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  • 【新庄市】ライターのスキルを生かし、地元企業の魅力を輝かせたい 麦角社・渡辺悠樹さん 山形仕事図鑑 #138

千葉県出身で、バーテンダーや校正、食肉卸売業など、首都圏での多彩な職業経験を持つ渡辺悠樹さんは、東日本大震災をきっかけに山形県新庄市へ移住しました。現在は、山形に拠点を置くクリエイティブ制作会社・麦角社の経営者として、記事制作から、地元農家と協力して定期的に開催するマルシェの運営まで、幅広く活躍しています。さらに2024年8月からは、地元の中小企業を支援するブランディング事業「B-Wright(ブライト)」をスタート。移住者だからこそ感じられる山形の課題と魅力、そして未来について話を聞きました。(取材・執筆:岩崎 尚美)

農業への憧れ胸に、妻の地元・山形へ移住

――千葉県に生まれ慶應義塾大学を卒業後、紆余曲折を経て現在は新庄市でライター業をメインに活動していらっしゃいます。とてもユニークな経歴をお持ちですよね。

元は作家志望で、大学の授業もあまり出ず、小説ばかり読んでいました。卒業後、「人間をもっと知りたい」と思い、バーテンダーを経験しました。お酒を飲むと、人間の本質が見えやすくなりますから。

――小説執筆のための勉強だったのですか。

そうですね。人と話す経験が成長につながると考えました。その後、校正のアルバイトや食肉卸業でも働いてみましたが、東日本大震災をきっかけに妻が「地元の山形に帰りたい」と言うようになって。ちょうどその頃、都会の労働環境に息苦しさを感じていて、地方で生き方を変えるのもおもしろいかもしれないとの思いもあり、移住を決めました。

――移住後は、まず地域おこし協力隊として働き始めたんですよね。きっかけは?

農業に興味があったところ、新庄市で農業分野の協力隊を募集しているのを知って「やってみようかな」と。任期中は、農業体験イベントの企画運営や商品開発、補助金の管理など、事務局の仕事全般を担当していました。

移住して感じた3つのギャップ

――渡辺さんは都会での生活が長かったですよね。地方に移住してみて、何かギャップを感じましたか?

大きく3つのギャップを感じました。まずは、地方には予想以上に優秀でバイタリティあふれる人が多いことです。「地域おこし協力隊」という名前には、「都会で得たスキルや知識を持った人が地方を助ける」というニュアンスがあると思いますが、実際に来てみると、「自分が協力するなんておこがましい」と感じるほどでした。

地方を支援するには、まず自分の役割をしっかり見極めて、謙虚に取り組む必要があると痛感しました。

――地方で活動している人たちにとって、とても励みになるお話ですね。2つ目のギャップは何でしょう?

経済活動、つまりお金に関する感覚の違いです。私はよくこれを「OS(オペレーティングシステム)が違う」と表現しています。スマートフォンでいう、AndroidとiOSのようなものですね。

都市部では、お金さえ払えばとにかくさまざまなサービスを受けられます。一方、地方では都市部で受けられるようなサービスには限りがあります。その代わり、ご近所や地域の助け合いがその役割を果たしており、昔ながらの「互助システム」が今も息づいています。

ですから、都市部ではより良いサービスを受けるために働き、地方では人との関係を維持するために時間やお金といったコストをかけている、という違いを感じました。

――畑で採れた野菜のお裾分けなど、田舎ならではですよね。都会ではなかなか聞かないかもしれません。

そうですね。田舎に憧れて移住したけれど、人間関係に疲れて都会に戻るという話はよく聞きます。そういう人たちは、このOSの違いに気づかなかったのかもしれません。

――ちなみに渡辺さんは、最初からうまくやれていましたか?

妻の実家が飲食店を営んでいたので、ご近所の皆さんには最初から気を遣っていましたね。引っ越してすぐに挨拶回りをして、町内会にも入りました。何より、妻がお世話になった地元ですから、しっかりと関係を築きたいと思っていました。

――なるほど。ギャップの3つ目は?

行政の存在感がとても大きいことです。地方では、行政から民間へという仕事やお金の流れが目立つように感じます。ただ、地域の活性化には民間企業の力が必要ですし、実際に優秀で熱意ある方々はたくさんいます。

行政の皆さんには、いかに民間の力を引き出すかという発想でサポートする事業を進めていただきたいですね。

企業の魅力を引き出すブランディング事業「ブライト」

――地域おこし協力隊として農業に携わっていましたが、そこからライター業に進むことになったきっかけは何ですか?

