こんにちは。やまらぼインターン生の岡崎です。
洋服が大好きな私は、最初は服は、「着るだけ」でしたが、徐々に「ファッションの歴史」や「どう作られているか」などにも興味を持ち始め、「山形には、『ファッション』が作られている現場がある」と知り、その現場を見たい、そして見たことを服に関心がある人へ伝えたい!と思うようになり、やまらぼインターンとして活動を開始。
大学3年生になりましたが、就職もアパレル業界や繊維業界に進みたいと思っています。
今回は、山辺町にある、米富繊維株式会社の大江社長にお話を伺い、工場も見学させて頂きました。
この記事では、米富繊維株式会社の魅力や、大江社長のファッションに対する考え方などを共有できたらうれしいです!
最後までお付き合いよろしくお願いします。
自社ブランド「COOHEM」も展開する米富繊維
米富繊維株式会社(以下、米富繊維)は、山形県山辺町にあるニット工場で、ここから世界へ山形のニットを発信しています。
ニットと一口に言ってもその種類は様々で、米富繊維が得意とするのは編み目の大きい「ローゲージ」と呼ばれるニット。網み目の小さいニットより編地のバリエーションが豊富なのが特徴です。ローゲージに特化した生産体制で、日夜新たなテキスタイル(生地のこと)を開発し続けています。
さらに細かく言うと、一般的な裁断・縫製による「縫製モノ」と呼ばれる作り方と、ニットを編んでいく段階で袖や胴のパーツを作り、合体させる「成型モノ」と呼ばれる作り方がありました。
(このように生地が編みあがるともう袖の形になっているんです!)
米富繊維ではOEM(他メーカーからの受注生産)のみならず、自社ブランドの展開にも力を入れており、中でも「COOHEM(コーヘン)」というブランドラインは、繊維工場ならではの個性豊かなテキスタイルとオシャレなディティールの洋服ばかりです!ぜひ一度、COOHEM(コーヘン)の素敵な洋服たちをご覧ください!
(画像をクリックすると、COOHEM(コーヘン)のページに移動します)
私個人としては、初めて間近で目にした縫製工場の現場にドキドキが止まりませんでした。特に編み機で実際に生地を作っている様子を見ることができたのが、服好きとしては最高でした(笑)。
「日常はアイデアの源泉」大江社長にインタビュー
さて、そんな米富繊維を率いていらっしゃるのが大江社長です。工場見学のあとにたくさんお話を聞かせていただきました!
大江健さん
山形県出身。高校までを山形で過ごし大学から上京。卒業後に専門学校へ再入学したのち、東京のセレクトショップに就職し販売員として働く。その後、山形へ戻り、先代社長である父から米富繊維株式会社を受け継ぎ、3代目社長に就任。現在は、自社ブランドCOOHEM(コーヘン)で社長自らディレクターも務める。
Q.新しい商品のアイデアはどのようにして思いつかれますか?
大江:僕はもともと服屋さんを見るのが好きで、ユニクロや古着屋やセレクトショップなどもですが、山形はそんなに服屋さんがないので、リサイクルショップの古着コーナーなんかもよく見ますよ。そこで服を見たり買ったりするときなど、普段の生活の中から新しい商品が思いつくことがあります。あと、弊社はニット工場なので、洋服に使う糸を選ぶところから始まります。ですから糸屋さんの提案を受けてやってみることもありますよ。愛知県の一宮市が糸の産地なんですが、そこまで出張したときにご提案をいただいたり、別注の糸を作っていただいたりする中で、新しいものが生まれてきます。
(アイデアの出し方は)いろいろだと思いますよ。ただ、僕がこの業界にいて、いつも思うのは、デザイナーの勉強をしていなくても売れているデザイナーはたくさんいるんです。大学卒業後に服飾系の専門学校や海外のファッションスクールなどに行くのがセオリーですけど、今はスタイリストが「ディレクター」を務めたり、プレス(広告系)の方がブランドを始めるみたいな、いわば横から入ってきてブランドをやる方が非常に増えてきています。もちろんそういう場合は、ブランドを開くまでに普通より、覚えなければならないことがたくさんありますけど、僕のような販売員からブランドを始めるなんて人もたくさんいますよ。
岡崎:たしかに私が知っているデザイナーにも心当たりがありますね。
大江:本当にいろいろなんですよ。弊社でも新卒で入社して、はじめは現場で働いていた社員の子が、現在はウィメンズのデザイナーをやっていますし。今は小売りからデザイナーへ行こうが、工場から行こうが、僕は関係ないと思いますよ。このプロセスじゃないとデザイナーになれないなんてことはない、という感じがしていますね。
コンセプトや新事業は、展示会などの場で直接人と会って話している中で思いついてくることが多いと思います。新しい売り方やブランドを立ち上げたいという思いは、いろいろなものを見ていて出てきますね。
何か気になることがあったとき、それを服に置き換えてみたらどんなことができるのかなーとか。そのためにファッション雑誌だけじゃなくて、一般の経済新聞なんかにも目を通します。SNSなんかも含めて、なんとなくみんなが言い出していることから、時代の流れを感じ取っています。
とはいえ、一人でひたすら頑張るタイプが合っている人もいますし、いろいろですよ。僕は人と話していて、「あの人も同じことを言っていたなー」とか考えているうちに、もしかしたら山形でも通用するのではないかと考えていくことが多いですね。
岡崎:なるほど、日常の些細なことでも自分ならどうするだろうって置き換えて考えてみるのが大事なんですね。
デザイナーからディレクターの時代へ
岡崎:先ほど、ディレクターという言葉が出てきて気になったのですが、最近のデザイナーではなくディレクターという言葉が主流になってきているのはどのような経緯があると思いますか?
