まるで生活雑貨店に並ぶアートブックのようなこちらのカタログ。

ページに写し出されるのは、ペレットストーブのある暮らしの風景。

雪が降り積もる真っ白な朝も、室内は静謐なぬくもりで満たされている。そんな生活のなかの息づかいが、いくつかの写真と言葉から、親しみ深く聞こえてくるかのようです。

2011年の山形エクセレントデザイン賞も受賞したこのペレットストーブ「ほのか」を開発し、コンセプトづくりから販売までを一貫して行なっているのは、実は・・・。

 

こめ太郎

地方出身者ならきっとどこかで見かけたことがあるであろうコイン精米機「こめ太郎」を作っているメーカーなんです。

山形県天童市に本社をおく「山本製作所」は、全国シェア約30%を誇る農業用機械に特化したメーカー。

約200人の社員が働いている東根事業所(工場併設)では、2018年の創立100周年を目前に、このペレットストーブのような新たな開発プロジェクトも、日々着々と進行していました。

 

 

お客様とも社員とも、「顔が見える」仕組みをつくる

山本製作所の創業は1918年。越前漆器で有名な福井県に生まれた創業者の山本惣治郎が、漆の樹液を採るため精度が優れていた越前刃物の鎌を背中に背負い、家族を養うべく全国へ行商中に縁あって山形県に辿りつき、事業を開始。

戦後間もなく開発された切り落としカッタをはじめ、乾燥機や精米機、低温貯蔵庫といった専門的な農業用機械に特化して、次々と開発を進めてきました。

(画像をクリックすると、山本製作所製品案内ページへ飛びます)

 

「大手企業さんとは違って、弊社はそういった専門的な技術開発が中心。販路は北海道から沖縄まで全国に及びます。現在、全国でのシェアはおよそ30%。中小企業ですが、すべてをゼロから『つくる』仕事であることはやっぱり誇りですね」と話すのは、常務取締役の長岡和之さん。

山本製作所2

行商で「対面でまず品質をみてもらってよかったらお金を払ってもらう」という手法を取っていた創業者の教えから、山本製作所では、つくり手とお客様という「物」と「お金」だけを介した関係ではなく、『ファンをつくろう』という精神が脈々と受け継がれてきました。

ところがあるとき、顧客に対して満足度調査ならぬ「不満足度調査」を実施したところ、「山本製作所の『顔』が見えない」、という意見が寄せられたのだそうです。

「『山本製作所の乾燥機は知っているけれども、一体どんな会社なの?』と。ならば自分たちの会社やものづくりについて、もっと知っていただけるように自分たちから伝えていこうと。そうして始まったのが名刺の裏にも記載しているSPACE活動。私が責任者となってSPACE情報室を立ち上げ、それを伝える広報誌の発行も始めました。」

山本製作所3

ここから、山本製作所の「ブランディング」への取り組みがスタートしました。

2014年からは、長岡常務を含めた会社の有志のメンバーが山形県の朝日町で2年間開催された「あさひまちブランド大学」の講座でブランディングについて学んでいます。

山本製作所11

 

会社のブランディングに注力する理由は、顧客のためだけではありません。

「企業ブランドがしっかりしていれば、新たな技術を開発するにしても、機械をつくるにしても、営業で取引先をまわるにしても、社員みんなが楽しいじゃないですか」と、長岡さんは力を込めます。

 

社内の部署は、農機事業部とソリューション事業部とに分かれており、精米加工や環境関連の機器開発を行なっているのがソリューション事業部。営業部と技術部は事業部ごとにあり、さらに製造部、経営企画部とがあります。

新製品開発のための設計審査「デザイン・レビュー(DR)」をはじめ、技術者と営業、技術者と製造のスタッフのミーティングも頻繁に行なわれているそう。

 

「私が今所属している製造部では、立って打合せするためのホワイトボードもつくって通路脇に設置したりしている」という長岡さん。

よくよく聞くと実はそれ、乾燥機の部品で使わなくなった鉄板を再利用してつくったものなのだそうです。

「山形に来たら、やっぱりいろいろな場面で不足があるかもしれないけれども、それをアイデアで補って楽しみたいですよね」

長岡さんは、自ら考えて動き働く「考働する人」を求めていると話しました。

 

 

社内大学を機に、山形の企業間交流を一層活発化させたい

朝日町の「あさひまちブランド大学」の講座受講をきっかけに、山本製作所では2016年4月から社内大学「Y・Y大学」がスタートしました。

山本製作所13

(社内大学の運営メンバー)

