地方への移住を考える時、まず真っ先に考えるのは、「しごと」のことではないでしょうか。暮らしの中で、避けては通れない大きな問題です。やりがいを持って働ける職場に出会えるだろうか、子育てしながらでも働ける環境だろうか……などなど、悩む気持ちはごもっとも。

ただ、求める仕事がないのであれば、「しごとをつくる」という方法もあります。

「起業」というとハードルが高く感じるかもしれませんが、好きなことや、特技、趣味を活かした小さなソーシャルビジネスだったらどうでしょうか。

そしてそれが、まちづくりにつながるとしたら……?

そんな実践者たちが集まるイベントが東京都内で6月に開かれました。

題して「しごとづくりはまちづくり」!

さて、どういうことなのでしょうか。

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「3万円ビジネス」「ナリワイ起業」とは……?

イベントを主催したのは、「3ビズ・ナリワイプラットホーム準備会」。

全国で「月3万円ビジネス」や「ナリワイ起業」を行っている団体の集まりを立ち上げることを目ざしています。 中心は、鶴岡ナリワイプロジェクト(山形)・と、「わたしたちの月3万円ビジネス」(埼玉)の2団体です。

「月3万円ビジネス」とは、発明家の藤村靖之さんが提唱したアイディアです。月3万円を稼ぐ小さなビジネスゆえに一般の競争原理の外にあるので、糸口はいろんなところにあります。1つのビジネスの収入は3万円でも、副業ならぬ「複業」化することで、生活に必要なだけの収入を生み出す――というものです。

 

「ナリワイ起業」は、「月3万円ビジネス」の考え方をベースにしたもので、好きなこと、得意なことで身近な困りごとを解決する小さなソーシャルビジネスのことをいいます。誰かの「困った」を解決するために自分の好きを活かす。 だから、どうやったら売れる→誰の役に立てるだろう? という発想で考えます。

 

藤村さんの『月3万円ビジネス』についてはこちら↓

月3万円ビジネス

 

 

 

「ちょっと田舎」の杉戸町に起こった変化

「わたしたちの月3万円ビジネス」を運営する団体「choinaca」の矢口真紀さんは、以前は広告代理店で国内外のイベントプロデュースに携わっていました。

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(choinaca代表の矢口真紀さん)

しかし、過重労働ややりがいといった点に疑問を持ったことから、「人生を変えたい!」と会社を辞め、埼玉県杉戸町にUターン。藤村氏による「月3万円ビジネス」の講座を受講したことをきっかけに、「何もない」と思っていた地元の可能性に気づいたといいます。

そこで、中学時代の同級生とともに2014年、「choinaca」を設立。3ビズ講座の実施や、杉戸町や、隣の幸手市の人たちが出店する「しあわせすぎマルシェ」も開催。マルシェは講座の受講生らの実践の場にもなっているそうです。

ちなみに、「choinaca」の名前は、杉戸町が東京駅から1時間ちょっと、という「ちょっと田舎」にあることに由来します。

 

「専従消費者」から「生産者」「表現者」そして「投資者」に 

矢口さんによると、杉戸町の人たちの多くが買い物をする場は、県内他市にある、大型ショッピングセンター。しかし、それではいくらお金を使っても、地元は潤いません。

ところが、3ビズ講座の卒業生たちには、顕著な変化が現れ始めたといいます。

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 矢口真紀さん

「3ビズを始めると、お金をめぐる立ち位置が変わる。以前は、『専業消費者』でしかなかったのが、商品を生み出す『生産者』になり、イラストレーターやフォトグラファーなどの『表現者』にもなりました」

 

講座の卒業生はいまや100人以上。卒業生同士がそれぞれの「3ビズ」のよさをみとめあい、「買う」という行為を通して互いの「投資者」にもなっているそうです。

 

矢口真紀さん

「『どうせ買うなら、顔を知っている人から』――そんな感覚をつかむためには、地域でしごとをつくっていくしかない。つまり、『しごとづくりはまちづくり』なんです」

 

ただし、課題も一つ。こうした思いを持って「3ビズ」に取り組む矢口さんらに対して、まちの従来の経済の中で生きる「おじさん」連中からは、「どうせ“ままごと”だろう」などと揶揄されることもあったといいます。そんな冷ややかな目線は受け流しつつ、矢口さんは言います。

「地域の課題を『自分ごと』にする人を増やしていくことで、仕事は生まれていきます」

 

 

鶴岡で誕生 「こけしから宇宙まで」多彩なナリワイ

山形からは、「鶴岡ナリワイプロジェクト」の井東敬子さんが登場しました。

 

「鶴岡ナリワイプロジェクト」は、藤村さんを鶴岡に招いての講演会をきっかけにして、2015年にスタートしました。卒業生は50人近くにまで増えました。生まれた「ナリワイ」は、井東さんいわく「こけしから宇宙まで」、実に多彩なものになったそうです。

2017年には、ナリワイプロジェクトの修了生らによるグループ「ナリワイALLIANCE」も誕生。仲間同士の結びつきも強めています。

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(鶴岡ナリワイプロジェクト代表の井東敬子さん)