大江:カメラマンやスタイリスト、グラフィックデザイナーなど、本業ではない方がデザイナーとは名乗らずにブランドをやっているから、というのもあると思いますが、商品のデザインだけじゃなくて、発表の仕方や誰とどのようにやっていくのかまで考えるようになったので、ディレクターと名乗っているところがあると思いますよ。僕自身も商品を手掛けてはいますが、山形のどこを借りてどのようなイベントを開くか、SNSをどう運用するかなど、作って売るところまで全部考えていて、かかわる度合いとしては非常に範囲が広いですし。
そういう意味でのディレクターじゃないですかね。
編み方、売り方、どれを取っても流行
岡崎:編み方と着心地には関係がありますか?
大江:目をきつく編むことを「度詰め」と言って、詰めた分生地が固くなり素材にハリが出ます。もちろん、糸をたくさん使うから生地が重くなって、軽くてふわっとした質感にはなりにくく、固くて丈夫になり、洗っていけば柔らかくなるなどの理屈があるので、編み方で着心地は変わってきます。最近は、度詰めで作ることのほうが多くなってきていて、その背景には服が家庭で洗濯できるように作られ、ある程度経年変化にも耐えられるようにし、長持ちさせようとしている流れがあると思いますよ。
岡崎:お店に行って服を見るときに、ニットで度詰めのものだと「経年変化が楽しめますよ!」と店員さんからセールスされることがよくありましたが、あれは商品を作る側的には、経年変化に耐えられるように、より頑丈なものを求めていた背景があったということですか?
大江:アパレル業界は、今年はこれが新しいという売り出し方をしていて、半年後には180度違うことを言うこともありましたが、それが最近うまくいかなくなってきています。情報が少ない時代であれば、「著名なデザイナー、テレビ、雑誌が言うから正しい」でモノが売れていましたが、今の若い人たちは雑誌、テレビをあまり見ませんし、気になったデザイナーがいればSNSをフォローしてその人について知れますよね。そうなってくるとこれまでの予定調和は見透かされてしまうと思うんです。テレビを見なくなった理由もそこなんじゃないかと思うほどに。
自分で作ったものを否定して新しいものを作ることは業種柄あるけど、消費者はもう最新ばかりを求めなくなってきていますし、壊して新しいものを買わせるより、「弊社の商品を買っていただければ、長く着るためにいくらでもサポートします!」っていう姿勢を見せたほうが、うちの製品を買ってくれるんじゃないかと最近は思っています。
岡崎:海外の大手ブランドが春夏、秋冬で行われていた年2回のコレクションをやらなくなってきているのもそのような背景があるのですか?
大江:そうだと思います。卸売りとかはしないで自社のみで販売する循環だったら、コロナ禍で在庫が半分残ってしまったから来期は生産量を半分にして、足りない分を補うなんてやり方ができますから。中には変える必要のない商品もありますし。
ただ、どちらが正しいかというのは難しい問題で、商品をずっと変えないと飽きられてしまうから、絶妙なタイミングで新色、新型をリリースしてみることは必要だと思いますよ。弊社のTHISISASWEATERだと、まだ2型しかなくて、さらに年に1型リリースするくらいの開発ペースでやってるので、同じ商品でも飽きさせない売り方を試しています。まだ答えは出ていませんが、去年(2年目)はよく売れました。
今年(3年目)も同じ2型で販売する予定ですけど、サイズ切れの対策や、試着機会を増やすなどの改善くらいはやる、業界が全体的にこうなっていくのかなって感じがしてますね。
ニットをより楽しく、より自由に!
Q.大江社長が影響を受けたブランドを教えてください!