あさひまちブランド大学の講師、中小企業のブランディングを手がけている村尾隆介先生が「会社が輝くには社員が輝かなければならない。そして社員が輝くためには、何かを学んでいることが大切で、大企業などは自然に学べる仕組みとして「○○大学」というのを社内で立ち上げているから、やってみては?」と講義で話されていたのを聞いて、『じゃあやっちゃおう!』となったのが始まりだそう。

 

Y・Y大学は、名称通り「わいわい」と学ぶための場所。

 

目的は、社員一人ひとりが「挑戦すること」です。毎月1回の講義を受けて、実際に体を動かすなかから、主体的に学ぶ楽しさや気持ちの変化を体感すること。講師を社内外から招きながら、毎回異なるテーマを設定しています。自由参加ですが、平均して20人ほどの社員が参加しています。

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社内大学の講義は、そこで学び、カタチにすることで、「こんな社員になってほしい」という「社員生活ビジョン(企業人・趣味人・家庭人・地域人・地球人)」の実現にもつながるような内容になっています。

例えば、4月の「人生をとことん楽しむためのポジティブ・シンキングに挑戦!」は企業人カテゴリー、5月の「夢をかなえるマネープランとファイナンシャルプランニングに挑戦!」は家庭人といった感じです。

「趣味人」水を楽しむ。カヌーを楽しむ。に挑戦!というカテゴリでは、常務の長岡さんも参加し、カヌー大会にも出場してしまったんだとか。

山本製作所9

四季折々の自然のなかで遊びを楽しむエピソードと、”山形に来たら、やっぱりいろいろな場面で不足があるかもしれないけれども、それをアイデアで補って楽しみたい”と話されていた長岡さんのその言葉とが重なります。

 

 

「いいね!」と思ったことをカタチにしてみる。

社内大学の立ち上げに、当初から参加しているのが、ソリューション事業部でグループリーダーを務める正成隼人(まさなり・はやと)さん。

山本製作所12

「どんなに小さなことでもいいので、継続的な学びのきっかけづくりを大切にしています。例えば、英語の講義のあとに英会話教室に通い始めた人がいたり、マネープランの講義のあとに『株を買ってみた』という人がいましたね。

こうしたことの積み重ねで、やる気のある優秀な人がどっさり集まるような会社の体質をつくっていきたいんです」と語ります。

他社から講義を見学しに来る人も最近はいるのだそうで、「これからは山形の他の企業とのつながりをもっともっと増やしていきたいですね。講師に来てもらったり、こちらからも出かけて行ったり。少しずつそういった動きも出てきているので、山形の地域全体を、もっと盛り上げたいです」。

山本製作所6

そんな山形盛り上げへの想いを語る正成さんは、実はIターン組。

以前は京都にある自動販売機などを扱う商社兼メーカーで営業ツールの制作をしたり、製品に関する営業マン向けの研修をしたりして全国をまわっていたそうですが、会社の都合で大規模に希望退職者を募ることになったとき、当時31歳だった正成さんは、転職を決意したそうです。

「でも、いざ転職活動を開始してみると、年齢と異業種の壁は厚く高く立ちはだかりましたね」。

そんな最中に、3年以上のあいだ取引先としてやりとりし、会社の雰囲気を見知っていた山本製作所から、「一緒に仕事しようよ」と声をかけてもらったと言います。自分の人となりを知ったうえで声をかけてくれたうれしさと、さらには会社の評定もよく安心できることから、正成さんは山本製作所を転職先に選び、山形へと移住しました。

 

「実際に働いてみていいなあと思うのは、家庭を大事にしなさいという文化が社内にあるので、休みが取りやすいことですね。お盆など、長い休暇があることも魅力ですし。あとは転職組や山形県外出身者も多いので、自分のような転職してきた立場でも決してデメリットにならない社風があるなあと感じます」。

事実、正成さんは入社5年で環境グループのリーダーとして任されるように。冒頭に紹介したペレットストーブのコンセプトづくりやディレクションをチームの中心となって進めてきました。

山本製作所5

ペレットストーブの開発においては、デザイン精度を高めて一般家庭で受け入れられる商品を目指し、イメージのビジュアルカットを集めたり、ターゲットを示す言葉を絞り込んでいったり、広報の女性社員などもチームに加わりながら、約8カ月の時間をかけてコンセプトを詰めていったそう。

「こういうのはやっぱりおもしろかったですね。

企業筋ではなく一般家庭へ向けた商品のブランドづくりだったので、会社としても一皮剥ける絶好の機会だと感じましたし、自分にとっても大いなる挑戦でした」と正成さん。

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社内での説得には苦労したそうですが、応援してくれる上司にも助けられ「熱意で押し切りました」と笑います。