協力隊時代に編集者の方と一緒に仕事をしていて、「渡辺さん、ライターできますよ」と言われたのがきっかけです。もともと文章を書くのが好きで、副業として少し書いていたこともあり、やってみたらクライアントさんから評価をいただけて、それを機にフリーライターとして独立しました。

――そこから事業が軌道に乗り、2021年に麦角社を設立されました。

主な事業内容は3つ。まずは医療、ビジネス、法律、農業などのジャンルを中心とした記事制作事業です。いわゆるライター業と聞いてイメージしやすい分野ですね。次にクリエイティブ制作事業。ホームページ、ロゴ、チラシなどの制作を手掛け、依頼に応じて当社のWEBデザイナーと協力しながらプロジェクトを進めています。そしてもう1つが、新サービスとなるブランディング事業「B-Wright(ブライト)」です。

――ブライトについて詳しく教えてください。

ブライトには、もちろんそのまま「輝く(bright)」という意味がありますが、加えて、B-Wrightの「B」には、Branding(ブランディング)、Business(ビジネス)、Brain(ブレイン=経営者の頭の中)などの意味も込められています。ヒアリングを通じて企業の理念や強みを言語化し、それをもとにブランディングを支援する事業です。

――他の事業との違いはなんですか?

記事制作やクリエイティブ制作でもヒアリングは行いますが、「ブライト」ではそのヒアリングをもとに、企業のブランディングに必要な要素を整理して基本設計図を作成します。基本設計図には、企業のキャッチコピー、コンセプト、競合他社との違い、ターゲットとなる顧客層(ペルソナ)などが含まれます。

――ブランディングに必要な要素を抽出して言語化し、まとめると。

はい。そして設計図にもとづいてホームページやパンフレット、SNSの発信内容など具体的な制作物を提案します。運用方法についても二人三脚でサポートし、企業が持つ価値を継続的に発信できるよう支援します。

――成果物を納品して終わりではなく、コンサルティングも含めた包括的なサービスなのですね。

そうですね。ヒアリングから制作、コンサルティングを含めたフルパッケージでの提供だけでなく、基本設計図の作成のみなど、予算やニーズに応じて部分的にサービスを利用することも可能です。

――なぜ「ブライト」を立ち上げようと思ったのでしょう。

これまで中小企業様のインタビュー取材を通じて、どの経営者様も熱意を持って仕事に取り組まれている姿を見てきましたが、それが社員さんや顧客に十分に伝わっていないと感じました。企業の魅力を適切に発信することで、人材確保や売上向上、社員のモチベーションアップにもっとつなげられると思ったのがきっかけです。

――「ブライト」は主にどのような企業に向けたサービスですか。

まずは山形県を中心とした東北の中小企業を考えています。経営者だけでなく幹部クラスや社員の方々、場合によっては取引先にも直接お会いしてお話を聞きたいと思っています。何より私自身、「東北の企業の力になりたい」という思いが強いですから。

「1社に1ライター」実現したい

――今後の展望をお聞かせください。

今やインターネットがインフラの一部となっている現代では、企業の特徴や強みを適切に表現してオンライン上に発信することが非常に重要です。しかし、東北の企業様の中には、まだそれが十分に行われていないところもあると感じます。解決策の1つとして「ブライト」を活用し、地元企業のすばらしい理念やサービスを広く発信してもらいたいと考えています。

――それがいずれ、企業の成長や発展につながるわけですね。

ライターが持つ言語化能力が、中小企業にとって大変役立つものであることを知ってもらいたいです。ライターのヒアリング力や言語化スキルは、企業の広報や思考の整理といった場面で非常に有用です。

最終的には、ライターを企業に派遣する、「1社に1ライター」のような事業が実現できたら嬉しいですね。そして、東北にライターを増やして、中小企業の言語化力と情報発信力の向上に貢献していきたいと思います。

――ありがとうございました。

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この記事を書いた人

合同会社麦角社

山形県を拠点に活動する制作会社。WEBコンテンツやWEBサイト等の制作、企業ブランディング、イベントサポートなどを行う。得意なジャンルは、医療...

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