東京で暮らしていた頃、山形県の海沿いの町(旧温海町)で育った現在の夫と出逢い、庄内の食文化に興味を持って移住したのが2010年。

 神奈川で22年、東京で約5年を過ごした都会育ちの私にとって、ここでの生活は初めて体験することばかり。

 山形は、食が豊かなだけじゃなく、人も環境も文化も多種多様。お金に頼る生活になる以前から育まれてきた、「生きるための知恵」に溢れているところでした。

 水を得た魚のように野生性を取り戻した夫や友人に連れられて、野に山に、海に川に。ここで都会で暮らしていたように暮らしていては、もったいない。山形を満喫しながらたくましく成長しています。

 

秋の山は、食べ物を採るために分け入るらしい

 庄内に来てからもうすぐ丸3年が経ちます。ついては季節の移ろいを3回経験したことになりますが、その中でもそわそわと夫が落ち着かなくなる時期というものがあり、ちょっと姿を消したと思ったらお山に入っていたりする(なぜかこっそり行きたがる)、それが春と秋の頃です。

 Uターン後、某有名イタリアンレストランで食材担当をしていた夫。庄内ではいつの頃に何が旬を迎えるかということを知り尽くし、自ら採集してくることも業務の一部だったために、食材に大変詳しくなりました。

 もとより幼少期からかなり釣りに親しんでおり、魚介についてはなんでそんなこと知っているのと驚嘆するくらいの知識(私が知らなすぎるということもありますが)を有していた夫。都会ではさして披露する機会がなかったのか、はたまた隠していたのか、庄内に来てから魚について雄弁に語るようになり、随所随所で歩く魚図鑑的な役割を果たしてくれています。それに加えて山や野の食べ物についての知識も体得したのですから、真にあっぱれですね。

 そんな彼も少し不得手とするのが、毎年食中毒者が発生して世間を騒がせる、きのこ。見た目での判断がとても難しいきのこは、山で見かけても容易に手を出すことができません。加えて春に採れる山菜にも言えることですが、山には所有権がありますので、見つけたからといってそれを勝手に持ち帰ることも出来ません。

 だからこそ憧れる、きのこ狩り。どなたかきのこ狩りに連れて行ってくれるきのこ狩人はいないものかと思っていたら、以前ヤマガタ未来ラボで取材をさせていただいたさくらんぼ農家でデザイナーの宮城妙さん(https://mirailab.info/archives/4499/)からお誘いを頂き、10月某日、きのこ狩りに行ってきました!

 仕事があり参加できず、涙を呑んで見送る夫。自分ばかりごめんねと言いながら、満面の笑みで地に足がつかない様子の私。

 

 当日は午後13時に集合し、いざ山へ。案内してくださったのは、妙さんのお父さんときのこに詳しい友人のおじさん。ぐいぐいとじゃり道を進んで行く軽トラを追うのは、妙さんご夫妻と私が乗ったワーゲン。鬱蒼とした山を駆けていく軽トラとワーゲンという組み合わせはなかなかないよなぁ、とひとりでこの境遇に胸を躍らせます。

 途中でアケビの実を発見して採集したりしながら、約30分で木々がうっそうと繁るきのこポイントに到着。

 この日の天気は曇りのち雨だったので、本格的に降り出す前に採集を終えようと、みな奮い立って山へ。腰に胴袋(どうふ)を巻き付けて散り散りに山に入りました。

 玄人チーム(妙さん父とご友人のおじさん)の身のこなしたるや俊敏かつ軽やかで、少し目を離した隙にもうあんなにも遠くへ!と驚いたのも束の間。すぐに姿が見えなくなり、素人の私たちはせっせと身の回りのきのこを集めます。

 最初は小さなきのこを見つけただけでわーわー騒いで採っていたけれど、大きいものや旨そうな獲物を見つけることができるようになると、小さなきのこを見つけても「あれはダメだな」と相手にしなくなるから人って勝手ですね。

 そうこうしているうちに雨が降り出して、そろそろ退散かと思い始めた頃、妙さんのお父さんの姿が見えません。結構奥まで行ったのかなぁと思い、「おとうさーん」、「おーい、そろそろ帰るぞ〜」と叫んでいたところ、思わぬ方角から返事が。なんと妙さん父、既に軽トラで帰り支度を整えているではないですか。

 いつの間に…!「おめがた(お前たち)そろそろ帰るぞー」と、何くわぬ顔で仰るお父さん、恐るべし。

 帰り道、庄内の伝統食のひとつである納豆汁に入れるきのこ「もだし」を少しだけ見つけて採集。

 里に戻り、妙さんのお母さんから保存方法も教えていただきました。たくさん採れる旬の食材は、保存方法とセットで身につける必要があります。自宅で実ったいちじくもご馳走になり、大満足で帰宅。

 夫にあけびと山のようなきのこを誇らしげに披露し、きのこはけんちんや素焼きにして頂きました。やっぱりおすすめのけんちんが一番美味しかったです。美味しすぎて瞬殺したため、写真がなくて申し訳ないです。

 きのこ、また来年も狩りに出かけたいと思います。今度は夫も一緒に。

 

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この記事を書いた人

佐野 陽子

1983年生まれ神奈川県出身。 早稲田大学商学部を卒業後、大手損害保険会社に勤務し丸の内OLを経験。 山形の在来作物とそこに関わる人々を描いた一...

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