2016年10月からは、家電量販店でも取り扱いがスタートしました。

 

 

考えながら働いてきた経験は、転職後にもすべて活きる

農機事業部の技術部で農機の設計を行なっている長濱健一郎(ながはま・けんいちろう)さんは、以前は自動車の部品をつくる関東の会社で、技術者として働いていました。

その頃、山形出身の今の奥さまと出会い、結婚を機に奥さまの実家のある川西町へIターン。長濱さんは大学院の機械科を修了されてからずっと機械設計に携わっていたため、村山地域で自身のスキルを活かせる求人がないかどうかと探していたところ、山本製作所の募集情報にめぐり合ったそう。

山本製作所4

「以前の会社では、人件費を節減する自動化ラインで組み立て可能な設計であることや、ひとつの製品を短時間で安くつくれることなどが重要条件として求められていました。当時は部品会社に所属し、メーカーが顧客でしたが、今度はメーカーとして製品を作り、作ったものがダイレクトにお客様に届きます。

求められるのは、「安く早く」というよりも「顧客ごとのニーズにあわせてオーダーメイドで作ること」。形状の制限がありませんので、むしろ加工が難しい形状もお客様から求められますね。

そういった違いに最初は戸惑いましたが、今はやりがいを感じながら学ばせてもらっています」

 

逆に、前職での経験が活かされているのはどんなときかと尋ねると、「設計においては基礎的なことすべてが役立っていますね」と長濱さん。

「例えば、ねじを1本締めるにしても、ねじには『固定する』という機能があるわけですね。では『固定する際にはどういった故障がありうるのか』ということを考えるのですが、この場合の故障は、『緩む』か『破損する』かのどちらか。ではなぜ緩んだり破損したりするかと問うと、軸力が最適でなかったり、強度が足りなかったりするわけですね。

ではどうしてそれらが足りなくなるかといったら、ねじ部の長さが足りないとか、ねじを回転させる力の『締付けトルク』が足りないのではないか、と。そういったふうに常に考えながら前職でも設計していたのですが、こういった基本は機械設計全般において変わらないものなので、前職の経験があってよかったなあと思います」

山本製作所8

長濱さんは今、農業用乾燥機の設計を担当していています。

「入社して2年ですが、農機の主力商品を担当させてもらっていることも非常にやりがいがあります。つくるもののスケールもこれまでとは違うので、設計していてやっぱりうれしさがあるなあって感じますね」と笑顔。

 

山形で子どもも生まれ、休日はお子さんと一緒に出かけることも多いそうです。

「1歳半で今ちょうどおもしろい時期なので、子どもといつも遊んでいますね。車に乗せてよくドライブにも出かけるのですが、トラックが通るたびに『トラクター!』と叫ぶんですよ(笑)せっかく山形にいるので、大きくなったらスキーや釣りなども一緒に楽しみたいなと思っています」

 

 

 

社員全員にチャンスのある「世界一周プレゼント」

山本製作所には社員なら誰もが応募できるユニークな企画があります。

それは、なんと「世界一周プレゼント」!

応募者は旅のテーマを社内でプレゼンし、選ばれた優秀者2名に、世界一周チケットと日当1万円(!)が授与されるのだとか。

第1回目のプレゼンで見事チケットを勝ち取ったのは、経営企画部・広報グループのグループリーダーである矢口貢(やぐち・みつぐ)さん。

山本製作所7

矢口さんは、国民総幸福量(GNH)という考え方を提唱したブータンをはじめ、世界幸福度ランキング上位国をめぐり、その国民は果たして本当に幸せなのかを見に行く旅のプランを発表。26日間でブータンをはじめ9カ国をひとりで旅してまわりました。

「実は、出発の朝は気が重くて、行きたくないなあなんて弱気になっていたんです。ですが、『こんなチャンス二度とないんだから行っておいでよ!』と妻が背中を押してくれて、踏み出すことができましたね。どの国でも人の親切が身に沁みましたし、何よりやっぱり度胸がつきます」と矢口さん。

正成さんも「今年はぜひ応募したいなと狙っている」のだそうです。

 

 

取材後記

世界一周の旅を社員にプレゼントするというのは、きっと山形でも山本製作所だけ。

話のなかから、

地道でコツコツ丁寧に、をベースに、

”自然へ出かけ、旅に出かけて、よく遊ぶことを日々楽しもう。”

という山本製作所に漂うものづくり精神が、鮮やかに、浮かび上がってきました。

 

企業情報

株式会社 山本製作所

 

※この記事は、東北経済産業局「平成28年度東北地域中小企業・小規模事業者人材確保支援等事業((2)事業)」の一環で制作しました。

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