 

ナリワイ起業 三つのポイント

井東さんは、ナリワイ起業のポイントとして、三つを挙げます。

1つ目は「小さく」。小ささはビジネスの始めやすさにつながりますし、ダメだった場合はすぐに方向転換することができる、というメリットがあるといいます。

2つ目は「仲間と」。仲間と取り組むことには、先の矢口さんによるお話の中でも登場した「ままごと」という批判にも効果的だといいます。特に、鶴岡のような田舎では、起業する、女性が何か新しいことを始める――といったことに対して風当たりが強いもの。1人ではなく集団化し、「センターのいないAKB」のようにすることで、受け流していくことができると井東さんはいいます。

最後は「実践から学ぶ」。講座の中では、思う存分失敗すること。まずは「お客さま2人」という少人数から始め、チャレンジすることの大切さを説いています。

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「技術を持った便利屋」として復業化  周囲に伝える「好きなこと」「できること」

「わたしたちの月3万円ビジネス」や、鶴岡ナリワイプロジェクトのメンバーらが、実践例を報告しました。

鶴岡ナリワイプロジェクトからは、稲田瑛乃さんが登壇。稲田さんはある日はイベントでコーヒーを販売したり、ある日は行政からの依頼を受けて、写真を撮ったり、ある日は森林の管理を任されたり……と、さまざまなことをナリワイとしています。

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(稲田瑛乃さん。こけしを作るのもナリワイの一つ)

 

兵庫県出身の稲田さんは、山形大学農学部への進学を機に鶴岡へ。大学院修了後、地元漁協や旅館での勤務を経て、「フリー」になりました。その道を選んだのは、「手に職があれば生きていけるのでは」と考えたことに加え、あふれ出る好奇心を満たすためでもありました。朝起きて天気が良ければ山に登ろう、と考えるし、「今日、あそこでこんなおもしろいことがあるよ」と教えられれば、行ってみたくなる――。「動きたい時に動ける自分でありたい」という思いを叶えてくれるのが、「フリー」という道でした。

複数のナリワイを抱えるコツは、「こんなことできます」「これが好きです」ということを、日頃から周囲に伝えておくこと。そうすることで、さまざまな方面から依頼が舞い込み、毎月十数万円の収入をコンスタントに得ることができているといいます。

「便利屋だけど、その人にしか頼めないもの」――そんなスタンスが、複数のナリワイで暮らしていくポイントになりそうです。

 

 

「私の肩書きは『つめる人』」 

この日、会場の参加者たちの注目を集めたのは、「わたしたちの月3万円ビジネス」の受講生だった、山﨑純子さん。「曲げわっぱ」に魅せられ、それを「ナリワイ」としています。

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「つめる人」として活動する山﨑純子さん

 

主婦である山﨑さんはある日、曲げわっぱに一目ぼれして購入。毎日、自分用の「お弁当」を作るのを楽しんでそうです。そんな中で3ビズに出会い、イベントでは曲げわっぱにつめた弁当を販売しました。弁当は完売し、「大成功」に終わった……はずでしたが、山﨑さんの胸中は複雑でした。

自分自身のキャパを超えた数を販売したこと、自分の希望する値段よりも、低く抑えて販売せざるをえなかったこと……。仲間からほめられればほめられるほど、モヤモヤは濃くなっていきました。そしてたどり着いた答えが

 

「私は弁当屋さんになりたいわけじゃない。曲げわっぱで私が感じた幸せを、みんなにも感じてほしい」

 

ということでした。そんな思いを経た今、山崎さんが名乗る肩書きは「つめる人」。曲げわっぱへの「つめ方」のワークショップを開いたり、自分のキャパの範囲内でケータリングを行ったりしています。

 

山﨑さんのお話は、「好き」を突き詰めて考えること、そして何より自分自身が楽しみながらやることの大切さを、考えさせられるエピソードでした。

http://sanbiz.jp/shops/magewappabento/

 

 

「ままごと批判」を一蹴  ままごととは「メシを食うプロセスだ!」

さて、「ままごと」という批判に対しては、この日の特別ゲスト、社会学者で、立教大学教授の荻原なつ子さんはこう指摘しました。

 

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(社会学者で立教大学教授の荻原なつ子さん)

「ままごと」とは漢字で書くと「飯事」。つまり、「メシ」のことなんです。メシを食うというプロセスを、好きなことでやれたら、すてきなことですよね。

 

メシを食う――。

そんな人間の生活には欠かせない行為に、いかに取り組んで行くのか。それはその人の生き方そのものです。どうせなら、自分が好きなことで、自己肯定感を持ってやりたいもの。

ナリワイは、自分の力で作り出すことができる。実践者たちの話からは、そのヒントが詰まっていました。

 

60人の定員は、あっという間に満員に!

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この参加者の中から、また新たな「ナリワイ」が生まれるかもしれません。

読者のみなさんの中からも、『ナリワイ』的なアクションが生まれるかも?

 

鶴岡ナリワイプロジェクト

わたしたちの月3万円ビジネス

山形ナリワイプロジェクト

 

ライター:八木みどり

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