大江:服屋になったと同時に憧れた人は、ユナイテッドアローズ創設メンバーの栗野宏文さんです。最近は『モード後の世界』という本をお書きになっていましたが、とても面白いので是非読んでみてください。雑誌にたびたび出ていて、パリコレの総評とか、現代を読み解くような記事にメンズ、ウィメンズ問わず出ていらっしゃいます。雑誌に出てくる栗野さんの着こなしをよくマネしていました。
現在はご縁があって弊社のTHISISASWEATERの商品を、栗野さんが手掛けていらっしゃる原宿のDistrict UNITED ARROWS(以下District)で取り扱っていただいています。栗野さんがDistrictを創設したときは、ニットコーナーでnorikoikeというブランドが展開されていました。norikoikeの製品は長らく弊社のOEMで作っていたことを父親から聞いたので、Districtへnorikoikeを見に行きました。それまでは、ニットと聞くとおじさん臭いものだと思っていたのですが、norikoikeの別注のニットを見て、こういうニットのデザインもアリなんだなと気づかされました。ほかにもいろいろなブランドの服を着ていましたが、なかでもnorikoikeにとても影響を受けましたよ。それが今のCOOHEM(コーヘン)などの自分で企画した商品に影響を与えていると思います。
メンズのニットというとどこのブランドも抑え目な色に、タイトめでベーシックな型ばかり作っているのですが、ちょっとした技術などでニットのデザインが楽しくなるんです。それをnorikoikeから学びました。これからは男とか女とか言っている場合じゃないですから。異性と服をシェアする機会も非常に増えていくと思いますし、そのようなアイデアが弊社の商品の随所に反映されています。
まずは実践でしょ!
Q.私(岡崎)にも服を売ることはできますか?また、これから始めるとしたら何から始めればいいでしょうか?
大江:僕はそもそも服屋を見ていてこの世界に入りたいと思い、東京の服屋に就職すると決めて、実際に働きました。その後山形に戻ってからは、社長になってブランドをやっていましたが、東京で働いていたころにそんなことは思いもしなかったし、東京にずっといるものだと思っていました。
東京で就職したお店は学生時代から通っていたお店だったので、とても働くことをイメージしやすかったけど、弊社のような工場はお店がないので、お店を開いてみたらなにかが変わってくるかもしれないと思っています。誰に対してもオープンな環境で、こういう商品を作っているのだと、学生さんにも感じ取ってもらいたいです。
専門学校で販売の講習を受け、販売員に就きましたが、就職するまでは学校のそういう授業を含め、販売があまり好きではなかったです。ただ、働いてみて思ったのは、それほど複雑ではないということです。好きなことをお客さんと共感する、共感してもらう仕事なので、今思うと販売はとても楽しい仕事でしたよ。
今、岡崎さんが学生としての時間が残されているのであれば、販売を経験してみるのは一つかもしれませんね。服屋でアルバイトしてみたらいいんじゃないですか。うちの新卒で入ってきた子もユニクロでバイトしたことがあると言っていましたし、「実際に現場で働いたいて生産に回りたくなった」という理由で弊社を志望してくれている方は結構多いですよ。大量の服が毎週のように値下げされて、売っても売っても新しいものが入ってくる環境より、自分たちの手で一つ一つ付加価値の高いものを扱うようになりたいと思ってくれた方もいました。さらに服のことをもっと知りたいのなら、古着屋のほうがいいかもしれません。古着屋では一つ一つの知識が求められますし、私もよく新しいことを教えてもらいます。そんな感じで働いてみたり、インターンに行ってみたりすることで、さわりだけでもファッションビジネスの様々な面が見られると思いますよ。
岡崎:確かに目標が決まっているならば、その目標により近い経験を積むことは大事ですよね。私も近いうちに何かできるように頑張ってみます!本日は、ありがとうございました!
まとめ
大江社長から貴重なお話をたくさんいただきました。『モード後の世界』を実際に読んでみましたが、大江社長の考え方と重なるところが多く、勉強になりました。トレンドに乗ってヒット商品を連発するのではなく、新たなトレンドを社会の潮流から生み出していくことこそが「ファッション」なのではないでしょうか。少なくとも私はそう思っています。
ファッションの世界に4年制大学卒業から飛び込んでいくことに不安を感じていましたが、今回の大江様のお話をお聞きして、視野をより広く持ち、いろいろな可能性を考えていこうと思いました。何より大江社長も4年制大学のご卒業でしたし、ファッションの世界は実力を示し続けていくことが経歴以上に大切だということを再確認できました!
いただいたパンフレットの中に大江社長の素敵な言葉が載っていましたので、その言葉で今回の記事を締めたいと思います。
最後になりますが、インタビューに答えていただいた大江社長、工場見学をさせていただいた工藤様をはじめ、米富繊維株式会社の皆様、ありがとうございました!
「今は着るものに困るような時代じゃない。
けれど洋服に出会って『感動』する瞬間、それはファッションが人を幸せにする瞬間。」大江 健
米富繊維株式会社のホームページ(こちらからオンラインストアにもアクセスできます!)https://www.yonetomi.co.jp/