです」。

 

(ライター:菅野 智佐)

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